むかしむかし、浦島太郎が海辺でいじめられていたカメを助け、お礼に竜宮城へと連れて行ってもらいました。
竜宮城では、美しい乙姫様や魚たちとともに毎日歌い踊り、楽しく過ごすことができました。
乙姫様から玉手箱をもらい、村に帰ってきた太郎でしたが、なんと知らず知らずのうちに竜宮城で何百年も過ごしてしまい、おじいさんになってしまっていたのでした。
目次
■2018年に遺言や相続の分野で法改正が
それからずっとずっと後の話…。
2017年、浦島太郎の子孫である、浦島太一郎が海辺で湘南の海でサーフィンにいそしんでいたときのこと。
なんと、海辺でカメが困っているではありませんか。いじめられていたわけではなく、ごみで捨てられたペットボトルが足にひっかかり、海へと帰れないようです。
太一郎がカメを助けると、カメはお礼に、海底にあるクラブ「RYUGU」に案内してくれることになりました。
太一郎「いや、でも俺、行政書士だから、これから、じいちゃんの遺言書の相談に乗らなきゃいけないんだけど…ま、あとでいっか」
こうして乙姫たちと、テンション爆上がりのパーティを楽しんで帰ってきた太一郎でしたが…なんと帰ってきた時代は2023年! 6年もの歳月が経っていたのです。
太一郎「やっべ! 知らないうちに世の中かなり変わってる! え? プレステ5が出てる? 携帯が5G? チャットGPT? ぜんぜんわかんねえ…長岡さん、ヤバいっす!」
長岡「太一郎くん、心配してたんだよ! え、竜宮城に行ってた? よくわかんないけど、おじいさんの遺言書は大丈夫かい?」
太一郎「とりあえず、じいちゃんまだ健在なので、これからちゃんとやります」
長岡「もしかして、2018年から遺言・相続関連の法改正があったのも…知らないんじゃない?」
太一郎「げっ、そうなんですか? 長岡さん、教えてください! お礼に「RYUGU」でオゴります!」
長岡「教えるのはいいけど、竜宮城は…うん、お気持ちだけで…」
■遺言・相続関連法改正その①配偶者居住権の内容
長岡「さて、どこから話したものかな。とりあえず概要かな。こんなふうになっているんだよ」
《法改正のあった各制度》
- 配偶者居住権の創設
- 自筆証書遺言の方式緩和と保管制度
- 遺留分制度の見直し
- 相続させる旨の遺言と対抗要件
- 遺言執行者の権限強化
太一郎「配偶者居住権? こんなのありましたっけ?」
長岡「配偶者居住権は、法改正によって新設された制度だね。施行期日は2020年4月1日」
太一郎「ふむふむ、2020年4月1日以降に亡くなられた方の相続から配偶者居住権の設定ができる…ということは、じいちゃんはまだ生きてるから対象だな」
長岡「被相続人の配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者にその使用を認める権利とあるね」
太一郎「要するに、うちのばあちゃんが、じいちゃんと暮らしていた今の家に住み続けられる権利ってことですよね?」
長岡「大まかに言うと、そうだね。でも遺産分割協議による場合と、遺言で遺贈する場合で条件があるから、そこもチェックが必要だよ」
《遺産分割協議による場合》
亡くなった日が2020年3月以前の場合、遺産分割協議が2020年4月1日以降であっても配偶者居住権は設定できない。
《遺言で遺贈する場合》
2020年4月1日以降に作成された遺言であることが必要。
長岡「次は、2019年1月13日に施行された自筆証書遺言の方式緩和かな」
■自筆証書遺言の方式緩和の内容
太一郎「遺言者自身が遺言の全文及び日付・氏名を「自書する」ことが必要とされているというのは変わりませんよね? 自分自身の手で書くことですので、パソコン等で作成するのはダメって部分も」
長岡「それが一部緩和されたんだよ。遺言に添付する財産目録については自書ではないものも認められるようになったんだ。だからパソコンで作成してもいいし、通帳のコピー等でもOKなんだよ」
太一郎「それ、便利っすね!」
長岡「ただし、財産目録の各頁に署名押印する必要があるから、そこには気を付けないとね」
太一郎「この緩和は2019年1月13日以降開始された相続だけに効力があるんですか?」
長岡「施行日以降に作成された自筆証書遺言なら効力はあるよ。相続開始が施行日以降でも、遺言の作成が施行日以前であれば、改正法の適用を受けられないから、そこだけ注意だね」
■自筆証書遺言の保管制度の内容
太一郎「長岡さん、保管制度もどうやら変わってるっぽいですけど? 自筆証書遺言は、遺言者自身が自宅で保管するんでしたよね?」
長岡「そうだね、一方、公正証書遺言は公証役場で保管されるね」
太一郎「つーことで、自筆証書遺言は公正証書遺言に比べると、保管という点からも、紛失や盗難、偽造や発見されない、というリスクがあったけど…もしかして、そこからの? からの~?」
長岡「からの、改正です(笑)」
太一郎「YEAH!」
遺言書は法務局が保管してくれる
長岡「保管制度の改正は2020年7月10日に施行されていてね。作成した本人が遺言書保管所で申請手続きをすれば、法務局で公的に自筆証書遺言を保管してくれるんだ」
太一郎「遺言者の死亡後はどうなるんです?」
長岡「全国にある遺言書保管所において、遺言書が保管されているかどうかを調べることができ、遺言書を閲覧することもできるんだよ」
太一郎「なるほどね。保管制度を利用している遺言書については、家庭裁判所の検認が不要ってところも、イケてますね」
長岡「ただしこれも注意する点がいくつかあるんだ。まず2020年7月10日以降に法務局に保管を申請された遺言が対象となること」
太一郎「申請日が問題であって、遺言書の作成日は施行以前でもいいんですよね?」
長岡「そう。施行期日以前に作成され自宅で保管されていた遺言でも、申請することができるよ」
■遺留分制度の内容
太一郎「ここまででもけっこう目からうろこの変わりようですけど、ほかには?」
長岡「次は遺留分制度だね。遺言では、遺言者が自分の財産の処分について自由に内容を書くことができるけど、その一方で一部の法定相続人には「遺留分」の制度が定められているのはわかってるよね?」
太一郎「もちろん。最低限度の財産を受け取る権利が認められていて、遺言の内容がこの遺留分を侵害する場合、遺留分を侵害されている者は、遺留分を侵害している者に対して、自身の遺留分の権利を守るための請求をすることができる」
長岡「そこ。その請求権の内容が法改正により見直されたんだ。施工日は2019年7月1日だね」
太一郎「へえ、遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権への変更か」
遺留分侵害額請求は金銭的給付となった
長岡「改正前の遺留分減殺請求権は自分の持ち分の相続財産を請求する権利だったね?」
太一郎「請求という一方的な意思表示により、相続財産に対して共有持分を持ってました」
長岡「改正後の遺留分侵害請求権は、遺留分に相当する金銭の支払いを請求できる権利になるんだ。つまり、遺留分減殺請求と違って、遺留分そのものを共有することにはならない」
太一郎「対象となるのは?」
遺留分侵害額請求は相続発生時期に注意
長岡「遺留分侵害請求権は、2019年7月1日以降に発生した相続、つまり2019年7月1日以降に被相続人が亡くなったら対象になるよ」
太一郎「じゃ、例えば、遺留分を侵害する生前贈与が施行日前に行われていたとしたらどうなるんですか?」
長岡「相続の開始が施行日以降であれば、改正後の遺留分侵害請求権の対象となるんだ。ちなみに、2019年6月30日までに発生した相続については遺留分減殺請求権が適用されるから、過去にさかのぼって遺留分請求を行う場合には、改正前の遺留分減殺請求権の対象になる」
太一郎「ここはちょっとややこしいですね」
■相続させる旨の遺言の内容
長岡「次は、特定の相続人に対し特定の財産を相続させる遺言についてだ」
太一郎「遺言の定め方として、特定の相続人に対して特定の財産を相続させることを、一般的に「相続させる旨の遺言」という…でしたかね?」
長岡「それが2019年7月1日施行で、特定財産継承遺言というものに生まれ変わってる」
太一郎「どうなったんですか?」
長岡「相続させる旨の遺言によって承継された財産については覚えてる?」
太一郎「登記がなくても第三者に対抗できるんでしたよね」
特定財産承継遺言は相続発生時期に注意
長岡「それができなくなっちゃいました。改正後の特定財産継承遺言では、法定相続分を超える部分の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないんだよ」
太一郎「これも遺言が施行期日前に作成されたものであっても、相続開始が施行日以降であれば、改正後の規定が適用されるってわけですか?」
長岡「その通り。施行期日以降の相続で、特定財産承継遺言によって例えば不動産を取得したとしたら、すみやかに登記をする必要があるってわけだね」
■遺言執行者の権限の内容
長岡「最後は、遺言執行者の権限について。また復習だ。遺言執行者とは何だったかな?」
太一郎「被相続人が残した遺言の内容を実現するために、遺言に基づいて各種相続手続きを進める人ですよね」
長岡「ボケないんだね」
太一郎「長くて疲れてきてます…読者の皆さん、がんばって!」
遺言執行者の具体的な権利義務とは
長岡「法改正前では、遺言執行者は「相続人の代理人」とみなされていたよね。それが、法改正により2019年7月1日から、遺言執行者に遺言執行者の権利義務が明確に認めらてたってわけ」
太一郎「具体的な権利義務はどんなものですか?」
長岡「遺言の内容を実現するために、相続財産の管理ほか、遺言執行に必要な一切の行為ができるんだ。たとえばこんなふうに」
≪任務開始の通知義務≫
- 遺言執行者が遺言の執行を開始した場合、相続人に対する任務開始の通知義務がある
- 施行日前に相続を開始した場合でも、施行日後に執行者となるときは適用される
- 施行前に執行者に就任した場合通知義務は課されないが、施行後に就任した場合には必ず相続人に通知することが必要となる
≪遺言執行に係る特定財産継承遺言に関する権利≫
- 特定財産承継遺言があった場合、遺言執行者が相続登記の申請をすることができるようになった。
- 特定財産承継遺言に記載されている財産が預貯金の場合には、解約や払い戻しが法律上当然できるようになった。
- 施行前に作成された遺言には適用されず、施行後に作成された遺言に適用される
- 施行前の「相続させる旨の遺言」の場合、相続人が登記等の申請をしなければならない
- 施行後の特定財産継承遺言の場合には、遺言執行者は相続登記を申請することができる
≪遺言執行者の復任権≫
- 遺言者は、遺言書で禁止されていない限り、自己の責任で第三者に任務を任せることができるようになった。
- 施行日前に作成された遺言の執行者には適用されず、遺言の作成が施行日以後の場合のみ適用される
■法改正の施行時期は必ず確認しましょう
太一郎「これ、かなり大きな改正だったんですね。いろいろ改善されてるのはいいことだけど、ちゃんと細かいところは行政書士に確認とったほうがいいな」
長岡「…君、行政書士でしょ」
太一郎「まあ…6年のブランクは大きいですよ。だって長岡さんが小学校6年生のとき、俺小1っすよ。違いすぎません?」
長岡「そのたとえはよくわかんないけど、改正法の適用については、その制度ごとに時期が異なっているから、トラブルにならないよう注意は必要だよね」
太一郎「よし、俺、今年もう一度、行政書士試験受けます!」
長岡「…それやんなくていいから、その前に6年いなかった穴埋め、ちゃんとやってよね…」
太一郎「さーせん!」
この記事を詳しく読みたい方はこちら:遺言の法改正による施行日前後の各制度ごとの取り扱いについて