遺言書を作成したときに指定される遺言執行者は、遺言の内容を実現する役割を担います。
でも、遺言者が亡くなるより前に、遺言を託したはずの遺言執行者が亡くなると言うケースもありえます。
もしも指定した遺言執行者が亡くなってしまったら?
作成した遺言の執行はどうなるのでしょうか?
遺言執行者当人としては、気になって夜も眠れないかもしれません…いや、もう永遠の眠りについているのですが…。
ここ「虹の橋遺言相談所」は、そんな迷える遺言執行者(故人)が、死後に訪れる神様管轄の相談所。
自分が果たせなかった遺言の行方を相談し、安心していただく場所です。
なので、相談員はみな、メイドのコスプレをしておりますが、いたって真面目な相談所です。
おや、さっそくおひとりいらっしゃいましたね。
さあ、新人相談員のバニラさん、店長の私とともに、お迎えしてくださいね。
目次
遺言執行者が亡くなっても遺言自体は有効?
バニラ「お帰りなしゃいませ、ご主人様!」
店長「違いますよ。ご主人様はメイドカフェでしょ。ここは遺言執行者の来る相談所だから、『ご執行者様』でしょ」
バニラ「はーい♡」
執行者「あの、なんでお帰りなさいなんですか? 」
店長「もちろん魂が一度帰ってくる場所、要するに天国でございますから」
執行者「はあ。あの…実は私、とある事情で死んでしまいまして…」
店長「Aさんの遺言執行者として、自分が役割を果たせず亡くなってしまったのが心残り…ですよね?」
執行者「なんでわかったんですか?」
バニラ「ビンゴー♡」
店長「バニラちゃん。いまは湿っぽいムードなんだから」
バニラ「だってー、ご執行者様を励まそうと思ったんでしゅ♡」
執行者「……。あの、いいですか? 素朴な疑問なんですが」
店長「なんなりと」
執行者「実は、Aさんの遺言書で遺言執行者に指定していただいて、私、頑張ろうと思ったんです。でもこんなことになってしまって。もしかしたら私のせいで、遺言が無効になってしまったりしないんでしょうか?」
バニラ「不安でしゅね~、バニラがイイ子イイ子してあげましゅ♡」
執行者「……」
店長「遺言の手続きをする人がいなくなるわけですから、確かに無効になるかどうか不安ですよね。でも遺言は有効になりますので、ご安心ください、ご執行者様」
執行者「そ、そうですか! よかった、それだけが心残りで」
バニラ「よかったでしゅね~! これで心置きなく成仏できましゅね。でも、ちゃんとバニラと遊んでからじゃないとダーメっ♡」
執行者「……あの、温度感の落差についていけないんですが」
店長「皆様そうおっしゃいますが、すぐに慣れますよ。まあ、ゆっくりとバニラちゃん特製のラブラブ♡バニラクリームほうじ茶でも飲みながら、落ち着かれてください。私も、遺言執行者が亡くなった場合の相続手続きについてお話ししますので」
執行者「お、お願いします」
相続開始前に遺言執行者が亡くなった場合には?
店長「まずは、遺言執行者が亡くなったのが相続開始前と相続開始後どちらかです。今回は…相続開始前ですね。まだ遺言者が生きてますね」
執行者「はい」
店長「相続開始前に遺言執行者が亡くなった場合は、遺言執行者がまだ就任していない状態ですので、新たな遺言執行者を指定するか、相続開始後に遺言執行者の選任申立てをすることになりますね」
執行者「新たな遺言執行者を指定するのは、遺言者がすることでは?」
店長「その通りです。亡くなった方の他に指定したい遺言執行を遺言書で指定するんです。このときの遺言書を書き換えて新たに作成するんです」
執行者「相続開始後に遺言執行者の選任申立てというのは何でしょうか?」
店長「たとえば、亡くなった遺言執行者のほかに指定したい人がいない場合や、遺言者の判断能力が衰えてしまって新たに指定することが出来ないなんてこともありえますよね?」
バニラ「ぼっち、かわいそうでしゅ~、ご執行者様のせいで」
執行者「わ、私のせいで…?」
店長「バニラちゃん、言い方。ラブラブ♡バニラクリームほうじ茶はまだですか?」
バニラ「いま、ほうじ茶の茶葉を栽培してましゅ~♡」
遺言執行者の選任申し立ては利害関係者ができる
店長「そこから? 早くしてね。失礼しました。相続開始後に利害関係人が遺言執行者の選任申立てをすることができるんです」
執行者「選任申立て?」
店長「家庭裁判所に対して行い、候補者を立てて申立てることです」
執行者「どんな人を候補者にしたらいいんですか?」
店長「相続人や受遺者の一人、知り合いの専門職の者、あるいは自分自身を候補者にすることもできるんですよ」
バニラ「でもご執行者様は死んじゃってるから、無理でしゅ~♡」
執行者「あああ…」
店長「バニラちゃ~ん! …気になされないで下さいね。根はいい子なんです。さて、申立て後に、家庭裁判所で審判されたら、遺言執行者が選任されることになります。その方が、あなたに代わって相続手続きを行うんですよ」
執行者「そうなんですか、よかった! ちなみに、相続が始まってから亡くなったらどうなるんですか?」
相続開始後に遺言執行者が亡くなった場合には?
店長「まず前提として、相続開始は遺言者の死亡時ですが、それがすなわち遺言執行者の就任タイミングとなるわけではないんです。就任遺言執行者が引き受けることを承諾した時点で役割が生まれると考えるんです」
執行者「というと…」
バニラ「バニラのラブビームが届いたタイミングということでしゅ!」
遺言執行者の就任の時期
店長「違うよ、バニラちゃん! 任務を開始したときには相続人に通知する義務がありますから、通知時点で『遺言執行者が承諾し就任した』となるわけです」
バニラ「惜しかった~♡」
店長「ということは、『遺言執行者が承諾し就任した』あとに、遺言執行者が亡くなった場合、遺言執行者の任務は終了して遺言執行者という地位ではなくなります。もちろん亡くなっているので、反論の余地はないですよね」
執行者「相続人みたいに、遺言執行者の親族とかが引き継ぐのかな?」
店長「民法では、地位の承継義務はありません。でも何もしなくてほったらかしでいいというわけではないんです。ほったらかしで思い出した! バニラちゃん、お飲み物はまだ?」
バニラ「いま牛さんのミルク絞り待ちでしゅ~♡」
遺言執行者が就任後死亡した場合の義務
店長「もうコンビニででも牛乳買っておいで…。脱線しました。遺言執行の報酬は遺言執行者が生前有していた権利になりますので、遺言執行を終えていた範囲については遺言執行者の相続人が報酬の請求権を相続することになるんです。遺言者の相続人に対して請求をすることができます。遺言執行者の相続人に言い換えると、遺言執行者の相続人は、遺言者の遺族または相続人が困らないように、以下のような手続きをしなくてはいけないんですね」
手続き1:応急処分義務
それまで遺言執行者が取り扱っていた事務手続きを、遺言者の相続人が引き継ぐまでの間、必要な処分を行う。
手続き2:保管していたものの引渡し
遺言執行にあたって預かっていた通帳や遺言書などの物件は、すべて相続人や新しい遺言執行者に引き渡す。
手続き3:遺言執行業務の進捗状況の報告
遺言執行者が何の手続きをどこまで行っていたか、わかる範囲で相続人等に報告する。同時に、保管物の確認・引き渡しと共に、そこから分かる状況を可能な限り説明する。
手続き4:死亡通知
遺言執行の任務が終了した旨を、遺言者の相続人等に通知する。その際、遺言執行者の戸籍謄本等を添付して、遺言執行者の死亡の事実を明確にする。
手続き5:報酬の請求
遺言執行者が生前執り行った手続きについて権利義務が発生していた場合、それを相続人に承継する。
遺言者の相続人がすべきこと
執行者「相続人は、新たに遺言執行者を選任しなくてはいけませんよね?」
店長「そうですね。家庭裁判所に選任を申し立てることができますし、新たな遺言執行者を選任せずに、すべての相続人が協力して手続きをすることも可能になります。もっとも、後者の場合は大変ですから、選任したほうがいいと思いますけどね」
執行者「いずれにせよ、私のように遺言執行者が死亡してしまうと、遺言を実現するのに時間がかかりますよね。事前に、万が一に備えて、遺言者が候補者を数名立てておくことは可能なんですか?」
店長「可能です。主には次の3つの方法があります」
遺言執行者死亡のリスクを減らすために
複数の遺言執行者を指定
遺言執行者は複数指定も可能。これにより遺言執行者がいなくなるという事態を避けることができる。
予備的な遺言執行者を指定
「遺言執行者に指定したAが亡くなった場合は、Bを遺言執行者として指定する」というように遺言執行者を指定しておく。
法人を遺言執行者に指定
遺言執行者は、法人でもなることができる。法人であれば死亡という事実はない(解散をしたり破産をしたりすることはあります)。
遺言執行者の指定は専門家に相談を
執行者「いろいろと方法があるんですね。もし私もこのことを知っていたら、予備的な遺言執行者を立ててもらうなどをお勧めしていたかもしれません」
店長「なかなか身近な知識ではないので、やはり遺言作成のことについては行政書士など専門家に相談したほうがいいでしょうね。ところで…バニラちゃん、ラブラブバニラクリームほうじ茶は、そろそろ…」
バニラ「話が長くて眠たくなっちゃったので、バニラのラブが売り切れちゃいました~」
店長・執行者「出てこんのかい!」
この記事を詳しく読みたい方はこちら:えっ?まさかの、遺言執行者が就任後に亡くなったら、誰が何をするの?