もし、余命宣告をされた父親、母親のお腹には新たな命が。まだ胎児の状態ですが、父親は産まれてくるまで持ちそうにありません。父親は自分の財産の行方を考え遺言書を作成することにしました。生きている者に対しては当然遺言書上で記載出来ますが、胎児は産まれていないため問題になります。この記事では、遺言書でまだ生まれていない胎児への遺言について「物語風」に解説します。胎児に遺言を遺す場合について分かりやすく知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
私は泰司。まだ胎児です。いえ、ダジャレじゃないんです。
実はいま、母親のお腹の中から、こうして念を送ってメッセージをさせていただいています。
「お腹の中にいる胎児がしゃべれるわけないだろ」と思われるのはごもっとも。
私だってびっくりしてるんです。もっとも、意識が明確になったのは最近ですけど。
というのも、私は前世で行政書士をしていました。どうやらその頃の記憶を持ったまま、生まれてくることになったらしいんです。
前世の私は、行政書士として遺産相続をメインに扱っていましてね。老後も元気ではあったのですが、いわゆるピンピンコロリというやつで、眠るようにぽっくり逝ったかと思うと、ここ(胎内)にいたわけです。
まあ…現実なので受け入れるほかはないんですが、生まれ変わっても行政書士になりたいと思うほど前世が充実していただけに、ありがたい話でもあるのです。
今の父母は、堅実でとてもよい方たちなんですよね。赤ちゃんらしく、パパ、ママと呼びますが、特にパパはとても家族思いなのが伝わってきます。
ですが、残念ながら私はパパに会えそうにありません。重い病気になっているそうで、余命いくばくもなく…。
せめて私なりにパパに何かできること…親孝行したいところではあるのですが…。
目次
胎児にも相続権がある?
パパ「ねえ、ママ。もしこの子が生まれてきたら、泰司と名付けてくれないかな。安泰な人生を自らつかさどる、そういう意味でね」
ママ「いい名前ね。でも、あなただって、病気と最後まで戦ってほしいわ…」
パパ「もちろん。でも、もしもの時のために、いまいろいろ調べているところなんだ。例えば、胎児であっても遺産を残せるのか、とか」
ママ「それは気になるところね。まだ胎内にいても相続の対象になったりするのかしら?」
胎児であっても相続権は認められている
ママ、パパ、安心してください。お腹の中にいる胎児であっても相続権は認められていますから。
ママ「ん? いま何か言った?」
パパ「言ってないよ。なんでだい?」
あれっ、もしかして私が考えていることが…パパとママに通じるのかな? だとしたら、アドバイスできるかもしれない! それじゃ…
ママ「本来、法律上の大原則として胎児に権利能力は認められない…人の権利能力は出生によって認められると民法が規定してる…」
パパ「えっ、ママ、法律に詳しかったっけ?」
ママ「違うの、何か体の奥の方から声が聞こえてきて、そんなふうに言ってるの」
いいぞ! よし、まだまだ…!
パパ「要するに、出生前の状態である胎児に権利能力は認められないから、相続人として遺産を受け取る権利も認められない。けど、相続については例外的に権利義務を認めるってこと? というか…それ誰の声? 死んだおじいじゃんかい?」
ママ「…おじいちゃん、まだ生きてるし。でもなんだか懐かしいような、新しいような声…」
パパ「うーん」
さすがパパ、飲み込みが早い! もう少しで死なせるには惜しい人材だな。
パパ「でも、どうして例外があるのかな」
ママ「そもそも相続は血縁に従って親から子になされることが優先されているんだって」
胎児による相続を認める法律の趣旨
- 胎児は生まれてくる可能性が非常に高い
- 生まれた順番で兄弟間に差が生じてしまうのは不公平である
- 父親が亡くなった時に出生前だったということだけで胎児の相続を否定することは不当である
パパ「すごい、すごいぞ! まるでイタコみたいだ! これならテレビやYouTubeに出演して大儲けじゃないか! よし、来年は豪勢に海外旅行にいこう!」
ママ「あなた余命いくばくもなかったでしょ」
パパ「……」
胎児は死産では相続できない
パパ「ひとつ気になるんだけど、もし死産だったら、権利としてはどうなるんだろう? あ、あくまで架空のはなしだよ!」
ママ「死産だった場合には胎児に相続権は認められないんだって。生まれることが条件なんだって」
胎児が相続権を得るには全部露出すること
そうそう、ママ、いい調子。ちなみに、赤ちゃんが生まれた後、1週間でも1分でも、母体から胎児の体が全部露出して生存していた場合には相続権が認められるからね。
パパ「露出…」
ママ「あなた、何かミョーなこと考えてない?」
パパ「いやいや、その露出じゃないことはわかってる。それは犯罪だし!」
ママ「……」
パパ「えっと、つまり胎児の体が母体から全部出て、離れたという意味だもんね、そう、そうだと思ってるよもちろん…」
胎児への遺言書の書き方
うちのパパ、けっこうボロを出す人かもしれないな(笑) ところで、パパは胎児がいる場合の遺言書の書き方を知っているのかな?
ママ「…と、私の内なる声が言っているけど?」
パパ「えっ、何か違いがあるのかい?」
あるある、大ありだよ、パパ。遺言書を作成する際には、記載方法として、遺産を受け取る相手に間違いがないように『氏名』、『続柄』、『生年月日』といった基本的な情報を記載する必要があるのは知ってる?
ママ「知ってるって尋ねてる」
パパ「一応は」
でも胎児についてはまだ生まれていないため、氏名や生年月日といった基本情報を持ってないよね。
ママ「確かにそうね。そういうときには、『Aは、Aが有する〇〇(財産)を妻B(生年月日)が懐胎している胎児に相続させる』と書けばいいらしいよ」
パパ「『Aは、Aが有する〇〇をいずれ生まれてくる我が子に相続させる』というような内容じゃダメなんだね」
ママ「相続人となる胎児の特定がされていないため無効になっちゃうみたいだよ」
胎児は代襲相続や相続放棄ができるのか?
パパ「そういえばさ、以前、私の知り合いが代襲相続というものをしたらしいんだけど、胎児でもできるのかな?」
ママ「なに、それ?」
代襲相続というのはね、ママ、相続人の子が相続するという方法なんだよ。つまり、僕のおじいちゃんの相続人であるパパが、おじいちゃんより先に亡くなったとする。すると、おじいちゃんの遺産は、孫である僕も相続権を持てることになる仕組みなんだ。
ママ「なるほどね」
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胎児でも代襲相続や相続放棄を出来ると解する
民法上では、胎児については代襲相続できませんといった内容は読み取れないから、一応、代襲相続はできるという見方になるんだ。ちなみに、相続権が認められているぶん、相続放棄をする権利も胎児にはあると解することができるよ。
ママ「相続破棄をすることもできるんだって」
パパ「…君の中から聞こえてくる声の正体は何者なんだろうね…」
まあ、元行政書士だと言っても信じてもらえないよね(笑)
ママ「元行政書士だって。前世でそうだったみたいよ」
パパ「もしかして…泰司がそうなのかい? へえ、じゃあ泰司は将来行政書士試験合格は確定だな」
信じるのかい!(笑) そして、将来の心配もありがとう(笑)
パパ「相続放棄かあ。うちにはマイナスの遺産…借金とかはないから、泰司も放棄したりはしないだろうね」
まあ、僕が放棄するというよりは、ママが法定代理人として手続きをしなくちゃいけないんだけどね。なにせ僕は赤ちゃんだしね。
ママ「その場合はどうしたらいいの?」
僕の出生後に家庭裁判所へ相続放棄の申述をすればいいんだ。相続放棄は相続開始後3ヶ月以内にしなければいけないんだけど、胎児の場合には生まれてからでなければ手続きできないんだよね。その場合の起算点は『出生日から3ヶ月』なんだ。
ママ「出生後3ヵ月以内かあ…一番忙しいタイミングじゃない」
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胎児は遺産分割協議に参加できない
パパ「ようし、じゃあ泰司大先生に質問だ。胎児に認められていない相続の権利って何かあるのかい?」
あるとしたら遺産分割協議に参加できないってことかな。
胎児は相続人の一人だから相続権はある。でも民法では、人の権利義務は出生によって始まるという原則があるんだ。つまり、まだ出生してないから、相続以外の権利がないってことなんだよね。
じゃあ胎児抜きで遺産分割協議をしようということになりがちなんだけど、それも意味がないんだ。
ママ「なんだかややこしいわね」
そうだよね。遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるうえ、全員が「それでOK」と合意しなくちゃいけない。でもさすがに胎児にはお腹の中で合意って無理だよね。
ということは、胎児抜きでもできないし、胎児を入れて協議しても合意になんないから、やるだけ意味がないってことになっちゃうわけ。
そのためにも、遺言書を作成することで遺産分割協議をすることを回避できるの、手続きも複雑にならないで済むんだよ。
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胎児あての遺言書の作成は行政書士に相談を
ママ「もう頭がこんがらがっちゃうわ。そういう場合、誰に相談したらいいの?」
僕が成長してたら僕でいいんだけど、そうなるにはあと四半世紀はかかるかなあ。
パパ「じゃあ泰司が大きくなってから面倒を見てもらうことにしよう。パパ、頑張って病気と闘うよ。こんなおもしろい子の行く末を見守れないなんて、もったいなさすぎる」
なんだいパパ、そのモチベーション(笑) でも前向きになってくれるのは嬉しいことだよ。ありがとうね!
でも、パパ!遺言書を作るときは最寄りの行政書士へ相談してね!
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