むかしむかし、あるところに三匹のこぶたがいました。
一番上の兄ぶたは石の家、弟ぶたは木の家、末っ子ぶたはワラの家を作って育ちましたが、大人になった兄弟ぶたたちは、それぞれの家をたたみ、たまに母ぶたのいる実家に帰っていました。
何度もしつこくやってくるオオカミには困りものですが、隣町に住む赤ずきんちゃんと漁師さんの協力と子どもたちの仕送りのおかげで、年老いた母ぶたは脅威におびえずに済む幸せな暮らしを営んでいました。
兄ぶた「こうしてたまには帰省して、みんなでごはんを食べるのが楽しみだよ」
弟ぶた「そうだね、でも母さん、いつも一人にしてごめんね」
母ぶた「あなたたちが活躍しているだけで嬉しいのよ。それに、たまにお赤ずきんちゃんたちが遊びにも来てくれるし」
ところが、しつこいオオカミは、凝りていません。母ぶたに土地を貸している地主さんに化けて、目の前に現れたのです。
目次
自己所有の建物の土地は借りている場合がある
オオカミ「どうもどうも、お宅に貸している土地のことだがね、あらかじめお伝えしなくてはいけないことがあると思ってねぇ…ヒッヒッヒ」
地主に化けたオオカミは、ぎょろりとした目を鈍く光らせて言いました。
オオカミ「今後、お母さんぶたに貸している土地の借地権は、相続したあとはちゃーんと返してもらいますからねえ、ヒヒヒッ。ですから兄弟ぶたさんたちは、お母さんぶたが亡くなった後は、帰る実家はありませんよぅ…」
母ぶた「そんな、この家には家族の思い出も詰まってるのに…」
オオカミ「そうそう、そうやって絶望にまみれた肉が一番美味しいんだぁぁ!」
オオカミが化けの皮をはいで、母ぶたに飛びかかろうとした、その時でした!
赤ずきん「また悪さをしようとしているのね! こりないオオカミね!」
オオカミ「げげっ、赤ずきんじゃないか…。ちくしょう、今日のところは勘弁してやらぁ」
間一髪のところで赤ずきんちゃんと漁師さんが駆け付け、オオカミは山へと逃げ帰っていきました。
母ぶた「またまた赤ずきんちゃんに助けられたね…ありがとう! でも困ったな、借地権のことは知らなかった。返さなくちゃいけないんだよね…」
借地権の相続に地主の承諾は必要?
赤ずきんちゃんは胸を張って言いました。
赤ずきん「あのオオカミの言っていることは、真っ赤なウソよ。安心してね」
母ぶた「そうなの?」
借地権は地主の承諾不要で相続できる
漁師「借地権は財産権の一種なんだずら。借主の死亡によって終了するという契約内容であれば話は別だけど、故人(被相続人)の遺産として相続の対象になるずら」
母ぶた「そういう契約はしていないわ。でも相続だからといってお金を払うようなことがあったりはしないの?」
赤ずきん「それなら大丈夫! 相続によって借地権が承継されるとき、地主の承諾はいらないし、譲渡承諾料(名義変更料)を支払う必要もないの」
借地権を相続したら地主に通知
漁師「土地の賃貸借契約書を書き換える必要もないずら。地主に対して「土地の賃借権(もしくは地上権)を相続により取得した」と通知するだけでいいずら」
母ぶた「ということは、オオカミに通知するの? 気が重いわ…」
弟ぶた「母さん、オオカミはそもそもニセモノの地主だよ?」
母ぶた「それもそうね。いやだわ、私ったら」
赤ずきん「もし「被相続人と一緒に住んでなかったので土地を返してほしい」という要求が地主からあったとしても、返す必要はないの」
末っ子ぶた「同居しているかどうかは関係ないってことだね。あれ? 母さん、浮かない顔して、それでも何か心配かい?」
母ぶた「そうねえ…。借地権というものに詳しくないからねぇ」
赤ずきん「お母さんぶたの心配はよくわかるわ。じゃ、これから借地権について、少し解説するわね!」
借地権を相続するうえで覚えておきたいことは?
赤ずきん「まずは、この7つのポイントをしっかりと覚えておいてね」
借地権の相続に関する代表的な7つのポイント
- 借地権を相続するタイミングで地主から立ち退き請求は原則できない
- 相続では地主から借地権の地代の値上げを原則請求できない
- 地主から名義変更料や更新料を求められない
- 相続した建物の増改築は原則地主の承諾が必要
- 住む予定がない借地上の建物を借地権ごと売却の場合は原則地主の承諾が必要
- 借地権の上に子名義の家を建てる場合は転貸の可能性がある
- 借地上の建物を買う場合の銀行ローンは地主の原則承諾が必要
漁師「まずは「1.借地権を相続するタイミングで地主から立ち退き請求は原則できない」についてずら。借地権を相続するタイミングで、地主から立ち退きを要求されるというケースは実際にあるずら」
赤ずきん「もっとも地主さんがいじわるをしているのではなく、一つの区切りとして土地の貸し借りを清算したいという心理が働くのね」
地主が立ち退きを請求するには法的な正当事由が必要
漁師「でも、地主が立ち退きを請求するには法的な正当事由が必要になるずら」
兄ぶた「正当事由?」
赤ずきん「例えば、こんなところね」
借地権の立ち退きに対する正当事由の例
- 地主が土地の使用を必要とする事情がある…地主が他に土地を所有しておらず、貸している土地に自分が住むための家を建てなくてはいけないなど
- 借地契約に関する従前の経過…地代の支払いの延滞や滞納、契約更新料の授受などの契約状態
- 土地の利用状況…借地人が建物を事業用として使用している場合(借地人の生活を守るためにはならなくなる)
- 地主が立ち退き条件として立ち退き料の支払いを申し出ている…地主側の正当性が認められるわけではないが、考慮対象となり得る
弟ぶた「要するに、土地を借りている側の生活などがちゃんと守られているわけだね」
赤ずきん「そういうこと!」
相続では地主から借地権の地代の値上げを原則請求できない
漁師「次に「2.の相続では地主から借地権の地代の値上げを原則請求できない」に行くずら」
母ぶた「値上げは困るわねえ…」
赤ずきん「借地権の相続はこれまでと同条件で継承するのが原則なの。だから相続が理由で地代の値上げに応じる必要はないのよ」
漁師「ただし、地主が値上げをできる例もあるずら」
借地権の増額を請求できる例(借地借家法第11条)
- 土地の固定資産税・都市計画税の増加があったとき
- 地価の上昇があったとき
- 近隣の似た土地における地代と比較して不相当に安い地代となっているとき
末っ子ぶた「でもさ、もし地主さんが値上げするといって聞かなかったらどうするの?」
赤ずきん「増額請求の可否はあくまで双方の合意のもとで決まるから、もし要求された金額に納得ができないのであれば、話し合いや調停になっていくわね。それでも決まらなければ訴訟という順序で最終的な地代が決まるわけ」
地主から名義変更料や更新料を求められない
漁師「でも、相続が理由で増額はできないから、何かほかの理由が必要になるずら。じゃ、次は「3.地主から名義変更料や更新料を求められない」に行くずら」
赤ずきん「相続時に地主から名義変更料(承諾料)もしくは借地権の更新料を支払ってほしいと要求されたらどうすればいいか、ってことね」
漁師「相続は譲渡にならないので、もちろん地主の承諾は必要ないし、名義変更料(承諾料)、借地権の更新料も支払わなくていいずら」
兄ぶた「でも、賃貸借契約書の名義を書き換えなきゃいけなくないんですか?」
赤ずきん「法的には必要ないけど、相続した際はできるだけ早い段階で書き換えたほうがいいのはいいわね。でもそれは、いずれ借地権を売却したいと考えた時に取引を滞りなく進めるためなの」
漁師「ここまでで何か質問はあるずらか?」
母ぶた「地主さんは地主さんで大変ねぇ…というくらいかしら」
赤ずきん「お母さん豚はやさしいですね。私、そういうところ、嫌いじゃないわ」
建物の増改築や借地権の売却をしたくなったら?
漁師「じゃ、後半戦いくずら。「4.相続した建物の増改築は原則地主の承諾が必要」というところずら。これは借地契約の内容によるずら」
相続した建物の増改築は原則地主の承諾が必要
弟ぶた「うちの借地契約書を見ると、地主の承諾なしに借地上の建物の建て替えを禁止し、建て替えなどをする場合には事前に地主の承諾を必要とするとあるけど?」
赤ずきん「それを「増改築禁止特約」いうのね。増改築禁止特約が定められて、かつ地主からの承諾が得られない場合には、承諾料などについて地主と交渉する必要があるの」
兄ぶた「ということは、相続を機に建物の増改築を進めるとかはできないんだね」
赤ずきん「そうね。トラブルを引き起こさないためにもまずは借地契約の内容をしっかりと理解することが大事なの」
住む予定がない借地上の建物を借地権ごと売却の場合は原則地主の承諾が必要
漁師「じゃ「5.住む予定がない借地上の建物を借地権ごと売却の場合は原則地主の承諾が必要」ずら」
赤ずきん「例えば、兄弟ぶたさんが、遠方に住んでいるまま、この実家を相続したらどうなると思う?」
末っ子ぶた「空き家になっちゃう…かな」
赤ずきん「そう。だから、借地上の建物も借地権と一緒に第三者へ売却することも可能なのよ」
兄ぶた「えっ、売れるの?」
漁師「借地権には地上権と賃貸権の2種類があって、そのどちらであるかによって変わるずら」
地上権:地主の承諾がなくても、建物を貸したり売却できる
賃貸借:地主の承諾がないと、建物を貸したり売却はできない
漁師「もし設定された借地権が賃借権であったら、地主の承諾が得られなければは、買主と話がまとまっていても地主により借地契約を解除されることもあるずら」
赤ずきん「どうしても借地権の売却を地主が承諾しないときは、借地借家法第19条により裁判所に地主の承諾に代わる許可を求めることもできるのよ」
借地権上に子名義の家を建てる場合は転貸の可能性がある
漁師「じゃ「6.借地権の上に子名義の家を建てる場合は転貸の可能性がある」に行くずら」
赤ずきん「借地権の上に子名義の家を建てる場合は転貸の可能性があるから、賃貸借の場合は地主の承諾が必要になるのね」
母ぶた「どういうことかしら?」
兄ぶた「つまり、いま、もう僕たちの家はないでしょ。でも、お母さんの借りている土地に、また新しく家を建てるときとかのことだね」
漁師「そうずら。借地権が賃貸借の場合は、借地権者と建物の名義が違うと転貸という状態になってしまうずら。その場合は、地主の承諾が必要になるずら。でも借地権が地上権の場合は特に承諾はいらないずら」
赤ずきん「注意したいのは、借地権が賃貸借である限り、たとえ親子関係であっても地主への承諾がいるってところよ」
漁師「例えば、借地権者であるお母さんぶたが、兄弟ぶたさんの名義で家を建てたり、借地の上に二世帯住宅を建築する(親子共有持分)とかね」
母ぶた「二世帯住宅は、夢だわね…」
借地上の建物を買う場合の銀行ローンは地主の原則承諾が必要
漁師「じゃ最後に「7.借地上の建物を買う場合の銀行ローンは地主の原則承諾が必要」の話をするずら」
母ぶた「参考までに聞いておきたいわね」
赤ずきん「家を買う場合はローンを組むことが一般的でしょ? 相続した借地上の建物を売却するとき、買い主が住宅ローンを組むためには地主の承諾が必要なのね」
漁師「金融機関も借地上の建物の場合は地主の承諾を求めてくるから注意が必要ずら」
借地権を相続した場合は行政書士等の専門家に相談
兄ぶた「ふへー、今日はいっぱい勉強になったな」
末っ子ぶた「母さんが困らないように、僕たちがもっと勉強しておかなくちゃね」
赤ずきん「困ったことがあったら、いつでも呼んでね」
借地権を相続し、地主からなにかしら契約変更や請求をされても焦る必要はありません。
借りているものは返さなくては・・・と思われるかもしれませんが、そこは大丈夫です!法律がありますから。
もしご不安に思われた方がおりましたら、遠慮なくご連絡ください。
詳しく読みたい方はこちら:借地権は相続できるの?代表的な7つの借地権相続に関する不安への回答!