「生前、父には借金があり相続するのが億劫だけど、父名義の実家には思い入れがあるし手元に残したい」
「相続することになったが負債や借金がいくらか分からない…」
「母の死後、財産より借金のほうが多いことが判明!でも相続放棄してほかの親族に迷惑かけたくない」
こんなお困りごとはありませんか?
大切な人が亡くなり相続することになったものの、蓋を開けてみれば資産より借金のほうが多かった…なんてこともありますよね。
こんなとき、手放してもいい資産ばかりであれば困りませんが、実家の持分や会社の株など中にはどうしても受け継ぎたいものもあるかと思います。
そういった『守りたい・受け継ぎたいプラスの財産』と『引き継ぎたくないマイナスの財産』が同時に発生してしまった場合、どんな相続方法を選ぶと良いのでしょうか。
目次
限定承認とは
そもそも相続方法には種類が3つあることをご存知でしょうか?
亡くなられた方(被相続人)の財産を残された方々(相続人)が受け継ぐ制度を相続といいますが、実はこの財産にはプラスのものだけでなくマイナスのものも含まれている可能性があるのです。
基本的に相続するとなると、不動産や会社の株などプラスの財産も借金や保証人といったマイナスの財産もすべてをひっくるめて引き継ぐことになります。
このような相続を『単純承認』といいます。
でも借金が多い場合だと、それらすべてを受け継ぐのは時として重荷になりかねませんよね。
そんなときに相続自体を辞めて、プラスの財産もマイナスの財産も引き継がないとすることを『相続放棄』といいます。
合わせて読みたい相続放棄とは?遺産相続で負債がある場合の対処法を行政書士が解説!
しかし、いくら借金が多いといっても、故人の財産の中に家や自社株などこれだけは受け継いでおきたいものが含まれている場合もあります。
あるいは、相続開始時には財産にプラスが多いのかマイナスが多いのか漠然としていてはっきりと分からないなんてことも起こり得ます。
こんなとき、プラスの財産を限度としてマイナスの財産を引き継ぐ・相続したい財産だけ相当額を支払って優先的に取得するための制度として『限定承認』というものがあります。
限定承認は相続人全員の同意が必要
相続人が複数いる場合、限定承認はその相続人全員での手続きが必要になります。
限定承認とは、いわば良いとこ取りの制度ともいえますので、相続する方々全員が納得の上で進めるということが前提となっています。
一人でも反対する相続人がいると限定承認の手続きはできません。
限定承認の期限は相続開始を知ってから3か月以内
限定承認はいつでもできるわけではなく、相続の開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ相続放棄する旨の申述書を提出しなければなりません。
そして特に手続きを取ることなくこの3か月を過ぎてしまうと、原則としてプラスの財産もマイナスの財産も相続すること(単純承認)になりますので注意が必要です。
限定承認と関連制度との違い
そもそも相続には『単純承認』・『限定承認』・『相続放棄』という3つの選択肢があると前述しましたが、相続が開始されると、基本的に相続人はこの3つの方法のいずれかを選択することになります。
単純承認
- プラスの財産もマイナスの財産もすべて無制限・無条件で引き継ぐ
限定承認
- マイナスの財産がある場合にプラスになる範囲内で引き継ぐ
- 相続人全員での申請が必要
相続放棄
- プラスの財産もマイナスの財産もすべて放棄する
- 相続人単独で申請可能
限定承認を必要とするケース
では実際にどのような場合にこの限定承認が有用なのでしょうか。
例として3つのケースを見ていきましょう。
債務はあるが引き継ぎたい特定の財産があるケース
例えば、実家の不動産があり、現にそこで済んでいるケースが挙げられます。
いくらマイナスの財産が多くても、思い入れのある実家などまでは手放したくないですよね。
限定承認をすることで実家だけでも相続できる可能性があります。
プラスの財産を上回らない範囲内で借金を引き継ぐ余力があるケース
自社株だけでも引き継ぎたい場合等の家族経営の会社に多いのが、今後の生活のためにも自社株だけは手元に残したいというこちらのケースです。
限定承認をすることでプラスの財産を上回る借金の弁済義務はなくなりますので、負債をすべて弁済するのは難しいが事業だけでも引き継ぎたいという場合に有用です。
相続財産がどのくらいあるかはっきりと分からないケース
相続が始まると3か月という短い期間で今後の方針を決めなければなりませんが、実際に故人の財産がどのくらいあるか、借金がいくらあるかなど詳細まで分かっている場合ばかりではありませんよね。
仮に分かっていたとしても、後から財産が判明するケースも起こり得ます。
ひとまず限定承認をしておくことで、たとえマイナスの財産が上回る状態だと後に判明しても、プラスの財産の範囲内でしか相続しなくて済むというメリットがあります。
ただし、いずれの場合においても多額の弁済金が発生する可能性も考えられますので、相続人間で話し合いの上、行政書士などの専門家に相談されることをおすすめします。
限定承認の流れ
では実際に限定承認をしたいと考えた場合、3か月という期間の中でどのような手続きを進めるのでしょうか?
- 相続財産の調査
- 添付書類(戸籍謄本など)の収集
- 限定承認申述書の作成
- 財産目録の作成
- 限定承認申述書を家庭裁判所へ提出
まず上記が3か月の期限内にしなければならない手続きになります。
その後、家庭裁判所から照会書が送付されますので記入して返送します。
そして家庭裁判所から限定承認申述受理通知書が届いた後に、官報に公告掲載されます。
債権者に個別に債権申出催告書が郵送され、債権者との精算行為開始となり、相続財産管理人が順に精算をしていくことになります。
相続財産管理人を知りたいかたは:相続財産管理人とは?相続人がいない場合の手続きの概要と注意点
限定承認の手続きに必要なもの
- 限定承認申述書
- 財産目録
- 被相続人が出生して死亡するまでのすべての戸籍書類
- 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
- 相続人全員の被相続人との関係が分かる戸籍書類
- 収入印紙
- 郵便切手
- (場合によってその他の追加資料)
限定承認の手続きできる場所
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
(例えば、最後に亡くなったのが横浜市港南区であれば横浜家庭裁判所に申立てを行う)
限定承認をする前にやってはいけないこと
期限である相続開始を知ったときから3か月を過ぎた場合以外にも、限定承認前に一定の行為をすると単純承認とみなされてしまい、限定承認ができないケースがあります。
民法921条1項 相続人が相続財産の一部もしくは全部を処分したとき
ここでいう処分というのは、被相続人(故人)の財産を売って現金化するなどの行為を指します。
民法921条3項 相続人が、限定承認又は相続の放棄をしたあとであっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき
つまりこれは、被相続人の財産を故意的に隠したり、勝手に消費したり、相続財産と知りながら財産目録に載せなかったりした場合を指します。
上記のようなケースでは、基本的に単純承認したものとみなされ、負債も含めてまるごと相続する形になります。
限定承認は相続人や専門家と話し合った上で慎重に
限定承認はマイナスの財産をプラスの財産の範囲内でしか引き継がなくて済むという大きなメリットがある反面、相続人全員が共同で家庭裁判所に申述する必要があり、単純承認や相続放棄に比べると手続きが複雑であったり必要書類が多かったり、一般のかたにとっては少し難しい相続方法でもあります。
手続きを進める上で正確な知識が求められ、また、短い期間も気にかけなければなりません。
ですが、上手く活用することができれば、残された方々にとって有用な形で大切な財産を相続できる画期的な制度です。
限りある期間の中で最善の相続方法を選ぶためにも、相続人同士での話し合いはもちろん、お早めに行政書士などの専門家に相談されることをおすすめします。