近年では婚姻の届出をしていない事実婚のご夫婦も多くいらっしゃいます。
事実婚パートナーは法律上の夫婦ではないだけに、相続がどうなるのか、気になるところですよね。
そこで今回は、籍は入れていない2組のパートナー夫婦をお迎えして、事実婚の遺産相続について語り合っていきましょう。
ご登場いただくのは、こちらの皆様です。
《内藤さんご夫婦》
- ともに60代
- 結婚時に夫婦別姓を希望
- 子供なし
《縁田さんご夫婦》
- 夫50代、妻40代
- 夫の死後、内縁の妻と連れ添う
- 子供あり(前妻との子)
目次
内縁の夫・妻(事実婚パートナー)は相続人にはなれない
みなさま、こんにちは。今日はよろしくお願いします。
縁田夫「よろしくお願いします。今日のような座談会に参加できて助かります。なにせ以前、内縁の夫・妻は相続人になれないと聞いたんですが…」
内藤妻「うちもですよ。実際のところ、事実婚夫婦の相続はどうなるのですか?」
まずは内縁関係を先に定義しておきましょうね。内縁関係とは、次のような状態を指します。
- 婚姻の届出をしていないが、事実上夫婦同然の生活をするパートナー
- 夫婦別姓のため籍をいれていない事実婚の夫婦
- 法律上の夫婦とは認められない
相続には法律が関係しますから、法律上の夫婦と認められていない…つまり法律で定める相続人の範囲に含まれないところが、皆さんの不安になりますよね。
内藤夫「まさしく、法律で定める相続人の範囲に含まれないことが不安です」
縁田妻「やっぱり今からでも籍を入れたほうがいいのかしら?」
縁田夫「え?」
縁田妻「なに? いやなの?」
実は内縁の夫婦でも相続対策をすることはできるんですよ。主には「生前贈与」「遺言書」「特別縁故者」という3つの方法です。
生前贈与で事実婚パートナーに財産を渡す
生前贈与というのは、生前に財産を贈与しておくことで相続の代わりとする方法です。
内藤夫「聞いたことあるな。贈与をする人と贈与を受ける人の合意があればよかったんでしたっけ?」
そうです、内縁関係の夫婦でもOKなんです。ただし、事実婚パートナーの生前贈与にはいくつか注意も必要です。
《生前贈与の注意点》
- 年間の贈与額が110万円を超える場合、受贈者は贈与税の申告が必要となる
- 生前贈与で渡しきれなかった財産を、パートナーが受け取る権利はない
- 贈与契約書の書面で残しておく
年間の贈与額が110万円を超えると受贈者は贈与税の申告が必要
贈与は年間110万円を超える場合、贈与税がかかります。贈与税は、相続税の税率や基礎控除の額などに対して、一般的には税金が高くなるんです。
内藤妻「ということは、毎年コツコツ積み立てるように110万円を超えないように贈与するというわけですか?」
内藤夫「うちはそれなりに資産があるから、下手したら十数年かかるな」
縁田夫「それを言うならうちだって、十数年どころか何十年…」
縁田妻「何言ってるの? そんなにないじゃない」
内藤妻「うちもよ。なに見栄はってるの?」
内藤夫・縁田夫「しょぼん…」
まあまあ(笑) 夫婦喧嘩は犬も食わないといいますから、そのへんで。
生前贈与で渡しきれなかった財産をパートナーが受け取る権利はない
縁田妻「生前贈与で渡しきれなかった財産を、パートナーが受け取る権利はないというのはどういうものなんですか?」
少額ずつ贈与していっても、渡しきれない財産が出てきてしまうかもしれませんよね? ですから、贈与者が亡くなったとき、やはり事実婚だと受け取る権利がないので贈与自体もそこでストップしてしまいます。
贈与契約書の書面で残しておく
内藤夫「それだと心配だな。さっき、贈与契約書がどうこうと聞いたけど、それはどういうものなんですか?」
贈与契約の存在や内容を記した書面ですね。贈与契約は口頭であっても成立しますが、第三者の他人はそれを知り得ませんから、口頭だけだとトラブルのリスクが高いと思いませんか?
縁田夫「思う思う。口約束ほどあてにならないものはないですから」
縁田妻「そうよね。あなた、いつも私に新しい指輪を買ってくれると言ってるけど、果たされたことがないわ」
内藤妻「あら、うちもなんですよ。気が合いますわね、奥様」
内藤夫・縁田夫「ブーメラン…」
内藤さん、縁田さん、がんばって(笑)
遺言書で事実婚パートナーに財産を遺贈する
贈与契約書でトラブルリスクを避けることが大切ですが、書面と言えば、遺言書という手もあります。
内藤夫「だけど、遺言書は家族に残すものなんでしょう? うちも当然家族ではありますが、やはり法律の壁があるんじゃないですか?」
遺言書では、内縁のパートナーに財産を譲る旨を記載することもできるんです。
つまり、事実婚パートナーに財産を遺贈するということです。
遺言書は故人(被相続人)の最後の遺志を示すものです。内縁のパートナーに相続権はありませんが、遺言書にパートナーへの遺贈が記載されていれば、財産を残すことができます。
もちろん、事実婚パートナーだからこそ気を付けなければならない注意事項はありますけどね。
- 配偶者の税額軽減が受けられない
- 小規模宅地等の特例が適用できない
- 障碍者控除が受けられない
- 税額が2割加算される
- 遺留分の請求を受ける場合がある
配偶者の税額軽減が受けられない
事実婚パートナーの場合、配偶者の税額軽減が受けられないことが、最初の注意点です。
内藤妻「特例を受けられないというのは?」
税金のお話になりますが、内縁関係のパートナーが遺言により遺産を受け取った場合、相続税の対象となるわけなんです。でも相続税については、法律上の配偶者とは異なる取り扱いになるんですね。
- 配偶者が相続した遺産のうち法定相続分か1億6000万円までは相続税がかからない
- 内縁の妻(夫)はこれを受けることはできない
- 受け取った遺産すべてが課税対象となる
法律上の配偶者であれば相続税の優遇措置がありますが、事実婚パートナーが遺言書によって遺贈を受けた場合の優遇はありません。
小規模宅地等の特例が適用できない
小規模宅地等の特例が適用できないことも、内縁のパートナーに財産を譲る際には覚えておかなければなりません。
- 亡くなった人の不動産の相続税評価額を最大80%引き下げることができる
- 適用されるのは親族が相続した場合に限られる
障碍者控除が受けられない
内縁のパートナーは障碍者控除が受けられないことも、注意点です。
- 障碍者が遺産を相続して相続税を納める場合「85歳になるまでの年数×10万円」を税額から差し引ける
- この対象は法定相続人となる
- 内縁関係のパートナーは障害者であってもこの控除を受けられない
税額が2割加算される
相続税額が2割加算されることも、内縁関係の相続では覚えておかなければなりません。
- 相続税の2割加算の制度は、相続税が通常の税額の1.2倍になる制度
- 配偶者と一親等以内の血族以外の人に適用される(内縁関係の場合のみではない)
※兄弟姉妹などの相続人や孫などと同じように、内縁関係のパートナーについても相続税が通常の1.2倍となる
縁田夫「いろいろ条件があるんだな。税額2割加算はしんどいな」
内藤夫「確かに」
遺留分の請求を受ける場合がある
次に遺留分の請求について見てみましょう。
遺言書は、遺言者の自由な意思で書くことができますが、気を付けたいのが「遺留分」です。
内藤夫「これは勉強したことがあります。遺留分は、一定の法定相続人に認められた、遺産を最低限受け取ることのできる割合でしたかね?」
よく勉強なさってますね。その通りです。
合わせて読みたい>>遺留分とは?具体例や侵害された遺留分請求方法を分かりやすく解説!
遺留分は、相続人が遺産をまったく受け取ることができないがために生活に困窮するという事態を招かないためにあるんです。遺言は、遺言者の自由な意思に基づきますが、一応制限がありますよ、というものですね。
縁田夫「うちの場合はどうなるんです?」
縁田さんの遺言で、仮に「不動産(3000万円)及び預貯金(3000万円)はすべてパートナーに遺贈する」とあったとしましょう。
縁田妻「いやですわ、そんなにないですもの」
例えばの話です、ヨイショではないですよ(笑) 縁田さんには息子さんがおられましたよね?
縁田夫「ええ、前の妻との間に。でももう成人して家にはいませんが」
この場合、息子さんは縁田さん(夫)の法定相続人になります。ですから、縁田さんが遺言書で全財産をパートナーに遺贈すると書いても、息子さんの遺留分が認められるんです。
内藤妻「具体的にはどれくらいの金額なのかしら?」
子が一人の場合の遺留分は、相続財産の1/2ですので、息子さんの遺留分は3000万円+3000万円×1/2=3000万円となりますね。ですから、息子さんは奥様に遺留分侵害額請求で3000万円を請求できるんです。
縁田妻「もちろん、私はそこで争ったりしませんよ。あの子も私のことをちゃんと大切にしてくれてるんですもの」
素敵なご関係ですね。すべてのご夫婦がそうであれば、本当に平和で穏やかな相続になりますね。
内藤夫「まったくですな。ちなみに、この遺留分は、ほかにも認められるケースがあるんですか?」
亡くなった人の親・子、親や子が亡くなっていれば祖父母、孫に認められます。遺言書で内縁関係のパートナーに財産を譲りたい場合には、それぞれの関係性や経済状況などを考慮して遺言を作成することが大切ですね。
合わせて読みたい>>遺留分を侵害する遺言は無効ではない!相続トラブルを防ぐポイントを行政書士が解説
特別縁故者に指定される
縁田夫「あとは、特別縁故者だな。これはどういうものなんだろう?」
特別縁故者とは、亡くなった被相続人に法定相続人がいない場合の制度です。被相続人と特別な関係にあり、相続を受ける権利が発生した人のことを言います。
縁田妻「特別な関係?」
ええ、相続人がおらず遺言書もなく、遺産を受け取る権限のある人がいない場合には、その遺産はどこに行くとおもいますか?
内藤夫「行く場所がないですよね」
最終的には国庫に行く、つまり国のものとなります。
でも、被相続人に内縁関係のパートナーがいたり、被相続人の息子の妻など第三者がいたとしたら話が違ってきます。
内藤妻「私の知り合いで、息子さんの奥さんが生前介護で長らく面倒をみてくれて感謝してもしきれないと言っていたけど、そういうときのお礼でもお金を渡せるのかしら?」
お礼と言えなくもないですが、そのような人たちに遺産を渡した方が被相続人の意思に沿うと考えることができるわけなんです。
特別縁故者の条件
縁田妻「特別縁故者に認められる条件はあるんですか?」
特別縁故者と認められるためには、「被相続人に法定相続人がいないこと」「遺言書がないこと」という2つの条件をまずクリアしておく必要があります。そのうえで、以下のような要件を満たすことが必要と考えられます。
- 被相続人と生計を同じくしていた者であること
- 被相続人の療養看護に努めた者であること
- 被相続人と特別の縁故があった者であること
内藤夫「納得できる条件だな。手続きはどう進めるんですか?」
被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所で、相続財産の分与を求める「特別縁故者に対する財産分与の申し立て」という手続きを行い、「特別縁故者」だと認めてもらう必要があります。
縁田夫「でも特別縁故者でも2割加算の対象になるんですかね?」
はい、相続税の特例を受けることはできず、2割加算の対象となります。
内縁関係の夫婦の子どもは相続人になる
縁田妻「あと、参考までに聞いておきたいんですが…」
おや、お腹をさすっておられますが、ご体調がお悪いですか?
縁田夫「そうではなくて…実は子供ができまして」
内藤妻「あら、それはおめでとうございます。体力的には大変ですけど、しっかりね、奥様!」
縁田妻「ありがとうございます」
縁田夫「なので、私たちに子供が生まれたら、相続はどうなるのかと思いまして」
法律上の婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子は、「嫡出子」といい、戸籍上当然に父親との親子関係が認められます。そのため、嫡出子は常に相続権をもちます。
内藤夫「そうですね」
内縁関係の夫婦の間に生まれた子は「非嫡出子」といいますが、非嫡出子と父親との親子関係を認めるためには、父親が自分の子どもであると「認知」することが必要になります。
縁田夫「ええ、もちろん認知します」
それであれば、非嫡出子には法定相続人としての権利が認められます。このとき、嫡出子と相続割合に違いはなく、同等です。
縁田妻「よかった…」
内藤妻「もし認知しなかったらどうなるの? 世間的にそういうケースもなくはなさそうだけど」
父親である被相続人が認知していない非嫡出子の場合、たとえ血が繋がっていたとしても、法定相続人の権利はありません。つまり、父親の財産を相続することはできません。
内藤妻「それはあんまりね。縁田さん、しっかり認知してあげてね」
縁田夫「もちろんです」
内縁関係(事実婚)で遺産を受け取るには遺言書の準備を
内藤夫「いやあ、今日は勉強になりましたな。縁田さんとも知り合えて、なんだか励まし合う仲間ができたようだ」
縁田妻「うちもです。ありがとうございます」
内縁関係のご夫婦は、長年生活を共にしますから、婚姻関係にあるご夫婦と気持ちは同じでしょうね。でも法律上の配偶者でなければ相続権はありませんから、将来発生する相続についての扱いを理解した上で、対策を立ててくださいね。
長岡行政書士事務所では、内縁関係・事実婚の方のための遺言書相談も承っております。まずはお気軽にご相談ください。
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