相続人が海外にいる場合の遺言・相続対策とは?手続きや遺言内容を行政書士が解説

記事更新日:

「続・竹取物語に学ぶ!」海外(異国の地)に相続人がいる場合でも遺言書は書くべき?

相続人が海外にいる場合、相続手続きや遺言内容で注意するべきポイントがあることをご存知でしょうか。

この記事では相続人が海外にいる場合の遺言・相続対策について、「かぐや姫」の物語形式で分かりやすく解説します。

 

むかしむかし、あるところに竹取の翁ありけり。昔の言葉だと記述が大変になりけり。よって現代語訳で記します。

 

というわけで、おじいさんは、いつものように竹をとっていると、小さく光る竹を見つけました。

 

「なんだこれは? アイドルのライブで見るサイリウムみたいじゃのう?」

 

なんとびっくり、サイリ…ではなく、光る竹の中から、それこそアイドル並みにかわいい女の子が出てくるではありませんか!

 

「これはきっと子供がいない我が家に、神様が授けてくれた子に違いない」

 

女の子は「かぐや姫」と名付けられ、目の中に入れて振り回しても痛くないどころか、充血してでも目に入れておきたいほどに溺愛されました。

 

それからというもの、おじいさんが切った竹の中から小判がザクザク出てくるなど、「バンブーバブル」な現象が頻発。思いもよらない資産形成に成功したおじいさん一家は、大きな家を建てて暮らしていきました。

 

やがて、みるみるうちに美しく成長したかぐや姫のうわさがバズりにバズり、たくさんの男性が押し掛けるようになりました。でもかぐや姫は誰にも会いません。かぐや姫はそもそも結婚する気がなかったのです。

 

それでもあきらめきれない、しつこい5名の男性がいました。かぐや姫はナンパを振り払うような塩対応で、「私がお願いしたものを探し出してくれた男性と結婚いたしましょう」と告げました。

 

要するに「消え失せてね♡」というメッセージがたっぷり詰まった、都市伝説並みに真贋不明な依頼品でしたので、そもそも探し出せるわけがありません。

 

やがて、かぐや姫は、自分が月からやってきた異国のものであり、月の者であることを打ち明け、月へと帰って行ってしまったのです。おじいさんとおばあさんは、悲しみを抱えながらも、月にいるかぐやのことを思い、暮らしていたのでした。

 

それから数年後、おじいさんは体調を崩してしまい、寝込んでしまうようになりました。

 

「わしは、もう長くはないかもしれんのう」

「何を言っているんですか。月のかぐやが聞いたら、寂しがりますよ」

「かぐやか…離れていても、あの子には幸せになってほしいもんじゃ…」

 

おじいさんは、ふとひらめきました。

 

「もしわしらが旅立った後、かぐやが再び戻ってくるようなことがあるかもしれん。それなりのものを残してやれんものか」

 

おじいさんは、かぐや姫との出会いによってもたらされた財産を、姫に残してやりたいと考えたのです。

 

「でもおじいさん、かぐやは月にいるんですよ。相続手続きなんてできるのかしら?」

 

おばあさんの心配はごもっともです。そこでおじいさんは、花咲かじいさんが飼っていた犬であり、人間の姿になって行政書士を目指しているシロに相談することにしました。

遺言のご相談
LINE導線
お問い合わせフォーム
受付時間:平日9時-21時(土日祝予約制)メール・LINEは24時間受付
対応エリア:横浜市・神奈川県全域・東京23区

海外の相続人も遺産を相続できる

おじいさん「シロや、聞いたぞ。行政書士を目指しているんだってな。ちょっと相談に乗ってくれんか」

 

シロ「ぼくでよければ、いいですよ」

 

おじいさん「じつはかくかくしかじかでな。月にいるかぐやに、遺産を相続させたいんじゃ。そもそもそういうことはできるもんかのう?」

 

シロ「へえ、かぐやさんにねえ。そういえばかぐやさん、めちゃくちゃモテたらしいじゃないですか。ぼくもアピールすればよかったですよね、お義父さん」

 

おじいさん「…きみにお義父さんと呼ばれる筋合いはないがな」

 

シロ「あ、遺産相続の話でしたね。海外に相続人が住んでいる場合も、遺産相続できることにはできますね。相続人が海外…今回は、月でしたね、遠くに住んでいるからといって、相続人から外されることはありません」

 

おじいさん「そうか、では、何をどうすればいいんじゃ?」

 

シロ「日本国内にいる場合と同じ手続をする必要がありますね。まあお茶でも飲みながら解説しますよ。あ、ぼく、特製フラペチーノにしますが、おじいさんは粗茶でいいですか?」

 

おじいさん「…わしもそれ」

相続人が海外にいて遺言書がない場合の相続手続き

シロ「まず最初に教えてください。遺言書は書いてますか?」

 

おじいさん「いや、まだじゃのう。書いたほうがいいのかい?」

相続人が海外にいて、遺言書がない場合の相続手続きは次の流れで執行します。

  • 遺産分割協議をする(対面、電話、メールなど)
  • 遺産分割協議書を作成して海外に郵送する
  • 必要書類の取得と署名
  • 遺産分割協議書と証明書一式を返送

遺産分割協議をする(対面、電話、メールなど)

シロ「亡くなった方が遺言書を残していなかったら、遺産は一旦相続人全員の共有状態になるんですね。みんなの合意で分け方を決めるんです」

 

おじいさん「要するに話し合いをするわけじゃの?」

 

シロ「そうです。遺産分割協議といって、相続人全員で遺産を誰にどう分けるのかを、シロクロつくまで話し合います。ぼく、だけにね」

 

おじいさん「…かぐやは月に住んでいるんだが、遠い異国の地、例えば海外などでも遺産分割協議をすることになるのじゃな」

 

シロ「ええ、遺産分割協議は、相続人全員で行うのがルールです。ですから、まあ基本は対面、難しければ電話とかメールとか、オンラインミーティングとかですかね。あ、月ってどうやって連絡するんだろう? 携帯の基地局とかあるのかな」

 

おじいさん「…そのへんはわからんが、頭の中で話しかければ通じるとは言っていたな…」

 

シロ「それテレパシーですか? すごい! 通信革命ですよね! やってみたいなあ」

 

合わせて読みたい>>遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説

遺産分割協議とは?流れとポイントを行政書士が解説

遺産分割協議書を作成し、海外(異国)に郵送する

シロ「相続人全員の話し合いがまとまったら、遺産分割協議書を作成します。これには話し合いで決まった遺産分割の方法を記載し、相続人全員が署名・押印をします。だから海外にいる相続人に遺産分割協議書を郵送しなきゃいけないんだけど、月の場合はどうするんだろう」

 

おじいさん「…そのへんはわからんが、月から牛車で取りに来るんじゃないかのう?」

 

シロ「すごいですね! ●ーロン・●スクもびっくりの星間移動技術じゃないですか! では通信は問題ないとして、一応これらのことに気をつけておいてくださいね」

 

《 海外との間で書類をやりとりするときの注意点 》

  1. 日本から海外へ書類を郵送する際、日本郵便の国際郵便サービス「EMS」(国際スピード郵便)などを利用するのが一般的
  2. 受取人の住所、氏名、内容物名所を送り先で通用する言語で詳しく明瞭に記載する。送り先の国によっては、手書きの送り状では届かない場合がある(米国およびヨーロッパ等)
  3. この場合、事前に通関電子データを送信する必要がある。世界状況によりEMSが差出不可・停止となる国や地域がある
  4. 日本国内では20万円以下の荷物については通関の必要はないが、海外到着後は通関の手続きをとる。
  5. 相手国に荷物到着後は各国の郵便事業体が配達する。

 

シロ「特に4や5については、現地の職員が対応することになるんですよ。国によっては荷物について確認が必要な場合、相手と連絡がとれないと放っておくこともあるんです」

 

おじいさん「シビアじゃのう」

 

シロ「不在時や再配達の対応などについては、現地の郵便事業体の対応に委ねることになりますので、日本のサービスと同じだと思わないことですね。月がどうかは、知らないですが」

必要書類の取得と署名

おじいさん「郵送をできたとして、かぐやのほうが何をどうしたらいいんじゃ?」

 

シロ「海外、異国の地にいる相続人が準備するのは、この2つです」

 

  • サイン証明書(印鑑証明書の代わり):遺産分割の対象となっている財産が預貯金や不動産の場合
  • 在留証明書(住民票の代わり):遺産分割の対象となっている財産が不動産の場合

 

シロ「海外に住む相続人の場合、印鑑証明や住民票がありませんから、サイン証明や在留証明を用意してもらうことになります。あ、サインといってもアイドルのサインみたいなのじゃないですからね」

 

おじいさん「…わかっとるわ」

サイン証明書の取得(印鑑証明書の代わり)と署名

シロ「サイン証明の取得にあたっては、現地の日本大使館や日本総領事館などで発行してもらいます。サイン証明の種類は、割印(貼付)型と所定紙(単独)型というのがあるんです。手続きをするときに、どちらのサイン証明が必要か、事前に確認しておいてくださいね」

 

おじいさん「ふむふむ、なるほど。割印型と所定紙型はどう違うんじゃ?」

 

シロ「割印型は不動産登記の場合が多く、所定紙型は預貯金の解約手続きの場合などの金融機関での手続きが多いですね」

 

【割印(貼付)型】

  • 署名する書類(遺産分割協議書など)を持参して、在外公館が発行する証明書と綴り合せて割印を行う方法
  • 申請者本人が在外公館の担当官の前で遺産分割協議書にサイン(及び拇印)をする
  • 「署名・拇印したのは申請者本人です。職員が立ち会い、証明しました。」という証明書が協議書に貼り付けられる(なので貼付型)
  • 日本で発行される印鑑証明書のように色々な書類への使いまわしはできない
  • 書類のサインがたしかに申請者本人のものであるという証明力は強力

 

【所定紙(単独)型】

  • 日本の印鑑証明書のように申請した人の署名を単独で証明するもの(なので単独型)
  • 申請にあたって遺産分割協議書などの書類は必要なく、事前に取得しておける
  • 遺産分割協議書などのもともとの書類とは一本化されない
  • サイン証明書のサインと、遺産分割協議書などの書類のサインの筆跡が同じであることを、手続き先の職員が確認する

在留証明書の取得(住民票の代わり)

シロ「次に在留証明ですが、在留証明は、海外在住の相続人が、住民票の代わりに発行してもらう書類のことです。日本の在外公館でサイン証明と同時に申請して取得します。」

 

【在留証明の発行条件】

  • 日本国籍があること
  • 現地に3か月以上滞在し、申請時も居住していること

 

シロ「発行を受けるにはパスポートのほか、滞在期間と居住地が分かる書類が必要になります。」

遺産分割協議書と証明書一式を返送

シロ「書類がまとまったら、かぐやさんから遺産分割協議書と証明書一式を返送してもらうってわけですね」

 

おじいさん「ふむふむ、海外在住の相続人が遺産分割協議書にサインして、サイン証明と必要に応じて在留証明を取得して、書類を日本のわしに返送する、と。わかりやすいのう、シロや。さすがじゃのう」

 

シロ「いえいえ、これくらいは。遠い地とのやりとりは、けっこう時間がかかりますから、それまでにぽっくり逝かないでくださいね」

 

おじいさん「…言い方」

相続人が海外にいて遺言がある場合の相続手続き

シロ「でも、相続手続きをもっと簡単にできるやり方もあるんです」

 

おじいさん「ほう、どんなやり方じゃ?」

 

シロ「遺言書を書くんです。手続きを簡略化して、スムーズな相続手続ができるともっぱらの評判です。」

 

遺言書のポイントさえ押さえておけば、遺言執行者が遺言内容を実現してくれるので、遺産分割協議や海外との郵送やり取りは必要ありません。

海外に相続人がいる場合の遺言内容のポイント

ポイントはたった2つ。遺言執行者を指定しておくことと、遺産分割の内容を工夫することだけ。これならおじいさんでも余裕でしょ?」

 

おじいさん「…でも、って言うな。まあ、でもスムーズにいきやすいんならありがたい話じゃのう」

遺言書で遺言執行者を指定しておく

シロ「遺言執行者が遺言書で指定されていた場合、遺言に書かれている遺産分割の手続きは指定された遺言執行者が行います。つまり海外に相続人がいる場合、この遺言執行者については日本国内に住む他の相続人か、弁護士や行政書士などの専門家を指定しておくわけですね」

 

おじいさん「それはシロがやってくれんのか?」

 

シロ「ぼくはまだ見習いなので、いい行政書士を紹介しますよ」

 

おじいさん「遺言執行者はどんなことをするんじゃ?」

 

シロ「例えば海外在住の相続人が遺言によって預貯金を相続した場合、預貯金の解約手続きは遺言で指定された遺言執行者が行うんです。すると、相続人の印鑑証明は必要なくなります」

 

おじいさん「遺言執行者が解約手続きをし、相続人の預金口座に振込みまでしてくれるのか。だったら先のサイン証明をもいらないということになるわけじゃの」

 

シロ「ですです。また遺言書があれば、遺産分割協議書を郵送してサインするような書類のやりとりもないんですよ。海外に郵送する途中で書類無くしたりするような心配もないですしね」

 合わせて読みたい>>遺言執行者を指定する遺言書の書き方を行政書士が分かりやすく解説!

遺言執行者を指定する遺言書の書き方を行政書士が分かりやすく解説!

遺言書で遺産分割の内容を工夫する

おじいさん「さっき遺産分割の内容を工夫すると言っていたが、それはどうすればいいんじゃ?」

 

シロ「要するに相続手続きを考慮した遺産分割内容で、遺言を書いておくわけなんです。例えば相続財産が不動産だとするでしょ。あの他力本願で立てた大きな家ですね」

 

おじいさん「…放っとけ」

 

シロ「その場合は、相続登記の際に住民票に代わる在留証明がいるんです。それをとるのは大変なので、遺言書にこういうふうに書いておけばいいんですよ」

 

  • 不動産は日本国内に居住する相続人に相続させる
  • 預貯金は海外在住の相続人に相続させる

 

シロ「こう書かれた遺言書があれば、海外での証明書取得の手間は省けます。つまり、遠いところにいる相続人の負担を少なくしつつ、相続全体を安全でスムーズに進められるってわけですね」

相続人が海外にいる場合は遺言書は必須

おじいさん「そうか、だったら遺言書をしっかりと書かねばならんのう」

 

シロ「相続人全員が日本国内に住んでいても、相続手続きは大変だったりしますからね。遺言書、必須だと思いますよ」

 

おじいさん「ありやとうや、シロ。かぐやも喜んでくれるといいのう」

 

シロ「かぐやちゃんもきっと汲んでくれますよ、お義父さんの気持ち」

 

おじいさん「…娘はやらんぞ」

 

この記事を詳しく読みたい方はこちら:相談事例:海外に相続人がいる!そんなとき、遺言書があった方が良いって本当?

 
行政書士 長岡 真也
この記事の執筆・監修者:長岡 真也(行政書士)
神奈川県行政書士会所属(第12091446号)
遺言に関するお問い合わせ

初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。

ご相談はご来所のほか、Zoom等のオンラインでの相談も承っております。

お電話でのお問い合わせ

「遺言のホームページを見た」とお伝えください。

受付時間:平日9:00-21:00(土日祝予約制)
メールでのお問い合わせ

    初回相談は無料です。お気軽にご相談ください。ホームページからのご相談は24時間受け付けております。

    お問い合わせ種別必須

    プライバシーポリシー

    長岡行政書士事務所(以下「当事務所」といいます)が運営する「横浜で遺言の遺言を専門家が支援」(以下「当サイト」といいます)は、以下のとおり個人情報保護方針を定め、個人情報保護の仕組みを構築し、全従業員に個人情報保護の重要性の認識と取組みを徹底させることにより、個人情報の保護を推進致します。なお、本プライバシーポリシーにご同意いただける場合にのみ当サイトをご利用くださるようお願いいたします。ご利用された方は、本プライバシーポリシーの条件にご同意いただいたものとして取り扱いさせていただきます。

    個人情報の管理

    当事務所は、お客さまの個人情報を正確かつ最新の状態に保ち、個人情報への不正アクセス・紛失・破損・改ざん・漏洩などを防止するため、セキュリティシステムの維持・管理体制の整備・従業員教育の徹底等の必要な措置を講じ、安全対策を実施し個人情報の厳重な管理を行ないます。

    個人情報の利用目的

    お客さまからお預かりした個人情報は、当事務所からのご連絡や業務のご案内やご質問に対する回答として電子メールや資料のご送付に利用いたします。利用目的は主に以下に定めるものに限ります。

    • 行政書士法に定められた業務及びそれに付帯する業務を行うため

    • 当サイトを通じたサービスの提供

    • 当サイトの品質向上とそれに基づくお客様の声の実施

    • その他、当事務所の業務の適切かつ円滑な遂行

    個人情報の第三者への開示・提供の禁止

    当事務所は、お客さまよりお預かりした個人情報を適切に管理し、次のいずれかに該当する場合を除き、個人情報を第三者に開示いたしません。

    1. お客さまの同意がある場合

    2. お客さまが希望されるサービスを行なうために当事務所業務を委託する業者に対して開示する場合

    3. 法令に基づき開示することが必要である場合

    個人情報の安全対策

    当事務所は、個人情報の正確性及び安全性確保のために、セキュリティに万全の対策を講じています。また、当事務所は個人情報の取扱いに関し、従業員全員に対し適切な監督をします。

    ご本人の照会

    お客さまがご本人の個人情報の照会・修正・削除などをご希望される場合には、ご本人であることを確認の上、対応させていただきます。

    法令、規範の遵守と見直し

    当事務所は、保有する個人情報に関して適用される日本の法令、その他規範を遵守するとともに、本ポリシーの内容を適宜見直し、その改善に努めます。

    個人情報保護に関するお問い合わせ

    当事務所の本プライバシーポリシー(個人情報保護指針)に関するお問い合わせ、連絡、意見などは下記までご連絡ください。

    長岡行政書士事務所 代表 長岡真也
    233-0003
    横浜市港南区港南5-1-32港南山仲ビル202
    電話 045-844-5616



    ページトップへ戻る