魔王が支配する異次元の世界…。ひょんなことからそこに転生してしまった一人の行政書士がいた。
勇者として、魔王に立ち向かうことになってしまい、戦士、魔法使い、僧侶とともに旅を続けることになった。
パーティの仲間の遺言問題だけでなく、敵モンスターであるはずのスライムの相続問題まで片付けることになってしまうなど、その旅路はまさに混迷を極めていた…。
そんな中、勇者一行が訪れた港町で事件は起こるのだが…。
※この記事は読者の皆様に分かりやすくお伝えするために、難しい法律用語や意味を少しアレンジ(分かりやすく)している部分がありますので予めご了承ください。
目次
在日外国人でも日本で遺言書を作ることは可能?
ボブ「ホワーイ! イセカイ(異世界)ズ、ピーポー? ドウシタライイノー?」
魔法使い「なんじゃなんじゃ?」
戦士「ありゃ港町に停泊している外国船を相手に商売している、ボブとかいう商人だぜ?」
魔法使い「有名人なのか? サインもらっておこうかのう…」
スライム「…どうやら困っているみたいですよ。私のツノがビビビと反応しましたから。あ、こっちに来た」
ボブ「サーセン、チョットイイスカー! アイムチンプンカンプンナコトデウォーリー」
僧侶「全部カタカナだからわかりにくいわね」
魔法使い「よし、こういうときは翻訳魔法を…とうりゃっ!」
ボブ「もしかして、勇者様ご一行ですか? 行政書士の特殊能力をお持ちだトカ?」
戦士「そうだけど…」
ボブ「私、相続のことで困ってまして…ぜひ相談に乗っていただきたいんデス」
魔法使い「…高くつくぞえ?」
僧侶「ぼったくりジジイなんだから! ボブさん、どうしたのかしら?」
国籍を有する国と現在住んでいる国の法の条件によっては可能
ボブ「私は、もうかれこれ約20年間、母国を離れてこの港町で暮らしているんデス。でも国籍は母国に残したままネ。両親や兄弟姉妹は母国にいますが、私はこのままここに住み続けるつもりなんデス」
戦士「どうして国に帰らないんだ?」
ボブ「私は会社を経営しておりますから。会社を放り出しては帰れまセン」
僧侶「で、何を悩んでいたの?」
ボブ「実は、私はこの国と母国に不動産を持っているんデス。家族が母国にいるので、相続関係が複雑になるんじゃないかと、夜も10時間くらいしか眠れないんデス!」
魔法使い「よう寝とるがな…」
ボブ「そこで、勇者さん、教えてくだサイ! この国に国籍がない私でも、この国の法律に従って遺言書を書けるんでしょウカ? 心配で、ご飯も1日5食しか喉を通らないんデス…」
魔法使い「食いすぎじゃっつーの…」
スライム「母国に国籍を置いたままであっても、この国おいて遺言書を作成できるか? でも問題はそれだけじゃないですよね」
僧侶「そうね。この国で作成した遺言書が母国でも有効に成立していると認められ、効力が発生するのかどうかも関わるんじゃない?」
戦士「勇者さんどうだい? え? 遺言書を書くことは可能だけど、遺言書の成立や効力については母国の法律によって判断が必要…へえ、そうなんだ」
有効な遺言書であると判断されるためには?
戦士「勇者さんが言うには…遺言書の成立や効力について、日本の法律には『遺言成立当時の遺言者の本国法による』と決まってるわけか」
魔法使い「この国も偶然ながら、日本の法律と一緒じゃからのう…なんとも便利な世界観設定じゃ」
僧侶「それを言っちゃダメよ…(笑) つまり、遺言書の成立や効力の発生については母国の法律の規定を確認する必要があるのね」
ボブ「そうなんですね。でもそうそう母国には帰れないし…母国の法律なんてわからないし」
スライム「あっ、そこはお任せください! スライムは世界各地にいますから、ボブさんの国のスライムに連絡を取ってみますね。…ビビビ、と、ちょっと時間がかかりますから話を進めててください」
戦士「スライムのツノって、アンテナにもなってるのか? 元ネタの設定を超えてるな…」
外国人の相続に適用される法律を準拠法という
僧侶「勇者さんが言うには、どこの国の法律が適用されるのかを決めるときに適用される法律を準拠法というんだって」
戦士「んで、遺言の成立及び効果については、『法の適用に関する通則法』で決まってるんだってさ」
ボブ「つまり、2つのルールに従っていなければダメというわけデスネ?」
戦士「そういうこったな。見ろよ、勇者さんの光の地図が輝きだしたぞ。なになに? 作成する『遺言書の方式』については、以下の4つの法のいずれかに従って作成している場合に有効である…か」
- 遺言を作成した場所の法
- 遺言の成立時または死亡時に国籍があった場所の法
- 遺言の成立時または死亡時に住んでいた場所の法
- 遺産である不動産の所在地の法
僧侶「在日外国人の方の場合、3と4に該当するようね。ということは、日本の方式に従って遺言を残せるってわけか」
日本の方式であれば自筆証書でも公正証書でも大丈夫
戦士「ほう、日本の方式であれば自筆証書遺言でも公正証書遺言でもOKなんだってさ」
ボブ「ヒャーッハー!よかったぜええ!」
魔法使い「北●の拳のチンピラみたいな喜び方じゃのう」
僧侶「でも、光の地図に出ていた2の場合、『遺言書の成立時または死亡時に国籍があった場所の法』となっているから、日本に住んでいる場合であっても母国の法律に従った方式の遺言書を作成することもできるみたいね」
魔法使い「日本における遺言書の方式については、この旅の扉から先に進めばわかるぞい」
《魔法使いおすすめの「旅の扉」》遺言書の書き方・方式・注意点を行政書士事務所の事例と共に解説!
遺言書の成立・効力の有効性は何を根拠に判断する?
ボブ「魔法使いさん、ありがとうございマス! 遺言書の効力について、母国におけるルールのチェックは…スライムさん、どうデスカ?」
外国人の方の母国法の法令をもとに判断する
スライム「お待たせしました、ボブさん。いまボブさんの母国にいる仲間に連絡を取ったのですが、本国の法律でも問題なさそうですよ」
僧侶「よかったわね! でも勇者さんがひとつ気を付けてほしいって」
戦士「ほうほう、国際相続の場合に自筆証書遺言はおすすめできないので、公正証書遺言にしたほうがいい、と」
スライム「わからないでもないですね。自筆証書遺言は死後に家庭裁判所による検認手続きが必要でしょう? 検認のとき、申立人が出席する必要がありますから、もしボブさんがこの国にいないということがあれば、とても大変になりそうですよね」
魔法使い「…スライムって、頭いいんじゃのう…わし、ぜんぜんそこまで思いつかんかった…」
スライム「あ、私、レベル99なので」
ボブ「確かに、ビジネスですから、この先どのようになっていくかは、状況次第ですからネ」
どんな言語で遺言書を書くのか
僧侶「公正証書遺言であれば検認などの問題は出なさそうだけど、ボブさんの場合、この国の言語で書くのかしら? それとも母国語?」
戦士「勇者さんが言うには、公正証書遺言の場合はこの国の言語で作成しなければならないんだってさ。日本なら日本語ってことだな。日本語を話すことが難しいときには、作成時に通訳がいるらしい」
《魔法使いおすすめの「旅の扉」》公正役場で作る公正証書遺言とは何ですか?手続の流れ、必要書類、手数料等を解説!
在日外国人の遺言書作成は国籍国の法を確認する
ボブ「ありがたいデスー! これで悩みがなくなって、心おきなく商売に励むことができそうデスー!」
僧侶「よかったね、ボブさん、これから遺言書を作りたいという外国のお仲間がいた場合、まずはその方の国籍国の法を確認することが大事ですよ!」
魔法使い「これだけアドバイスをしたんじゃ。薬草のひとつくらい、まけてくれんかのう?」
戦士「何を言ってるんだよ…」
ボブ「もちろんお礼はいたしマス! これは、我が国に伝わる、暁星所思の剣といいましてネ! 売り物にはならなかったので、持ち歩いていましたが、勇者さんならきっと役に立てていただけると思いマス!」
戦士「…これって、勇者さんが探していた、伝説の武器のひとつじゃないのか…?」
僧侶「そうよ! まさかこんなところで見つかるなんて!」
魔法使い「勇者さんが手に取ったとたん、神秘的な輝きが…どうれ手近なモンスターで試し斬りしてはどうかのう?」
スライム「…ちょっと、なんで私の方を見てるんですかー!」
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