相続の形は人それぞれで、夫、妻、親、子供たち、兄弟姉妹と遺産を渡したい相手は相続ごとに異なると思います。
そんな中、家族ではなく、自分の心の支えになっている団体や、社会を良くするために頑張っている団体など、家族以外にも遺産を送りたいと考える方もいるのではないでしょうか。
今回は遺産を団体に遺贈したい時はどうすればいいのかについて、相続人がおらず自分が所属する団体に遺産を渡されたケースも含めて、横浜市港南区の長岡行政書士に色々と伺ってみたいと思います。
目次
相続人以外に遺贈する場合は遺言書などの準備が重要
本日はどうぞよろしくお願いいたします。
早速ですが相続で家族以外に遺産を渡す・・・となると何となく揉めごとが起きそうで不安な気持ちになるのですが、実際に相続や遺贈の実務に携わられている長岡行政書士の目から見て、遺族以外の第三者である団体に財産を寄付することについてはいかがでしょうか。
長岡:こちらこそ、よろしくお願いいたします。
いえ、相続で家族以外に遺産を渡すからといって、揉めるとはかぎりません。やはり事前にどれだけ準備できるかにもよりますし、最近は遺族以外の第三者である団体に財産を寄付したいという希望を持たれる方もいます。
例えば、遺産の一部を世話になった社会福祉法人寄付したい、子供がいない方で自分が亡き後、特定の福祉団体などに寄付をしたいという場合などです。
社会における価値観の変化もあるのかもしれませんが、遺産も自己実現の最後の機会ととらえ、親族に遺産を渡すのが当たり前ではなく自分の遺志を実現してくれる団体に対してもサポートをしたいとおっしゃる方が増えているような気がします。
なるほど、それは興味深いですね。
特定の団体に相続財産の全部または一部を遺贈することを「遺贈寄付」と呼ぶ
遺産を渡す形は寄付、という形式になるのですか。
長岡:そうですね、特定の団体に相続財産の全部または一部を遺贈することを「遺贈寄付」と呼びます。「寄付」というと単純に相手に財産を譲ってお互いが満足、というイメージだと思いますが、実際には遺贈寄付を検討する場合は気を付けるべき点があります。
遺贈寄付の場合はあげておしまい、というわけではないのですね。
遺贈寄付では「遺留分」に注意
遺贈寄付を行う際の注意点を詳しくお教え願えますでしょうか。
長岡:自分の財産を誰にどれだけ承継させるかは亡くなられる方が自由に決めることができますが、遺留分への配慮は必要となってきます。
遺留分、といいますと?
長岡:遺留分とは法律上相続人に認められた遺産の最低取り分の事を指します。
例えばですが、ある方が特定の団体に対して全財産を遺贈寄付する旨の遺言書を作ったとします。遺留分権利者が自分には少なくとも法律上の取り分があるはずだ、その分を取り戻したいと思えば、遺贈寄付を受けた団体に遺留分侵害請求を行い、自らの遺留分を取り戻す手続きを行うことができるのです。
確かに団体からすると寄付だけいただいておしまい、という話ではなさそうですね・・・
長岡:更に、この遺留分を請求するルールにも法改正がありました。遺留分を請求された側は、この遺留分を遺留分権利者に対し金銭で支払う必要があります。
これは遺贈寄付を受けた団体からすれば、予想もしない請求を受ける形になりますし、もし遺贈を受けた財産が売却が難しい財産である場合には、資金の準備に苦労するかもしれません。
最近は空き家も増えているようなので、不動産を相続してもすぐには売却して現金化ができないかもしれませんね。
長岡:以前は現物での遺留分変換が原則だったのですが、法改正により金銭請求に一本化されたのです。例えば以前でしたら4000万円の不動産に対し4分の1の遺留分が発生した場合は、4分の1の共有持分を取得することが原則でしたが、改正後は1000万円の金銭請求となります。
そんな大金はなかなか用意できそうもないですね。なにかいい方法はないのでしょうか。
長岡:この遺留分のリスクを考えた時には、遺贈寄付によって遺留分が侵害される相続人が出ないように遺産の分配を調整するか、事前に遺留分権利者となる者の了承をとるなどの工夫が必要です。
なるほど、これが最初におっしゃっていた事前の準備がしっかりしていれば、という点につながってくるのですね。
「遺贈寄付」は特定遺贈で行う
長岡:あと注意する点としては「特定遺贈」にする、という点です。
遺贈は「包括遺贈」と「特定遺贈」の二種類が存在します。
包括遺贈というのは、例えば「全財産の四分の一を団体XXに遺贈する」というように、財産の割合を指示して遺贈を行うものです。対して特定遺贈は、「〇〇団体に金一千万円を遺贈する」というように、遺贈したい財産を具体的に特定して行うものです。
なにが問題かと言うと、包括遺贈の場合は遺贈を受けた団体が相続人と同等の地位を持つという点です。この場合ですと団体が他の相続人と同じように故人の負債も引き継ぐ義務が生じてますし、また他の相続人たちと遺産分割協議への参加も求められる立場になります。
たしか相続はプラスの財産だけでなくマイナスの負債も財産として引き継ぐのでしたよね。
長岡:その通りです。仮に寄付の申し出があったとしても、包括遺贈の場合だと借金があれば負債まで引き継がなければならないリスクが発生することになります。また、寄付を受けるのはありがたいとしても面倒な遺産分割協議に巻き込まれたくはない、という団体も多いでしょう。実際に包括遺贈による寄付は受け付けないという団体も存在します。
もう一つの方式である特定遺贈ではそうした心配が無いので、遺贈寄付は特定遺贈の形で行うようにすべきです。
合わせて読みたい>>特定遺贈とは?包括遺贈との違いやメリット・デメリットをわかりやすく解説
公正証書遺言書で遺贈した実際のケース
それでは実際にどのようなケースを担当されたのかを、可能な範囲で結構なので教えていただけますでしょうか。
長岡:ご相談をいただいたのは60代の男性の方で、相続人は配偶者である妻一人でした。
長年会社を経営されていて資産は多く、全てを妻に渡しても使いきれないし、妻の死後誰も相続人がいないと国庫に没収されてしまうかもしれない。そうであれば現段階で妻に半分、のこりは日ごろから理念に賛同している福祉団体に寄付したい、という事でした。
お話を伺いながら具体的なイメージの共有に努め、最終的には公正証書遺言を利用し長岡行政書士事務所を遺言執行者に指名していただく事になりました。
公正証書遺言に遺言執行者、ですか
長岡:はい、遺言書には主に2タイプあり自分で書く自筆証書遺言と口述された遺言内容を公証人が記述して作成する公正証書遺言がありますが、やはり金額も大きく第三者に財産を渡すという性質上より確実に遺贈寄付を実現すべく公正証書遺言を選択しました。
合わせて読みたい>>遺言書の書き方・方式・注意点を行政書士事務所の事例と共に解説!
また、遺言書の内容を滞りなく実現するために、遺言書内で遺言執行者を指定することができますが、それを我々長岡行政書士事務所が務めさせていただけることになりました。
なるほど、万全の体制ですね。遺言書を作成した当日はどうだったのでしょうか。
長岡:公証人との連絡や証人2人の手配は事前に行い、当日は公証役場にて公正証書遺言を滞りなく作成できました。妻も内容には合意していましたが手続き上別室にて待機していただいた次第です。その後、我々が遺言執行者なので公正証書遺言をお預かりし、大切に保管しております。
遺贈寄付は行政書士に相談を
遺言書にて家族以外の第三者に、特に日頃より理念に共感していたりお世話になっている団体に遺産を寄付することは可能です。しかし他の相続人の遺留分を考慮にいれなかったり、遺贈の方式を間違えたりしてしまうと後々思わぬトラブルに発展する可能性があります。
遺産の寄付を考え始めたタイミングくらいで専門家に相談し的確なアドバイスをもらったり、寄付を考えている団体にも打診してみたりと準備を進められることをお勧めします。