遺贈は放棄できる? 遺贈の放棄と注意点を行政書士が解説

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遺言書で財産を渡す『遺贈』は放棄できるの?  〜遺贈の放棄の方法と注意点〜

「親交のあった方から遺贈された。でも、ご親族と揉めたくないから放棄したい。」

「遺贈の放棄をしたいけど期限はあるの?注意点は?」

「遺贈の放棄のためにはどんな手続きが必要なの?」

 

人は亡くなると同時に法的な効果として相続が生じます。亡くなった方の意思表示が何もなければその財産の受取手は法定相続人に限定されます。

 

そこで活躍するのが遺贈です。

遺贈は、法定相続人ではない方へご自身の財産を受け継いでもらいたいといった場合に活用されることが多いです。

 

しかし、せっかくのご厚意であっても、ご親族とのトラブルなど様々な事情から拒否したいケースがあることも事実・・・。

今回は、遺贈を放棄する方法と注意点、さらに包括受贈者と特定受贈者の手続きの違いについて解説します。

 

<本コラムのポイント>

・遺贈の放棄はできる!

・包括遺贈の放棄は3ヶ月以内に手続きを!

・特定遺贈の放棄はいつでもOK!

・放棄するつもりがあるなら遺贈されたものは大事に保管!

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遺贈とは

まずはそもそも遺贈ってなに?ということから説明したいと思います。なかなか聞きなれない言葉ですから一緒に見ていきましょう。

遺贈とは、お亡くなりになった方(以下、遺言者と呼びます。)が、遺言によって特定の人(以下、受遺者と呼びます。)に自己の財産の全部または一部を無償で譲渡することを言います。

遺贈は遺言者が亡くなった時から効力を生じます。

遺贈は拒否できる

遺贈は拒否できるのか、気になる方は多いかもしれません。

結論から言うと、遺贈を拒否することはできます。

 

受遺者は、遺言書に書いてあるからといって、遺贈を受けることを強制されるわけではなく、遺言者の死後に拒否する権利が認められています。

いらないものを「いらない。」というだけですから問題ありません。

 

この遺贈を拒否することを『遺贈の放棄』と言います。

 

しかし、一度遺贈を放棄すると基本的に撤回することはできません。

撤回を認めると、相続財産の権利を有する人が何度も変わるなど無用な混乱を生ずるおそれがあるからです。

したがって、よく考えて遺贈を放棄するかどうかを決める必要があります。

 

ただし、いらないからといって知りながら放っておくと承認したとみなされる可能性があります。

遺贈を放棄したい場合であっても一定の行為が必要となりますので注意してください。

遺贈は2種類ある

一言で『遺贈』といっても、遺贈には2種類あります。

  • 包括遺贈
  • 特定遺贈

その種類によって手続きが変わりますので、まず遺贈の種類について説明していきます。

包括遺贈とは|財産を割合で渡す遺贈

包括遺贈とは、財産を割合で渡す遺贈です。

プラスになる財産もマイナスになる財産も全ての財産を含む、相続財産の全部または一部の割合を遺贈することを言います。

目的物を特定せず、遺産の割合を指定するような場合が包括遺贈にあたります。

 

包括遺贈を受ける受遺者のことを包括受遺者と言います。

包括遺贈の一部だけを承認または放棄ということはできません。

 

つまり、包括遺贈の選択肢は、

  • プラスの財産を受け取るならば、マイナスの財産もまとめて受け取る
  • 全て放棄する

この2択になります。

具体的な包括遺贈の記載例は次の通りです。

  • 財産のすべてを知人○○に遺贈する
  • 財産のうち預貯金3分の1を知人の〇〇に遺贈する

特定遺贈とは|ある財産だけを渡す遺贈

特定遺贈とは、具体的に特定されたプラスとなる財産を遺贈することを言います。

つまり、遺贈するものを特定してある場合が特定遺贈にあたります。特定遺贈を受ける受遺者のことを特定受遺者と言います。

以下に具体的な記載例を見てみましょう。

  • 土地と建物を〇〇に遺贈する
  • 某銀行の預金全部を〇〇に遺贈する

特定遺贈を受けた人は負担付き遺贈(※1)というものでない限り、義務を負担することはありません。

※1 負担付遺贈とは・・・

遺贈をする際に受遺者に対して一定の負担を付すものです。

 

負担付遺贈の詳細はこちらの記事をご参考ください。

特殊な遺言 義務の負担を付けた遺言「負担付遺贈」について解説!

なお、負担付遺贈の記載例は次の通りです。

・〇〇の生活の面倒をみる代わりに○○に家を遺贈する

「〇〇の生活の面倒をみる代わりに」という点が負担となります。

つまり、〇〇の生活の面倒をみるという約束を守るなら家を譲りますよ!という内容の遺贈ということです。

 

この約束を守っていないということがあれば、他の相続人は遺贈の取消しを求めることができます。

遺贈を放棄する方法

では、この包括遺贈や特定遺贈はどのように放棄の手続きをするのか、具体的な方法を見ていきましょう。

包括遺贈の放棄

包括遺贈を放棄するためには、遺贈を放棄する旨を以下の必要書類等と一緒に家庭裁判所に申述しなければなりません。

① 申立てをできる人

 包括受遺者

 

② 家庭裁判所への申立時に必要な書類(一般的なもの)

  • 申述書(家庭裁判所のHPからダウンロードできます。)
  • 遺言者の住民票徐票又は戸籍附票
  • 申立人の住民票または戸籍附票
  • 遺贈があったことがわかる書類

 ※その他書類が必要となる場合があります。詳しくは家庭裁判所へお問い合わせください。

 

③ 申立をする家庭裁判所(家庭裁判所の管轄)

 亡くなった方の最後の住所を管轄する地域の家庭裁判所

 

④ 申立時に必要となる費用

  •  申述人1人につき収入印紙800円分
  •  連絡用の郵便切手

 ※詳しい金額については申述先の家庭裁判所に確認してください。

 

⑤ 裁判所HPのリンク

遺言の放棄について参考URL:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html

特定遺贈の放棄

特定遺贈の放棄では、包括遺贈のような手続きは不要です。

相続人や遺言書の遺言執行者がいる場合には、その人たちに対して遺贈放棄する旨の意思表示を行うことで放棄することができます。

 

遺贈放棄する旨の意思表示の方法について特段の決まりはありません。

しかし、後々のトラブルを回避するために書面など残る形で行うことが望ましいです。

 

さらに心配な場合は公に示す手段として内容証明郵便を利用するとよいと思います。

内容証明郵便であれば、いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを証明することができます。

遺贈の放棄の期間制限について

すでに説明しましたが、包括遺贈の場合、プラスになる財産だけでなくマイナスの財産も受け取ることとなります。

したがって、遺贈を承認するか又は放棄するかについては遺言者の財産状況を十分に調査した上でメリット・デメリットを慎重に考慮する必要があります。

包括遺贈の放棄期限

包括遺贈の放棄期限については、十分な調査をするために、受遺者には「自己のために遺贈があったことを知った時を起点に3ヶ月」の熟慮期間が認められています。

自己のために遺贈があったことを知った時とは、受贈者が相続の開始の原因たる事実、つまり、遺言者が亡くなったこと及びこれによって自己が法律上受遺者となった事実を知ったときが起算点とされています。

包括遺贈はマイナスの財産も受け取るわけですから、受け取るかどうか悩ましいですね。

しかし、いつまでも悩んでいてはその他の相続人にとって利害等を与えかねません。

財産の安定的で確実な承継を図るため、3ヶ月という期限が設けられています。

 

この熟慮期間は、当該受贈の利害関係を有する人又は検察官の請求によって家庭裁判所によって伸ばしてもらうことができます。

期間内に承認または放棄しないときは包括遺贈を単純承認したとみなされます(民法921条2号)。

 

単純承認とは、遺言者が負担していたマイナス財産を含めた全ての財産を無条件に相続することを言います。
一度遺贈を承認・放棄をしてしまうと原則として撤回することはできません(919条1項)。

したがって、包括遺贈の放棄はよく考えてから手続きを行うことをおすすめします。

特定遺贈の放棄期限

特定受贈者は遺言者の死後いつでも遺贈を放棄することができます。

しかし、いつまでも悩まれていては他の相続人など利害関係にある人たちにとっては相続財産が確定せず困ります。

 

そのため、相続人など利害関係にある人から期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の意思表示を行うように促されたにもかかわらず、その期間内に意思表示をしない場合には遺贈を承認したとみなされるため注意が必要です(民法987条)。

受遺者の遺贈の放棄は他の関係者にとって大きな影響を与えるため催促する権利が認められているのです。

 

特定遺贈の場合も、承認または放棄した場合には原則として撤回することはできません(989条1項)。

遺贈の放棄をしたらどうなるのか

ここからは、遺贈の放棄をしたらどうなるのかを見ていきたいと思います。

遺贈を放棄すると遺贈された財産に対する権利を失います。

つまり、その財産について所有することも処分することも含め、何の権利も持っていない状態になります。

 

実際に受け取っていない場合には特に問題はありません。もともとないものですから、今までと変わりありません。

 

しかし、受け取った後に遺贈を放棄し場合には、手元に自分のものではない他人の財産がある状態となります。

その場合、本来の持ち主に返す必要があります。

  • 相続人がいる場合  ⇨ 相続人へ引き渡す。
  • 相続人がいない場合 ⇨ 相続財産管理人へ引き渡す。

相続財産管理人とは、遺産を管理して遺産を清算する人のことを指します。一般的には相続人・包括受遺者・遺言執行者が遺産の管理や清算をすることとなります。

遺言執行者とは、遺言の執行に必要な範囲で一切の行為を行う権利義務を有する人のことです。

なお、引き継ぐまでの間は「自己の財産に対するのと同一の注意」を持って財産を管理する必要があります(民法918条)。

自己の財産に対するのと同一の注意とは、自分のものと同じような扱いで保管してくださいという意味です。

遺贈を放棄する際の注意点

遺贈の放棄については、期間や手続き以外にも注意点があるのでその点も確認しておきます。

遺言者の生前に遺贈は放棄することはできない

例えば、遺贈者の方からあなたに遺贈しようと思っていると告げられたとします。

もちろん、話し合いをしてその場でお断りすることは可能でしょう。

 

後から忘れたりしてもいけないし、放棄を望む場合には手続きもめんどくさいなら断りたいと思いますね。

しかし、そのまま遺言書に遺贈すると残された場合、すでにお断りしているから放棄済み!・・・ということにはなりません。

 

遺言書は遺言者の死後に効力を発するものです。遺言というのは遺言者の意思のみで作成することができます。

そしてその遺言書は原則として他の人の意思に関係なく、遺言書の通りに効力があるものとして扱われます。

 

「いらないよ」という話し合いができていたとしても、その話し合いの時点で効力のないものに対して放棄ということはできないのです。

遺贈された財産を処分した場合は遺贈の放棄はできない

受遺者に遺贈を放棄する意思があったとしても、遺贈された財産の全部または一部でも処分してしまった場合には単純承認したものとみなされます(民法921条1号)

 

処分というのは、売却などはもちろんのこと、遺贈された物を故意に損傷するようなことも含みます。

他人のものを勝手に処分したり、わざと壊すことがあった場合にはきちんと責任を取ってくださいね?と言われるということです。

遺贈を放棄をしたとしても相続分は放棄されない

ご家族が亡くなると相続人は自らの意思に関係なくお亡くなりになった方の財産を包括的に承継します。

相続もプラスの財産もマイナスの財産も全てを含んだ財産を引き継ぐこととなります。

 

遺贈同様、相続人にも相続を承認するかもしくは放棄するかという自由が認められています。

しかし、遺贈の放棄と相続放棄は別の制度であるため、一切何も受け継ぎたくない場合には別途相続放棄の手続きも必要となります。

 

遺贈の放棄をしたからと言って手続き終了というわけではないので注意してください。

なお、遺贈は相続人でない他人に自らの財産をあげたい場合に役に立つと説明しました。

しかし、遺贈は、他人に対してのみ有効なわけではなく、法定相続人に対して行うこともできます。

その場合、単に遺言書で相続人に対して「遺贈」と記載することで遺贈となります。

包括受遺者は全ての財産を遺贈されても全て自分のものになるわけではない

遺言者の配偶者、子、両親には法律で遺留分が認められています。

遺留分とは、一定の相続人に対して確保された相続の割合のこと。相続人の生活の確保や相続人間の平等のために認められます。

 

遺贈が相続人の遺留分を侵害する場合には遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。

遺留分侵害額請求とは、遺贈などによって遺留分を侵害された遺留分を受け取る権利を有する人が遺贈などを受けた相手に対して遺留分を返還してもらうことです。

 

遺贈を受けたからといって全て使ってしまうといったことがないよう、注意が必要です。

遺贈の放棄はなかなか大変

遺贈は無償で受け取るものではありますが、プラスになる財産だけでなく、マイナスになる財産も引き継ぐ可能性もあります。

また、遺贈を受けることで遺言者のご親族と揉める可能性や、不要な財産を引き継ぐことによって余計な維持費がかかることもあります。

例えご厚意であったとしても遺贈を「いらない」と思うこともあるかと思います。

そして、放棄するなら手続きもあるのに精神的にも大変なことです。

メリット・デメリットも含めて人それぞれ、その時々でいろんな選択肢があると思います。

 

心配事がある、その他お困りの場合はまず専門家にお話ししてみませんか?

一人で悩むのではなく、専門家へご相談することも一つの選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。

 

参考文献

・新井誠・岡伸浩編 日本評論社 『民法講義録 改訂版』

・常岡史子著 新世社 『今日の法学ライブラリ 家族法』

・神余博史著 自由国民社 『国家試験受験のためのよくわかる民法 第9版』

 
行政書士 長岡 真也
この記事の執筆・監修者:長岡 真也(行政書士)
神奈川県行政書士会所属(第12091446号)
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