吾輩は猫である。
最近、吾輩の縄張りに新たな仲間が加わった。
なんでも吾輩の天敵ともいえる犬・ポチのご主人が亡くなり、遺言書とやらが見つかったという。
不思議なことに、ポチが「紙がしゃべりだした」などと言い出し、聞いてみると遺言書が本当にしゃべっており、吾輩は相談にのってやったのだ。
遺言書とやらについて吾輩は詳しくはない。そりゃそうだろう。猫なのだから。
まあ、しかし遺言書の主張をいろいろ聞いているうちに、世の中にはいろんな遺言書があり、それぞれにいろいろ不満があるようだとわかった。
今回は、そんな中のひとり…いや、1枚の遺言書の訴えを聞く羽目になった。まったく、吾輩も人がいい。
「おう、すまねえな。俺っちは遺言書の遺之助ってんだ。ったくよ、人間ってなあ、俺っちを書くんならきちんと書き方をふまえろってんでい。せっかく俺っちを書いても、使えなくちゃ生まれた意味がねえ」
まあ、吾輩が生まれた意味はとんとわからぬが、遺言書とやらは、人間の役に立つために生まれてきたわけだから、役に立たぬと言われてしまえば目も当てられぬ。
「しかもよ、銀行預貯金・株式なんて特に大事だろう? なのにいい加減に書くなんて、どんな料簡しやがってるんだい! そうだろう?」
ひとまず落ち着くがよい、遺之助とやら。いい加減に書いているわけではなく、書き方を知らないだけかもしれぬではないか。
なので、今回はちと、遺之助…いや、遺言書とやらが声を大にして言いたい「銀行預貯金・株式を相続させる遺言書の書き方」とやらを詳しく聞いてやろうと思う。
目次
一人の相続人にすべての預貯金等を相続させる遺言書の記載
遺之助「まずよ、相続の仕方は3つあるってことを踏まえてほしいんでい」
- 一人の相続人にすべての預貯金等を相続させる
- 複数の相続人に特定の金融機関の預貯金等を相続させる
- 複数の相続人にすべての金融機関の預貯金等を等分に相続させる
「一切の金融資産」と記載するなど3つの注意点がある
遺之助「ひとつひとつ詳しく話すから、耳かっぽじってよく聴きやがれい!」
遺之助「相続人は1人ってのが相場だから、遺言書の書き方は簡単だとか思っちゃいけねえ。すべての預貯金等を相続させるには3つの大事なポイントがあらあ!」
- 「一切の金融資産」と記載しておく
- 換価換金処分の旨記載しておく
- 「一切の債権」と記載しておく
遺之助「となると、この3つを落とし込んだら、次のような文言になるのがわかるかい?きっちり文の中に入っているだろう、べらぼうめ」
一人の相続人にすべての預貯金等を相続させる遺言書の具体的記載
第1条 遺言者が所有する下記の預貯金及び株式等含め一切の金融資産(←ポイント1)を換価換金処分した上(←ポイント2)、妻A(生年月日)に相続させる。
①甲銀行松支店に有する一切の債権(←ポイント3)
②乙証券武支店に有する一切の債権〇〇〇〇
ふむう。これは確かによくまとまっていると言えるな。だが、遺之助とやらよ、それぞれのポイントをなぜ入れるか、そこがわからぬと見落としがちになるのでは?
遺之助「あたりきしゃりきのこんこんちきよ!」
遺言書の記載①「一切の金融資産」とは?
遺之助「一切の金融資産ってのはよ、遺言作成時に把握している口座や株式について限定的に記載すんなってことよ。もし万が一書き忘れた金融資産が出てきたら、遺言によって指定されていない財産になっちまうだろ?」
そうか。そうなったら「これは遺言に指定されていないから、範囲外の資産だ」ということで、相続ができなくなるわけだな。
遺之助「おう、書き漏れた財産については法定相続人が遺産分割協議で相続することになっちまうってわけよ。遺産分割協議についてはこっちを読んでみてくんな」
なるほど。しかし金融資産が多岐にわたる場合は、書き漏らしの恐れも出てくるのではないか?
遺之助「すべての預貯金や株式などの金融資産を相続させたいなら、すべての金融資産を相続させるって記載をしておきゃ何の心配もねえぜ」
※上記ポイント1の説明です
合わせて読みたい:遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説
遺言書の記載②換価換金処分とは?
遺之助「次に大事なのは「換価換金処分した上」と記載しておくことよ! 株式については株式そのものを相続させるんじゃなくて、売却し現金化して相続させることができるってわけだ。それができりゃ苦労も減るってもんだ。貸金庫に金を所有していたってなときでも、現金化して相続させることができるんだから、書いておかねえ手はねえ」
※上記ポイント2の説明です
遺言書の記載③「一切の債権」について
遺之助「口座番号や口座種別を細かく記載する遺言書を見るが、そこまでする必要はねえ。「一切の債権」と記載しておくことで、一切合切ってことになるわけだからよ」
例えば総合口座の中に普通預金、定期預金、貯蓄預金などが含まれていた場合も、すべて相続させることができるというわけだな。
※上記ポイント3の説明です
複数の相続人に特定の金融機関の預貯金等を相続させるには?
遺之助「複数の相続人に、それぞれ指定した金融機関の預貯金等を相続させる場合には、さっきとはちょいと書き方が違うから注意しなきゃなんねえ。こっちの場合は、どの相続人に、どの口座の預金を相続させるのか具体的に書かねえとまずいことになっちまう。じゃ大事なポイントいくぜ。このパターンは2つあらあ」
どの口座の預金を相続させるのか具体的に書くことが大事
- 口座は細かく書きすぎない
- 財産の記載もれした金融資産があった場合の対策をたてておく
複数の相続人に特定の金融機関の預貯金等を相続させる遺言書の具体的記載
第1条 遺言者が有する甲銀行松支店に対する一切の債権を長男A(生年月日)に相続させる。←(ポイント1)
第2条 遺言者が有する乙証券会社竹支店に対する株式等の一切の債権を次男B(生年月日)に相続させる。
第3条 遺言者は、前二条を除く一切の金融資産について、次男Bに相続させる。(←ポイント2)
遺言書の記載①金融機関の口座は細かく書きすぎない
遺之助「特定の金融機関の預貯金等を相続させるときはよ、具体的な支店名や口座番号、口座種別を記載する方法があらあ。株式については、具体的な証券会社の口座番号や銘柄名、保有株式数などを記載する方法だな」
預貯金の場合はどうなるのだ?
遺之助「そこよ! 同じ口座番号に普通預金と定期預金がぴったんこに紐づいていることだってあるわけだろ? 同じ支店に、本人も忘れちまっている貯蓄預金や投資信託口座が開設されているなんてことも実際にあるのよ。証券会社についても、株式の他に国債を保有していた、なんてお大尽様もいたりすらあ」
ふむ。では、書き忘れた財産については、やはり法定相続や遺産分割協議による相続ということになるわけか?
遺之助「要するにな、口座を特定して相続させる場合でも、よほど細かく指定して相続させたいんじゃなけりゃ、各金融機関に有する「一切の債権」というような記載をした方が、書き忘れがなく希望通りの相続になるってわけよ。案外知られてねえんだぜ、これ」
「一切の債権」という記載の仕方は、なかなかに便利なものだな。もしかしたら、3つのパターンのどれでも使えるのではないか?
遺之助「さすが猫吉、わかってやがるじゃねえか! そんだけ賢けりゃ、そのうち猫又になれるぜ」
いや、吾輩は猫吉などという名前ではない。しかも妖怪になる前提では生きてはおらぬ…。
遺之助「口座番号や口座種別とかよ、通帳に記載されている内容はつい書いておきたくなってしまうのが人情ってもんよ。そりゃわかるぜ。でもよ、具体的に細かく書くことで、かえって遺言による相続から漏れちまったんじゃ、話にならねえ。気を付けるこったな!」
※上記ポイント1の説明です
遺言書の記載②財産の記載もれした金融資産があった場合の対策
遺之助「もしも書き忘れた金融資産があったとするだろ? それは遺言による相続はできなくなるので、先手を打つ必要があるわけだな。喧嘩も遺言も先手必勝でい、てやんでえ!」
吾輩は平和主義者ゆえに、喧嘩などしたくはないが、書いておくべき項目があるわけだな。
遺之助「おう! もしも他に金融資産があるなら、誰に相続させるのか、具体例の「第3条 遺言者は、前二条を除く一切の金融資産について、次男Bに相続させる。」ってなふうに記載しておくと、漏れがあっても受け皿ができるわけよ」
※上記ポイント2の説明です
複数の相続人にすべての金融機関の預貯金等を等分に相続させる方法
遺之助「兄弟姉妹とか複数の相続人に、被相続人が持っているすべての金融機関の預貯金とかを均等に分配するためには、次のことに気をつけなきゃならねえ」
- 「一切の金融資産」「換価換金処分」の文言を入れる
- 各相続人の持ち分を記載
- 「一切の債権」と記載
複数の相続人にすべての金融機関の預貯金等を等分に相続させる遺言書の具体的記載
第1条 遺言者が所有する下記の預貯金及び株式等を含め一切の金融資産を換価換金処分(←ポイント1)した上、長男A(生年月日)長女B(生年月日)次男C(生年月日)に各3分の1の割合で相続させる(←ポイント2)。
記
①甲銀行松支店に有する一切の債権(←ポイント3)
②乙銀行竹支店に有する一切の債権〇〇〇〇〇〇
③乙証券会社梅支店に有する一切の債権〇〇〇〇〇
遺言書の記載①「一切の金融資産」「換価換金処分」の文言を入れる
遺之助「これはさっきも猫吉が話した通り、「一切の金融資産」と書いておきゃ、遺言書に記載されなかった預貯金等の受け皿になるわけだ。そこに「換価換金処分」って文言をちょいと足してやりゃ、現金で等分できるようになるわけよ。3つめの「一切の債権」と記載するのも同じこった」
※上記ポイント1と3の説明です
遺言書の記載②各相続人の持ち分を記載
遺之助「各相続人に相続させたい割合はきっちり書いておかねえとな。このとき、それぞれ異なる持分とすることもできるぜ。ただし、さっきの具体文言では「長男A(生年月日)長女B(生年月日)次男C(生年月日)に各3分の1の割合で相続させる」という表現のように、全体の合計割合が1にならねえといけねえ」
人間世界のことはよくわからぬが、遺言書とやらががある場合には、法定相続や遺産分割協議に比べて必要書類が少なくて済むと聞いたことがある。
遺之助「おう、手続きにかかる負担がちいさいし、遺産分割協議とかでモメちまうようなことも起こりにくくならあ。もっとも、モメたら俺っちが飛び込んでいってやるがよ!」
※上記ポイント2の説明です
確実に遺言書で預貯金を相続させる記載方法は行政書士に相談を
遺之助とやらは紙の遺言書なのだから、人のもめごとに突っ込んでいっても破れてしまうだろう…」
遺之助「がはは、違えねえ! ま、預貯金等を相続させたい場合も遺言書を作成しておいてほしいのよ。んでよ、記載もれによって遺言書による相続ができない預貯金等が出てこないようにしてくれりゃ、俺っちとしてはもう何も言うことはねえ!」
遺言の中でも公正証書遺言とやらは、遺言者の口述をもとに公証人という法律の専門家が遺言書を作成してくれるのだそうだから、公正証書遺言という手もあるな。しかし、まずは吾輩の主が足しげく通っている、長岡とやらに相談してみるのは手っ取り早いかもしれぬ。
遺之助「ほう、横浜の行政書士さんかい? そりゃいいや。俺っちがよろしく言っていたと伝えておくんな!」
長岡とやらも、我が主だけでなく、遺言書そのものからもよろしくされるとは、なんとも忙しい限りだ。肩が凝ったら、吾輩が背中にのって踏んでやるから、いつでも言うがいい。
この記事を詳しく読みたい方はこちら:銀行預貯金・株式を相続させる遺言書の書き方を行政書士が具体的に紹介