「公正証書遺言を作りたいけれど、費用はかかるの?」
「公証役場に支払う費用は高そう・・・」
「公正証書遺言の作成にかかる費用、どのくらいか検討がつかない。」
公証人が作成する公正証書遺言は、自分で作成する自筆証書遺言に比べると形式的な不備等で無効になることが少なく、原本の保管も公証役場でされるなど、より確実な遺言の実行が図れる遺言形式です。しかし公証役場は日常生活では馴染みのない場所ですので、作成するにあたっては色々な面からためらわれてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、そんな公正証書遺言の作成について、”費用“の観点で解説をしていきたいと思います。
目次
公正証書遺言を作るには費用がかかる
Aさん:「こんにちは。今回もよろしくお願いします。」
長岡:「よろしくお願いします。突然ですがAさん、遺言書の作成に費用はかかると思いますか?」
Aさん:「費用ですか?うーん・・・、今までのコラムで遺言についてたくさん学んできましたが、費用については具体的にすぐ思い浮かばないですね。自筆証書遺言は自分で作成するのであまりかからないと思いますが、公正証書遺言はどうなのでしょうか・・・。」
長岡:「そうですね。今まで遺言について様々観点から説明させて頂きましたが、具体的な費用についてはお話したことがありませんでした。」
Aさん:「公正証書遺言については、公証役場に作成をお願いするので費用がかかりますよね。でも、どれくらいするのか見当がつきません。」
長岡:「先ほどAさんがおっしゃったように、自筆証書遺言は自分で作成するので、費用といっても用紙や封筒などにかかる程度です。もし法務省の遺言書保管制度を利用した場合は、保管の申請費用は3900円かかりますが(※1)、遺言書の作成自体はそこまで費用を気にする必要はないのかもしれません。」
(※1)参照法務省ホームページ
Aさん:「費用の点からも、自筆証書遺言はとりあえず作成しやすい遺言の形式ですね。」
長岡:「そうですね。今までのコラムで、自筆証書遺言に比べ、公正証書遺言はより確かな遺言を残したいときに有効であることは説明してきましたが、具体的な費用についてお話したことはありませんでした。ご自身で作成する場合、費用も大事な検討ポイントかと思いますので、今回は公正証書遺言を作成する際の費用について説明したいと思います。」
Aさん:「そうですね。それでは、よろしくお願いします!」
公正証書遺言の費用はどのくらい?
長岡:「公正証書遺言作成にかかる費用は、大きく分けて次のような内容で発生します。」
- 公証役場に支払う費用:目的の価額や加算項目によって変動
- 公証人の出張費用・日当・交通費等(出張を依頼した場合):実費
- 証人2名分の依頼費用:1万円~3万円程度(1名あたり5,000円~1万5,000円程度)
- 必要書類の準備費用:2,000円~3,000円程度
Aさん:「費用と言っても、作成だけにかかるわけではないのですね。」
長岡:「そうですね。作成自体に発生する基本的な費用と、それに加算される費用や書類の準備費用があります。」
長岡:「また、『公証役場に支払う費用』に関してですが、公証役場に支払う作成に当たっての費用は、公証人手数料令という政令で決められているものですので、公証役場が自由に定めているものではありません。」
Aさん:「では、役場ごとに手数料が異なる、ということはないのですね。」
長岡:「作成費用についてはそうなります。では、具体的な金額をみていきましょう。」
公正証書の作成手数料:目的の価額や加算項目によって変動
長岡:「公証役場に支払う手数料は先ほど触れた通り、政令で定めがあります。公証人手数料令第9条で別表になっていますので、まずはこの表をみてみましょう。」
公証人手数料令第9条別表は次の通りとなっています。
目的の価額 | 手数料 | |
① | 100万円以下 | 5000円 |
② | 100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
③ | 200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
④ | 500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
⑤ | 1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
⑥ | 3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
⑦ | 5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
⑧ | 1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
⑨ | 3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
⑩ | 10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
※全体の財産が1億円以下のときは、1万1000円を加算する(遺言加算)。
Aさん:「目的の価額によって段階的な設定になっていますね。」
長岡:「そうです。ところでAさん、この“目的の価額”とは、何だか分かりますか?」
Aさん:「相続財産の価格ではないのですか?」
長岡:「例えば相続財産が不動産2000万円、預貯金800万円あり、相続人2人のうち一人が不動産を、もう一人が預貯金を相続する場合、どうなるでしょうか?」
Aさん:「相続財産は2000万円+800万円=2800万円なので⑥にあたり、手数料は29000円ではないのですか?」
長岡:「そう考えてしまいそうですが、ここで気をつけたいのは、手数料算出にあたっては、『財産の相続(遺贈)を受け取る人ごとに』財産の価額とそれに対する手数料額を出し、合算したものが全体の手数料となる点です。」
Aさん:「相続財産トータル額を先ほどの表に当てはめるわけではないのですね。」
長岡:「そうなります。財産を受け取る人ごとに『目的の価額』とそれに対する手数料を算出していきます。
公正証書遺言の加算項目
公証人手数料には先ほど紹介した一覧表以外に、加算項目もあります。
長岡:「加算項目には次のようなものがあります。」
【加算項目】
①全体の財産が1億円以下の場合の加算
②公正証書遺言の原本・正本・謄本の枚数によってかかる謄本手数料
③公証人が出張する場合の出張費等の加算
【各加算項目の説明】
①全体の財産が1億円以下の場合、1万1000円が手数料に加算されます。
②公正証書遺言は、公証役場が保管する原本と、遺言作成者に渡される正本・謄本があります。
謄本手数料は、コピー代のようなもので、枚数によって金額が異なります。
・原本→4枚を超えるとき(横書きの場合は3枚)は、超える1枚ごとに250円の手数料が加算されます。
・正本及び謄本→1枚につき250円の割合の手数料が必要となります。
③遺言者が病気等のために公証役場に行くことができない場合、公証人に病院や施設、ご自宅等に出張にきてもらい、作成することがあります。その場合、前述した表の手数料に50%加算されます。
その他、公証人の日当、現地までの交通費等がかかります。
長岡:「以上のような加算項目がありますが、①の加算以外は計算が細かくご自身で確実な金額を算出するのは難しいと言えます。大まかな金額を知るだけであればおおよその金額を出すことはできますが、細かい金額まで確実に知りたい場合には、公証役場に問い合わせることをおすすめいたします。」
公正証書遺言作成手数料の具体例
長岡:「それでは、先ほどの例をもとに具体的に数字をみていきましょう。」
【具体例】
・相続財産:不動産2000万円、預貯金800万円
・相続人:長男・長女の2人
・遺言内容:不動産を長男に相続させ、預貯金は長女に相続させる。
【公証人手数料の算出】
・長男分:目的の価額は2000万円なので、手数料は⑤で2万3000円
・長女分:の区敵の価額は800万円なので、手数料は④で1万7000円
Aさん:「なるほど、ではこの場合の手数料は2万3000円+1万7000円で、4万円ですね!」
長岡:「と言いたいところですが、そうではないのです。加算項目がありますので、まず財産の価額をもとに手数料を出し、その金額ベースに加算がある場合はそれらを合算する必要があります。」
証人2名の費用
Aさん:「公証役場へ支払う手数料についてはわかりました。なかなか細かいですね。」
長岡:「そうですね。大まかな手数料が分かったら、次は手数料以外の費用について知る必要があります。」
Aさん:「証人に支払う報酬がありました!」
長岡:「はい。公正証書遺言は、証人2名が必要です。証人は未成年者と利害関係人以外であれば誰でもなることができますが、誰が証人になるかによって、費用は変わってきます。」
- 行政書士などの士業に依頼する場合:1万円程度
- 公証役場に紹介してもらう場合:7,000円~1万5,000円程度
- 知人にお願いする場合:5,000円~1万円程度
長岡:「上記の金額は証人一名分ですので、費用としては上記金額の2倍が必要となります。」
それぞれの詳細は次の通りです。
行政書士などの士業に依頼する場合
行政書士などの士業に証人を依頼する場合、一般的に目安となる金額は1万円程度です。
公証役場に紹介してもらう場合
役場によって異なりますが、おおよそ7,000円~1万5,000円程度となります。
知人にお願いする場合
知人に頼んだ場合、費用はかかりません。しかし、お礼としていくらか支払う場合、その分の支出が伴います。お礼の金額としては、5,000~1万円程度をみておくと良いでしょう。
必要書類の取り寄せ費用
Aさん:「ここまででも、色々な費用がかかることがわかりました。」
長岡:「では最後に、必要書類を揃える費用についてみてみましょう。」
Aさん:「公正証書遺言を作成するにあたって揃える公的書類などですね。」
長岡:「そうです。主な必要書類と費用を以下にまとめてみました。」
書類の種類 | 内容 | 金額 |
遺言者の印鑑証明書 | 遺言者の本人確認資料 | 1通300円 |
戸籍謄本 | 財産をもらう人と遺言者の関係が分かる戸籍謄本 | 1通450円/除籍・改製原戸籍については750円 |
住民票 | 財産をもらう人と遺言者の関係が分かる戸籍謄本/相続人以外の場合、その人の住民票 | 1通300円(市町村により異なる) |
不動産の登記事項証明書 | 1通600円 | |
固定資産評価証明書 | 不動産1つにつき300円程度(市町村により異なる) |
【具体例】
前述した例に当てはめてみると、一般的には印鑑証明書1通、戸籍謄本1通、登記事項証明書と固定資産評価証明書を1通ずつ取得することになり、かかる費用は1650円、役所までの交通費や、郵送で請求する場合の郵送料などを考慮すると、約2000円~3000円ほどになると考えられます。
公正証書遺言を自分で作成する場合の合計費用
今回は、公正証書遺言作成の費用について解説いたしました。みなさんが想像した費用と比べていかがでしたでしょうか。
費用の中でも公証役場に支払う手数料は、財産の金額と相続人(受遺者)の人数によって異なるため、作成に係る手数料はいくら、と一概に言うことができません。
コラムの中で例に挙げたケースについておおよその合計金額をみてみると、次のようになります。
手数料4万円
1億円以下の加算1万1千円
印刷代 約2000円
証人2名分 約2万2000円
必要書類の費用 約3000円
合計約7万8000円
以上のように、ほとんど費用のかからない自筆証書遺言に比べて、公正証書遺言の作成には比較的高い金額の費用がかかります。
けれども、前述した通り公正証書遺言は安心かつ確かな遺言形式ですので、遺言書の作成をご自身ですることを検討されている方は、費用の負担と遺言の確実性双方を十分に考慮し、どちらの遺言で作成することがご自身にとって最適かを見極めることが大切といえます。
長岡行政書士事務所では遺言書作成の豊富な経験がございますので、遺言書作成について何かお悩みのある方は、ぜひ一度お越しいただき、お話をお聞かせください。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。