遺言書の作成能力(遺言能力)とは?判断基準や必要資料を行政書士が解説!

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相談事例:遺言書の作成能力ってどの程度必要なの? ~医学判断と法律判断~

「両親に遺言を書いてもらいたいけれど、高齢でどの程度の内容が書けるのか心配。」
「遺言が残されていたけれど、作成時、判断能力があったのか疑わしい。」
「遺言は元気なうちに書いておいた方が良いのだろうか。」

遺言は遺言を書かれた方の「意思の表れ」ですから、ご家族は書かれている財産の分け方について、そこから遺言者の想いを受け取り、納得して遺言に従った遺産分割をすることになります。

しかし、その意思の表れである遺言が書かれた当時、本当にそれが遺言者の明確な意思によるものだったのかどうか疑わしいときには、書かれてある遺産分割の方法に納得がいかなかったり、本当にその遺言に従ってよいのか疑問を持ってしまったりする場合があります。
そもそも法的に有効な遺言書を作成するときには、遺言者本人に「遺言能力」が求められます。

まれにこの「遺言能力」の有無が争点となる事案もあるため、とくに高齢の方・認知症の疑いのある方が遺言書を残すとなれば、周囲の方は不安になるかもしれません。

今回はそのような「遺言が遺言者の意思によって作成された」という点について、その判断をどうするのか、つまり遺言能力の判断基準について説明したいと思います。

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遺言能力とは

まずは遺言が有効なものとして扱われるために必要な「遺言能力」について説明します。

遺言能力とは、遺言の内容を理解して、その結果自分の死後にどのようなことが起きるかを理解することができる能力のことです。

遺言能力が認められる要件は、次の2つです。

  • 満15歳以上である
  • 意思能力がある

民法では以下のように規定しています。

(民法961条)
15歳に達したものは、遺言をすることができる。

(民法963条)
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

なお、ここでいう「能力」とは、一般的に商取引において判断を下すような能力よりは、低い程度のものを意味するとされています。

よって、自分の行為の結果が通常人の様に理解できず法律の保護を受けている成年被後見人、被保佐人、被補助人であっても、一定の状況、遺言内容であれば、遺言能力は肯定されることがあります。

いいかえると、たとえば認知症の人が遺言書を書いたからといって、ただちに無効と判断されることではない、ということです。

遺言能力の有無が問題となる事例

遺言能力の有無が問題となる事例としては、次のようなケースが挙げられます。

【事例】相談者:50代男性

私には80代後半の父がおり、母はすでに他界しております。その父が先日亡くなり、遺言が書かれていたことが分かりました。
遺言書が書かれたのは亡くなる少し前で、だいぶ判断能力も衰え、一人で何かするのは難しく、施設に入所した後です。
遺産は土地を含む自宅不動産と預貯金のみですが、遺言書の内容は、ほとんどすべての財産を姉に相続させるもので、私には、ごく少しの預貯金を相続させるだけの内容になっていました。父がその遺言の意味をどの程度理解して書いたのか分かりませんが、何となく納得がいきません。
父の判断能力が衰えていたことを理由に、この遺言が無効であると主張できるのでしょうか。

【回答】長岡行政書士事務所 長岡

高齢化が進んだ現代社会では、認知症を患ったり判断能力の低下がみられる高齢者の方も多く、そのような方が遺言を書いていた場合、今回のご相談者様の事例のように、書かれた遺言が有効なのかどうかが争点となる場合があります。

今回のご相談者様の事例では、遺言者の認知能力がどの程度であったのか、この時点では明確な情報がありません。また、遺言書が書かれた経緯や遺言書の内容についても具体的ではなく、この情報をもって無効の主張ができるかどうか判断することは困難です。

認知症や判断能力の低下がみられた際の遺言の作成は、遺言を作成する能力があったのかどうかという「遺言能力」の問題になります。
遺言能力が認められるかどうかについては、その判断方法が問題になりますので、今回はこの遺言能力について解説したいと思います。

このように遺言内容について納得が行かない場合、遺言能力の有無に焦点が当たるケースが多いのです。

遺言能力を有する者(意思能力)の判断について

民法の条文では、この「遺言能力を有する者」であることの判断基準についてまで言及していませんので、遺言作成者が高齢の場合などで認知症が疑われる場合などには、

特にこの「遺言能力」があったのかどうか、その判断をどのようにするのかが問題になるのです。

実は、どのような状態であれば遺言能力を有すると言えるのかどうかについては、いまだに絶対的な判断基準は確立されていません。

そのため遺言能力が争われる際には、遺言者が遺言を書くことができる状態であったのかどうか、認知症などを含めた精神状態等について「医学的」な判断を考慮しつつ、裁判官が遺言の内容や作成動機についても考慮した上で、遺言能力の有無を「法的」に判断することになります。
ここからは、医学的な遺言能力の判断と、法的な遺言能力の判断について、詳しく見ていきましょう。

医学的な遺言能力の判断

医学的判断とは、遺言を作成した当時、遺言者がどのような精神状態にあったのか、遺言の内容や結果について判断できるだけの状態にあったのかを医学的な見地から判断するものです。

医学的な遺言能力の判断にあたっては、遺言者の診察にあたっていた医師による診察記録や診断書、介護を受けていた場合には介護記録や要介護認定の資料などが判断材料となります。

他に、認知症については長谷川式スケールと呼ばれる認知症の簡易検査手法があり、この点数も判断材料となります。

長谷川式スケール は、認知症の疑いや認知機能の低下を早期に発見するための簡易的な認知機能テストのことです。所要時間5~10分と短時間であり、多くの医療機関で使用されています。30点満点中20点以下で認知症の疑いありとなります。

これら資料は、医師などが客観的に遺言者を診察した結果が記されていますので、遺言能力の有無の判断にあたっては、とても大切なものとなります。

ただし、医師が認知症と判断したからと言って、それだけで遺言能力が否定されるわけではありません。

認知症と一口に言っても症状や進行具合は様々ですので、個別の案件ごとに遺言能力の有無が判断されることになります。

法的な遺言能力の判断

前述した医学的な判断は、それ単独では遺言能力があったのかどうか判断することはできません。

なぜなら、遺言の内容を理解していたのかどうかは、その遺言の内容がどの程度のものであるかにより異なるからです。内容が単純であれば理解できたとしても、複雑であれば理解が難しくなる場合があります。

したがって認知症などの精神状態を明らかにしつつ、そのような状態で理解して書いた遺言だと言えるのか、遺言内容について法的な見地から判断することも必要となります。

この遺言内容の法的判断については、遺言がどの程度複雑か、ということと、どうしてそのような内容にしたのかという遺言作成の動機や理由について合わせて判断していきます。

ここで2つの例を挙げてみましょう。

  • 例①遺言内容「すべての預貯金を一人息子に相続させる」
  • 例②遺言内容「不動産については長男に、有価証券についてはA社とB社を長女に、C社は次男に相続させ、預貯金は甲さんに遺贈する」

①の遺言は、子どもは息子一人で、その一人にすべての預貯金を相続させるものですから、内容は単純であり、動機も自然です。

しかし②の遺言は、複数の子どもに複数の財産を分割しており、しかも第三者の甲への遺贈もあります。

内容は①よりもかなり複雑です。また、3人の子どもに差をつけた理由が何であるのか、甲に預貯金を遺贈する理由は何であるのか、合理的に遺言者本人が説明できなければなりません。

②のような場合には、認知能力の衰えた遺言者に、第三者の甲がそそのかして書かせた可能性もあり、子ども達への相続内容も、どの程度本人の自発的な意思に基づいて決定したものか分かりませんので、遺言内容の複雑性と合わせ、作成した動機について思い違いなどがなかったかを検討していくことになります。

遺言能力の有無を判断するのに使われる資料

遺言能力の有無は、医学的な観点、法的な観点をふまえ、総合的に判断されることをお分かりいただけたでしょうか。

なお、実際の裁判においては、「遺言能力に関する資料」をどれだけ集めて提出できるかによって、結果が変わってくるケースが多いです。

そして遺言能力判定に使われる資料の代表例としては、次の4つが挙げられます。

  • 長谷川式認知スケール
  • 医者によるカルテ、検査結果といった医学的見地から残された資料
  • 介護記録や看護記録、故人が遺言作成当時に書いていた日記など
  • 遺言書そのもの

それぞれ詳しく見ていきましょう。

長谷川式認知スケール

神経心理学検査の「長谷川式認知スケール」 では、医師から本人に対して自分の年齢、今日は何日であるか、今自分がどこにいるのかなどの質問をして、その回答内容に点数をつけ点数によって認知機能の低下の具合を計測します。

具体的に質問を見てみましょう。

【質問】今日は何日ですか?

【評価】日にちを答えられたら正解、1点を加える

【質問】私たちがいるところはどこですか?

【評価】完全に正解できたら2点を加える

家ですか?病院ですか?など誘導を含むヒントによって正解できたら1点を加える

このような質問により本人の記憶力、計算能力、言語理解、空間認知、判断力、思考力、認識力などを数値化します。

点数が10点以下については遺言能力を認めないことが多く、11点~19点の場合はケースによって判断、20点以上の場合には遺言能力を認める可能性が高いとされています。

医者によるカルテ、検査結果といった医学的見地から残された資料

遺言者本人の入院通院していた病院等医療機関のカルテ(看護日誌、CT・MRI、各種検査内容を含む)も遺言能力の有無を判断する有力な資料となります。

本人が生きているときは相続人が遺言者のカルテのコピーを請求することはできませんが、死亡した時は法定相続人は、カルテの開示を求めることができます。

カルテの開示については、日本医師会の「診療情報の提供に関する指針」及び厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」の2つのガイドラインがあります。

この2つのガイドラインによりますと、医療機関は死亡に至るまでの診療経過や死亡原因等の診療情報を提供しなければならないとされています。

介護記録や看護記録、故人が遺言作成当時に書いていた日記など

介護士の介護記録や、自治体の介護認定を受けていた場合は介護認定票も重要な資料となります。

また、医療従事者による資料ではないですが、遺言者が日記などをつけていた場合はその内容と遺言内容に矛盾がないか、あれば合理的な説明がつくのかという点もチェックしましょう。

遺言書そのもの

実は遺言書そのものも、遺言能力の有無を判断させるときに役立ちます。

たとえば本人に遺言能力がなく、特定の相続人が誘導して書かせた自筆証書遺言のほとんどは極めて短い文言で全部自分に相続させる遺言であることがほとんどです。

遺言能力がない本人に細かい指示をして誤字脱字なく書き切ることには限界があるからです。

また、遺言の動機(理由)についても判断基準になります。たとえば子どもがいない遺言者を世話してくれた姉と、仲の悪い弟がいるケースであれば、「姉に全財産を渡す」という遺言内容は極めて自然だと考えられます。

反対に、このようなケースで「弟に全財産を渡す」という短い文章の自筆証書遺言が残されていたとしても、遺言能力が疑われるかもしれないということです。遺言者と相続人(受遺者)の関係性についても、遺言能力の判断では注目されます。

逆にいえば、ある程度細かい内容の自筆証書遺言が作成されている場合、偽造でないことが証明できれば遺言が有効となる可能性が高くなります。

遺言内容の複雑性は、遺言能力の判断において重要な判断基準です。

合わせて読みたい>>自筆証書遺言とは?5つの要件やメリット・デメリットを行政書士が分かりやすく解説!

また、公正証書遺言は公証人などの客観的な第三者の関与があり、またいつから連絡を取って準備をし始めたかなどの時期もわかるので、問題とすべき遺言作成時の状況が特定しやすい傾向があります。

ただ、公正証書遺言では事前に文面の準備は可能であり、また遺言者本人が遺言作成の準備段階に参加してないこともあります。公正証書遺言であるから確実に有効というわけではないことに留意しておくべきでしょう。

合わせて読みたい>>公正証書遺言とは?要件や注意点・メリット・デメリットを行政書士が分かりやすく解説!

遺言作成の意思能力が争われた裁判例

では最後に、遺言者の遺言能力が認められた場合と、認められなかった場合の裁判例を挙げますので、実際にはどのような資料をもってどのような判断がされているのか、参考にしてみてください。

意思能力が肯定された裁判例

事件名:東京地裁平八(ワ)第1651号 遺言無効確認請求事件

【概要】
入院中の94歳の遺言者Aの嘱託に基づき作成された公正証書遺言書について、相続人の一人がそのほかの共同相続人及び遺言執行者である弁護士に対し、次の理由から遺言の無効確認を求めた事案。

  • Aは遺言作成当時94歳で老人性痴呆の状態にあり、危篤状態にもあったため、遺言の内容を理解することも遺言をなし得る判断能力もなかった。
  • 危篤状態のため遺言の趣旨を公証人に口授できたはずがなく、公正証書遺言としての要件を欠いていた。

【判決】
遺言者Aが遺言作成を決意するまでの経緯、病状の推移、遺言作成直前における医師の診断内容、公証人とAのやり取りなどを詳細に認定した上で、Aは遺言能力を有しており、口授の方式にも瑕疵はないと判断し、請求を棄却、遺言能力ありとして、遺言を有効としたもの。

【解説】
本件では、94歳のAに遺言の内容を理解し、遺言をなし得る判断能力があったのかどうか、また公証人との口授の際、内容を理解した上でのAの意思が発言されていたかどうかの判断が争点となりましたが、以下の点に鑑み、遺言作成時の意思能力は認められ、口授も有効と判断に至ったものです。

  • 遺言者Aに老人性痴呆に基づく症状がみられたものの、日中の生活には大きな支障はみられず、CT検査による脳の萎縮等については、加齢の域をさほど超えるものではなかったこと。
  • 一時危篤状態に陥ったものの、その後回復し、家族の呼びかけに対しても返答するまで回復したこと。
  • 遺言作成時の状況についての医師の診断書では、意思能力が十分にあったとされたこと。
  • 公証人との口授についても、Aは項目ごとに、その内容通りに各人に相続させることで良い旨を返答していたこと。

これらの様々な状況をもとに、遺言作成時において意思能力ありとし、遺言は有効であるとされました。

■参考文献:判例タイムズ967号209頁

意思能力が否定された裁判例

事件名:横浜地裁平成17(ワ)第678号 遺言無効確認請求事件

【概要】
亡母Aが作成した公正証書遺言について、相続人である子ども4人のうち2人が、他の相続人2人に対して、遺言作成当時、Aは認知症により遺言能力がなかったため、作成された遺言が無効であることの確認を求めた事案。

【判決】
Aの入通院カルテ、介護施設の記録等に基づき、公正証書遺言作成前後のAの生活状況、精神状態、担当医師らの診断内容について検討し、本件遺言当時、Aは中等度から高度に相当するアルツハイマー型の認知症に罹っており遺言能力がなかったことから原告らの請求を認め、公正証書が無効であると判断した。

【解説】
本件遺言は、公証人に嘱託し、公証人がA宅を訪問して作成されたものでしたが、以下の状況を鑑みて、Aには遺言能力があったとは認め難いという判断に至ったものです。

  • 遺言作成を依頼したのは銀行員で、主導的な立場で原案を作成した可能性があった。
  • 公証人が遺言を読み上げて確認した際、Aは「はい」「その通りで結構です」などの簡単な返事をしただけであった。
  • 遺言の内容は、多数の不動産について複数の者に相続させ、なおかつその一部は共同して相続させるものであった。また遺言執行者の指定についても項目ごとに2名を分けて指定するなど、比較的複雑であった。

作成当時の認知症の状態から、遺言を作成した経緯や内容の複雑度において、それをなし得るだけの遺言能力はなかったと判断され、遺言が無効となりました。

■参考文献:判例タイムズ1236号301頁

認知症の人の遺言書でも無効になるとは限らない

遺言は、ご自身の思いや財産を、残される人たちに伝えるとても大切なものです。

しかし、まだ元気だから、と書くことを先延ばしにしていると、知らず知らずのうちに年月を重ね、遺言を書くことが難しい状態になってしまうことがあります。

せっかく書いた遺言でも、遺言能力がなければ無効となってしまう場合がありますし、有効なのか無効なのかを相続人で争うことになってしまう場合もあります。

この記事で紹介したとおり、遺言能力には医学的基準と法的基準があり、たとえば認知症の人の遺言書でも、必ずしも無効になるとは限りません。

そうはいっても、遺言能力の有無を争うことになると、相続人間の負担が増えてしまうことも事実です。

遺言作成を検討している方は、ぜひ元気で遺言能力に疑いのないうちに書いておくことをおすすめします。

また、既に高齢になっている、もう認知症の症状が出始めているなど、遺言能力に疑いを抱かせるような事情がある場合には、医師の診察を受けて、本人のその時の状態を後で証明しておけるようにしておきましょう。
判断が難しい場合やどうしたらいいかという疑問がある場合は、ぜひ横浜市の長岡行政書士事務所にご相談ください。

長岡行政書士事務所では、遺言の作成に親切丁寧に対応しております。遺言作成について検討されている方、遺言能力に不安があるものの遺言書を書きたいと考えている方は、ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。

ご両親の遺言作成に関する相談も歓迎しています。

 
行政書士 長岡 真也
この記事の執筆・監修者:長岡 真也(行政書士)
神奈川県行政書士会所属(第12091446号)
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