遺言執行者による戸籍訂正許可審判から死後の離婚手続をした事例

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遺言執行者による戸籍訂正許可審判から死後の離婚手続をした事例

 

ご相談者様:60代女性 Aさん

私の母が長年連れ添った事実婚の男性が先日亡くなり、遺言により母が贈与を受けることになりました。

男性に相続人は一人おりますが、母への贈与の事を知りそれは当然だと言っていただき、非常にありがたく感じています。

 

さて、男性がかつて外国人女性と結婚していて、その後離婚したことは母も知っていましたが、いざ相続が始まり男性の戸籍を見てみるとまだこの外国人女性と離婚していない状態になっておりました。

どうも外国人女性の母国で一緒に暮らしていた時に離婚届けを出し受理されたのですが、日本側では誰も離婚届けを出しておらず婚姻状態のままだったようです。

 

また、色々調べるとこの外国人女性ももう既に亡くなっていました。

彼女の代襲相続人は海外にいて、かつ離婚はだいぶ前に成立しているので遺留分の請求を受けることはなさそうですが、母はどうもすっきりしないと申しております。

記録上の事とは言え他の女性とまだ婚姻関係にあることが心理的なしこりになってるのかもしれません。

娘の私としては男性の日本の戸籍を離婚したことに訂正し、母にすっきりと遺贈を受けてもらいたいと希望しております。

 

実は、もう一つ問題が見つかりました。

外国人女性の名前が外国と日本とで微妙に違っていたのです。

外国の離婚証明を入手して日本の役所に相談してみたのですが、名前が異なる以上同一人物として扱う事はできないので日本の戸籍を離婚に訂正はできない、と言われてしまいました。

 

長々と申し上げましたが、このような場合はどうしたらいいのでしょうか?

アドバイスをいただければ幸いです。

回答:長岡行政書士事務所 長岡

ご相談いただき、ありがとうございます。

お話をうかがう限り、2つの対応が必要になると思います。

それは戸籍訂正審判と離婚届の提出です。

それでは、それぞれ詳しく解説していきます。

 

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戸籍事項に訂正箇所がある場合の戸籍訂正審判

まずは日本で戸籍訂正を行い、日本の戸籍の名前を海外の名前に合わせます。

次に、戸籍訂正審判で審判が確定した後には外国で成立している離婚の証明をその男性の本籍地である役場に提出し日本の戸籍上も離婚している状態に訂正します。男性は既に死亡しているので、死後の離婚手続きとなります。

戸籍訂正審判とは

外国人の名前はミドルネームがあったり、その国の言語によって発音が変わったり(例:英語ではVの発音はヴだがドイツ語ではフになる)して日本人の名前とは違う複雑さが存在します。

 

戸籍訂正審判の手続きの概要

まず、誰が間違えたかにより手続きが異なります。

 

役所側の間違いにより戸籍の内容が誤っている場合は役所だけでの手続きで戸籍が訂正されますが、届出人などの間違いにより戸籍の内容が誤ってしまった場合は、家庭裁判所へ戸籍訂正許可審判の手続きを行い認容された後、役所に届出をすることになります

 

このケースは届出人の間違いにあたりますので、後者の家庭裁判所へ戸籍訂正許可の申立を行う必要があります。

 

家庭裁判所で戸籍訂正許可の申立を行うことができる人は次の通りです。

 

・戸籍の記載につき身分上又は財産上の利害関係者(利害関係者に遺言執行者を含む)

・戸籍の届出人

・戸籍に記載された本人

 

戸籍訂正許可の手続きを行う家庭裁判所は、訂正する戸籍の本籍地を管轄する家庭裁判所になります。

 

戸籍訂正審判の必要書類

戸籍訂正申立時に家庭裁判所へ必要となる書類は次の通りです。

  1. 申立書
  2. 発行後三カ月以内の戸籍謄本
  3. 戸籍訂正に関する資料(本件だと遺言書、海外の離婚判決書及びその翻訳文等)
  4. 収入印紙・郵便切手

 

ご相談者様:60代女性 Aさん

ここまでは理解できました。私の母と事実婚であった男性が離婚した外国人女性の名前は以下の通りです

(このコラムでは仮名を使わせていただきます)

日本の戸籍:ヨハナ ハインツ

海外の戸籍:Johanna Heinz

海外の離婚判決書中の記載:Johana Heinz Tanaka

そうすると、日本の戸籍を「ヨハナ ハインツ タナカ」とする必要があるのですね。

回答:長岡行政書士事務所 長岡

はい、その通りです。

そのためにヨハナ ハインツとJohana Heinz Tanakaが同一人物であることを日本の家庭裁判所に認めてもらい、日本の戸籍を海外の離婚判決書中と同じものします。

家庭裁判所に提出する書類の申立書に証拠となる事実を書きますが、書き切れない場合は別紙に記載して申立書と一緒に提出します。

本件で証拠となりうる事実として下記が挙げられると思います。

  • その国の人とは一度しか婚姻したことがない
  • ファーストネームが同じ
  • 婚姻日が同じ

さて、家庭裁判所から許可が下りたら次は死後離婚に移ります。

外国人が相続人であるときの遺言書の扱い

ここで、今回の事例のように外国人が相続人の際、その相続人の国との関係性はどうなるのでしょうか。

外国人が相続人の場合はどこの国の規定が適用されるか、日本の法律に従って遺言書を作成できるのか?など、

どういったことが問題になるのか、簡単に触れていきます。

 

遺言書を書くとき、外国人が相続人の場合、主に以下の点を検討する必要があります。

  • 遺言の方式の問題
  • 遺言の成立及び効力の問題

外国人が相続人になる場合は、その外国人の国の法律も適用になるか?など、そこについて確認する必要がありますが、

一般的には、国際法というこういった場合に備えた横断的な下記の法律があり、まずはそこを確認いたします。

  • 遺言の方式の準拠法
  • 法の適用に関する通則法

遺言の方式の問題

例えば、遺言書を書面で作成するか、口頭なのか、遺言書作成の年齢など、

書く上で必要な形式的要件の問題です。

これは「遺言の方式の準拠法に関する法律第2条1.3.4号」で規定されていますので、

日本の法律に従い作成が可能であり、今回は問題がありませんでした。

遺言の成立及び効力の問題

そして、遺言書の効力発生時期、遺言の撤回の可否などの、実質的に遺言書に効力があるかの問題で、

法の適用に関する通則法という法律の中で該当する37条1項という規定があります。

 

この規定によると、

法の適用に関する通則法(遺言)
第三十七条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。
と規定されていることから、当該外国人の本国法によるようにも思えます。
しかし、さらに通則法を確認すると、
法の適用に関する通則法(反致)
第四十一条 当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。
という規定があり、その国の国際私法を確認いたします。
その国が例えば遺言の成立及び効力の問題について「遺言者の住所地法を適用すべき」と定められている場合は、
もう一度日本法に戻り、日本法の適用、つまり今回ですと民法の規定を受けることとなります。
したがって、今回の事例はこの反致が適用されている国だったことから、当該遺言の効力等の問題はクリアしておりました。
いずれにせよ、外国人が相続人の場合は上記2つの問題を確認することが大事です。
詳しくは下記記事でご確認ください。

合わせて読みたい>>>在日外国人は日本で遺言書を作ることができるのか?外国人の相続について解説

死後の離婚の手続き

死後離婚とは、配偶者と死別した後に配偶者の血族(義父母や義理の兄弟姉妹)とその親族の姻族関係を終わらせる手続きのことです。

(一般的に死後の離婚というのはこの姻族関係を終わらす手続きで使うことが多いです)

姻族関係終了届とは

ここでいう姻族関係とは夫婦の結婚によって結ばれる親族関係のことを指し、結婚によって親族となった配偶者の両親や兄弟姉妹が該当します。

 

具体的な死後離婚の手続きとは、市区町村役場に「姻族関係終了届」を提出することですが、

この姻族関係終了届は死亡した人の配偶者が届け出を行います。

 

嫁や婿との折り合いが悪いからといって、死亡した人の親や兄弟姉妹が届け出ることはできません。

 

より死後離婚について詳しく知りたい方は死後離婚について書かれた別コラムをご参照ください。

 

合わせて読みたい>>>死後離婚とは何かを解説! 遺産相続や遺族年金の影響、 義父母との関係について

 

死後に提出した離婚届

ご相談者様:60代女性

ご相談者様:60代女性

そうしますと、私の母の場合はどうなりますでしょうか。

もう既に海外で離婚が成立しておりますが。

回答:長岡行政書士事務所 長岡

お母さまと同居されていた男性は海外でもう離婚が成立していましたが、日本の市区町村役所でも離婚届出の手続きをする必要があります。

つまり元々2回離婚届出を行わなくてはいけなかったのが、時間が経ち今やっと日本側で離婚届出を行うという事です。

よって一般的な死後離婚のやり方である姻族関係終了届を提出するのではなく、相続人様に離婚届けを書いていただきご署名まで委託のがいいと思います。

離婚届けの提出は誰でもできますが、遺言執行者がいるのであればその方に頼まれてはいかがでしょうか。

 

また、離婚届の提出時に戸籍訂正申立の経緯や、公認翻訳士により和訳された海外の離婚確定判決を添えて提出し、本件の経緯を市区町村役所に説明する必要があります。

全て手続きが終了すると男性の日本の戸籍に海外女性の名前の訂正と離婚の記載が入ります。また、死後離婚は姻族関係を終了させるので、外国人女性の代襲相続人から遺留分侵害請求を受けることもなくなります。

お母さまが望まれていた通り、これですっきりと胸のつかえが降りるのではないでしょうか。

 

外国人との結婚は法律の適用や戸籍について複雑

本日は少し特殊なケースかと思われたかもしれませんが、今後国際化の進展により国際結婚が増えてくるとこのように戸籍訂正手続が必要となったり、また結婚観の変化により親族への介護の懸念から死後の離婚が増えてくることが考えられます。

 

問題に直面したらまずは専門家に相談し、どのようなサポートが得られるかを検討してみてはいかがでしょうか。

 
行政書士 長岡 真也
この記事の執筆・監修者:長岡 真也(行政書士)
神奈川県行政書士会所属(第12091446号)
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