「相続ってよく聞くけど、そもそも何?」
「相続に関し行政書士は何ができるの」
「相続で困ったときは誰に相談すればいいのかな」
相続って、わかっているようでよくわからないもの、ではないでしょうか。
また、相続について行政書士に相談できること、できないことも知っておくと、いざという時に役立つでしょう。
この記事では、行政書士と相続の関係について解説します
ちょっとある日の長岡行政書士事務所をのぞいてみましょう。
春は桜と出会いの季節、法律にかかわる仕事がしたくてやっとつかみ取ったこのチャンス、ドアの向こうには厳しくも優しい先輩方が待っている、さあ深呼吸をして・・・
バン!
長岡:「おお危ない、おや君は今日からの人? 今後ともよろしく、席はあそこに用意してあるよ、さあ今日もがんばろう!じゃ!」
ひまり:「え、私今日からお世話になる家永ひまりと申しまして」
・・・
行ってしまった。
社会人の洗礼を浴びて涙ぐむ新人、青森のお父さんこれまで生意気言ってごめんなさい・・・
すかさず優しそうな女性が寄り添ってくれる。
ヨーコ:「あら今日からの方ね、一緒に頑張りましょう。先生は忙しいだけ、お客さんの為に今日も走り回ってるのよ」
ひまり;「いきなり嫌われたかと・・・」
ヨーコ:「そんなわけないでしょ(笑)悪気はないから気にしないで。さて、今日は私が担当です。早速だけど相続に関して一緒に勉強しましょうか」
ひまり:「わかりました!」
目次
相続とは「包括的な」財産の継承
ヨーコ:「さて、相続って聞いてまず何をイメージする?」
ひまり:「いきなりお金がもらえる」
ヨーコ:「ストレートね(苦笑) ただ、相続は「包括的な」財産の継承、つまり金銭や預金のようなプラスの価値を持つ財産だけでなく、借金や負債のようなマイナスの財産を含めてすべてを継承する、ということなのよ」
ひまり:「亡くなった方の権利や義務そのまま引き継ぐということでしょうか」
(民法896条前段) 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
ヨーコ:「そのとおり、だから相続を円滑に進めるためにはその方の財産をきちんと把握しないといけないの。他にも財産を受け継ぐことのできる人を特定したりと、最初に範囲を明確にすることがとても大事なのよ。」
ひまり:「あとから借金が判明したら大騒ぎですものね」
ヨーコ;「そうそう。この財産を受け継ぐことのできる人のことは相続人というのだけど、この相続人についても色々と法律で取り決めがあるので改めて説明します」
財産の受け継ぎ方は単純承認・限定承認・相続放棄の3パターン
さて、財産の受け継ぎ方には以下3パターンがあります
- 単純承認
- 限定承認
- 相続放棄
単純承認
単純商人では、相続について特に限定をすること無く、被相続人の地位を全て相続します。
単純承認は相続をする際に最も多いパターンです。
単純承認の効果を生じる場合として多いのは、相続人が単純承認する意思を示したときと、相続人が「相続開始があることを知ったときから3ヶ月」を経過して何の意思表示もしない場合です。
よって、何もしないで放置しておくと単純承認したとみなされてしまいます。
また、相続財産の一部を処分したときや消費したり隠匿したり場合には、特に意思表示をしていなくても単純承認をしたものとして取り扱われることになります。
この他にも、悪意をもって相続財産目録に記載しなかった場合などもこれに該当します。
限定承認
限定承認とは、一定の範囲で相続をするという条件付きの承認のことです。
「相続財産を清算した結果プラスの財産が残る場合に相続をする」という場合が多く、この際も、「相続開始があったことを知った日から3ヶ月以内」に手続きを行う必要があります。
亡くなった方に借金があり相続してもマイナスになる可能性がある場合に利用されます。
相続放棄
相続放棄とは、相続をしないという意思表示をすることです。
相続財産は必ずしもプラスのものだけではなく借金や連帯保証なども対象となるため、こうした負の遺産を受け継ぐことを防ぐためになされることが多いです。
相続放棄も「相続開始があったことを知った日から3ヶ月以内」に相続放棄の意思表示をする必要があります。
ひまり:「わかりました。3か月以内というのが大切なタイミングなのですね。その為にも相続が発生したらすぐに財産を把握しないと、どうすべきか判断ができない可能性もあるのですね」
ヨーコ;「そのとおり。あと、この相続財産には一身専属性のあるものを除くから注意してね」
ひまり;「一身専属性・・・?」
(民法896条後段) ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
ヨーコ:「亡くなった方にのみ帰属する権利のことで、例えば年金受給権や生活保護受給権はその人のみを対象とするから、これらの権利を相続させたらおかしいでしょ」
ひまり:「そういうことですか、理解しました」
相続における死亡は法律上の死亡も含む
ヨーコ:「さて、相続はいつ開始されると思う?」
ひまり:「その方が亡くなられた日ですか?」
ヨーコ:「そう、死亡の日、つまり戸籍謄本上の死亡日がそれにあたるのだけど、相続における死亡は法律上の死亡も含むので失踪した場合も相続開始の原因となります」
(民法第30条1項) 不在者の生死が7年間明らかではないときは、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
ひまり:「法律上の死亡って、なんかピンとこないのですが・・・」
ヨーコ:「例えば船が難破したり天災によって行方不明となったケースがあげられるわね、また、行方不明となって7年たつと失踪宣告が出されて死亡したとみなされます。前者を特別失踪、後者を普通失踪といいます」
(民法第30条2項) 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去ったと1年間明らかでないときも、前項と同様とする。
ひまり:「失踪したままだと永遠に相続ができないから、法律上死亡したこととみなして相続する人の権利を守るのですね」
(民法第31条) 前条第1項の規定により失踪の宣告を受けたものは同項の期間が満了した時に、同条第2項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
相続に関して行政書士ができること
ヨーコ:「さて、新人さんは法律にかかわる士業には弁護士、司法書士、行政書士の3種類あることはご存知よね。この3つの違いはわかりますか?」
ひまり:「いえ・・・実はよくわかってなくて、前もって調べてみたのですが」
ヨーコ:「心配しないで(微笑)、ざっくり言うと弁護士は法律に関する業務のほぼすべてを行うことができて、司法書士は登記の専門家、行政書士は官公庁へ届け出る書類の作成が専門分野だと言えます。ただ、最近は行政書士の職能も広がりを見せ始めています」
ひまり:「そうなんですか・・・」
ヨーコ:「ゆっくりと理解してくれていいですよ。ただ、一番大切なのは困ってるお客様に寄り添い、窓口となり各専門家と連携し、二人三脚しながらゴールを目指すという姿勢なのではないでしょうか」
ひまり:「そっか! できる、できないの区別や専門用語をお客さんは聞きたいのではなくて、本当に必要なのは話を聞いてくれてわかり易い言葉で説明してくれる、そんな頼れる存在ですものね。さすが先輩です! あれ・・・後ろの壁に同じことが書いてあるような」
ヨーコ:「(咳払いして)、さて、時を戻しましょう」
相続に関して行政書士ができることは、主に次の7つの業務です。
- 遺言書作成のサポート
- 相続人の調査
- 相続関係説明図や法定相続情報一覧図の作成
- 遺産分割協議書の作成
- 財産目録の作成
- 金融機関での相続手続き
- 自動車の名義変更
遺言書作成のサポート
遺言書とは、生前に自分の財産について、誰に何を相続させたいかの意思を記した文書のことです。
自己流の遺言書は不備で無効となってしまったり、自分の意図とは違う内容になってしまったりとリスクがありますので、専門家のアドバイスによりそういったリスクを避けることが可能となります。
行政書士としては、依頼者の内容をヒアリングして、それを遺言書案としてまとめて下書きをし、公証役場との連絡調整も行うことで依頼者の方が迷わないように道筋を立てていきます。
ただし、遺言書の作成そのものは本人または公証人が行わなければなりません。
合わせて読みたい>>遺言書の書き方・方式・注意点を行政書士事務所の事例と共に解説!
相続人の調査
相続を受ける人を相続人といいますが、この相続の各種手続きを行うためにはまずは相続人が誰なのかを確定させなければなりません。
配偶者と子供が相続人となる場合には相続人調査は比較的簡単ですが、子供がいない場合、再婚している場合など誰が相続人なのかを確定させるのに時間がかかるケースがあります。
そのため戸籍謄本類を調査する必要がありますが、行政書士は戸籍の収集や読み取りに慣れているため短期間で調査を終えることができます。
相続関係説明図や法定相続情報一覧図の作成
上記相続人の調査の結果をもとにして確定した相続人一覧表が「相続関係説明図」です。
また、相続人を一覧表にしたものを戸籍一式などと一緒に法務局に提出し「法定相続情報一覧図」という法務局の認証入りの相続人一覧図を発行してもらうことができます。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書とは、相続人全員が話し合ってどの財産を誰が相続するかを決定し、その内容を記した文書のことです。
相続人同士で争いがない場合には、行政書士が遺産分割協議書を作成することができます。
相続では、遺産分割協議書の書面の完成が一つのハードルといえます。
合わせて読みたい>>遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説
財産目録の作成
財産の内容を調査して、それを一覧にしたものが財産目録です。
行政書士が財産目録を作ることで、形式の整った見やすい目録となり、相続人同士の話し合いがスムーズに進みやすくなります。
金融機関での相続手続き
相続が発生したことがわかると、金融機関は口座を凍結して引き下ろしなどができないようになります。
そのため、預貯金や有価証券などの解約や名義変更の手続きをする必要があります。
自動車の名義変更
相続財産の中に自動車がある場合、その自動車について相続人への名義変更が必要です。
相続に関し行政書士ができないこと
相続に関して行政書士ができない業務としては、次の6つが挙げられます。
- 相続税の申告
- 相続放棄の申述
- 遺産分割調停
- 相続人の代理人になって遺産分割協議に参加
- 相続登記
- 遺留分侵害額請求の調停や訴訟
相続税の申告
相続税の申告書作成は、税理士の独占業務であり、行政書士が行うことはできません。
また、相続税についての個別具体的な相談に乗ったり、申告書作成のアドバイスをすることもできません。
相続放棄の申述
相続放棄は、相続財産に借金など負の財産がある場合などに、自ら相続人の地位を手放す手続きです。
家庭裁判所に相続放棄申述書を提出し、受理される必要があります。
この相続放棄申述書については、行政書士が作成することはできません。
遺産分割調停
相続人同士の話し合いでは遺産の分け方について話がまとまらない場合に、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てを行います。
この遺産分割調停に行政書士が関与することはできません。
相続人の代理人になって遺産分割協議に参加
遺産をどのように分けるのかで相続人間で争いが起こってしまうこともあります。
行政書士が相続人の代理人になって他の相続人と交渉したり、仲裁したりすることはできません。
相続登記
相続財産に不動産がある場合に、不動産の名義を換える手続きが相続登記です。
不動産を含めた財産についての遺産分割協議書を作成することはできますが、それを使って行政書士が相続登記をすることはできません。
遺留分侵害額請求の調停や訴訟
遺留分(いりゅうぶん)とは、相続人が法律上最低限度保証される相続分の割合のことです。
たとえば、遺言書ですべての財産を子供Aだけに相続させるという内容だった場合には、他の相続人である子供Bや配偶者は、子供Aに対して遺留分を支払うように請求することができます。
行政書士ができるのは、請求する相手に内容証明郵便を作成するところまでです。
行政書士は相続について分かりやすく解説してくれる
相続はプラスの財産だけでなくマイナスの財産もあり、プラスだけ相続する、というわけにはいきません。
また、行政書士にできること、できないことはありますがお客様に寄り添い、窓口となり各種専門家と連携し一緒にゴールを目指すようなそんな存在に長岡行政書士事務所はなりたいと考えています(せっかく相談しても、専門用語を聞いて1時間いくら払ってさあどうしよう、ではなにも解決しませんよね)。
少しずつ相続のしくみがわかってきた新人ひまりですが、次回の法定相続人~配偶者と子供編も併せてご確認ください。