「自分のいなくなった将来を想像すると、遺言にいろいろ条件を付け加えたくなる。」
「将来孫が大学に入学した際にお祝い金をあげたいけれど、随分先のことで自分がどうなっているのか心配。遺言で対策はできるだろうか」
「遺言内容に条件をつけることはできるのか?」
遺言は、自分のいなくなった将来を想像して、誰に何をどう譲ろうか考えて作成する方が多いと思います。
しかし、遺言書を作成する段階では将来のことは未定であり、自分の亡き後本当に想像通りになるのかは分かりません。
相続人や受遺者の状況が将来どのようになっても遺言内容に変わりがない場合は、作成するときに内容をどうしようか、悩むことは少ないかもしれません。
もし「将来子どもがもしこうなったら、孫がもしああなったら」と、相続人や受遺者の将来に合わせて遺言内容を決めたい場合、内容をどのようにすべきか悩むかもしれません。
このような悩みがある場合は、遺言に条件を付ける「停止条件付遺贈」を活用しましょう。
今回は、「停止条件付遺贈」について説明していきたいと思います。
ご相談者様:60代男性
私は、現在妻と二人で老後の生活を送っており、子どもは息子と娘が一人ずついます。息子と娘は随分前に実家を出ていますが、
息子は結婚し、最近私の初孫となる子どもが生まれました。子ども達も独立し、もし自分に何かあった場合、妻は一人になりますし、そろそろ遺言を書くことを考え始めました。
自分が亡き後、遺される妻にはもちろん財産を残したいと思いますが、生まれた孫の将来も考えてしまいます。将来はぜひ大学まで卒業し、多くの学びを得て欲しいと思っていますが、大学に進学するには費用がかかります。
そこで、もし私が亡き後孫が大学に入学することになった場合に財産を譲り渡したいのですが、このようなことはできるのでしょうか。
ご相談者様の条件において、まずそもそもとして、お孫さんに財産を相続させることは遺言で可能です。
遺言は誰に何をどれだけ譲り渡したいのか、遺言者の自由な意思で決めることができます。今回は、お孫さんが「大学に入学することになったら」とのことですので、必ずお孫さんに相続させる内容ではないですが、
結論から申し上げますと、そのように「もし入学したら」という条件をつける遺言も認められています。今回は、このように遺言に「条件をつける」ことについて説明いたします。
目次
遺言には条件を付けられる
遺言は一般的には、財産について「何を・だれに・どれだけ」譲り渡すのかを記します。そして、本来は遺言者が亡くなったときに効力が発生し、遺言の執行となります。
しかし前述のように、財産を譲り渡す際の条件を記載した遺言も認められており、それは「停止条件付遺贈」とよばれています。
分かりづらい言葉ですが、「ある条件が達成されるまで、遺贈が停止されている」ということになります。
この停止条件付遺贈では、遺言者が亡くなったときに効力は発生しません。遺言で定めた条件が成就したときに効力が発生します。
したがって、遺言者が亡くなったのち、条件が成就するまでの間は、遺贈の目的物はいったん相続人が取得したことになります。
これは原則として、法律上の定めに則った扱いをしていることになります。
そして条件が成就したときに、受遺者が目的物を取得し、相続人は目的物を失います。
停止条件付遺贈の具体例
それでは、実際に停止条件付遺贈にはどのようなことが書かれるのか、下記の具体例をみてみましょう。
- 孫が結婚したら自宅不動産を遺贈する場合
- 孫が大学の医学部に入学したら現金を遺贈する場合
孫が結婚したら自宅不動産を遺贈する
例えば、遺言者の保有する財産が自宅不動産と預貯金で、配偶者は先に亡くなっており、子ども一人とその孫がいる場合とします。
このとき、子どもは預貯金を相続してくれれば良いが、孫が将来家庭をもつことになったときを考えて、そのときに孫に自宅不動産を残したい場合です。
「遺言者〇〇は、孫の△△が婚姻したときに、下記不動産を孫△△に遺贈する」のように記載します。
孫が大学の医学部に入学したら現金を遺贈する
今回の相談者様のご相談内容に近い内容となっています。
孫が学費のかかる医学部への入学を果たした際には、学費援助やお祝いも兼ねて財産を遺贈したいという場合です。
「遺言者〇〇は、遺言者の孫△△が大学の医学部に入学したときは、孫△△に金200万円を遺贈する。」のように記載します。
上記のような停止条件付遺贈の遺言が残されている場合、孫は、遺言に記載された条件を成就した場合に遺贈の履行を請求できることになります。
条件が達成(成就)した時期による停止条件付遺贈の取扱い
今までで説明した通り、停止条件付遺贈は条件が成就した場合に遺贈が履行されますが、条件は必ずしも成就されるとは限らなく、
また、条件の成就が遺言者の想定より早くになされる可能性もあります。
このような場合、その遺言はどうのようになってしまうのでしょうか。
受遺者が条件の成就前に亡くなった場合
はじめに、条件が成就することなく、受遺者が亡くなってしまった場合についてみてみましょう。
この場合、遺言の効力は生じず無効となりますが、遺言全体が無効となるわけではなく、亡くなった受遺者に遺贈する予定だった部分についてのみ無効となります。
また、亡くなった受遺者に相続人がいた場合でも、その相続人は遺贈を受ける権利を有しません。
こうして無効となった部分については「法定相続」によることになり、別途相続人全員で遺産分割協議をする必要がでてきます。
ただし、遺言者が遺言で別段の意思表示をしている場合は、それにしたがうことになります。
遺言者が亡くなる前に条件が成就した場合
では次に、遺言者が亡くなる前、まだ生存しているときに条件が成就されてしまった場合はどうなるのでしょうか。
この場合、何もせず放っておいても、遺言者が亡くなった時点で遺贈の効果は生じます。
つまり、無条件の遺言となります。
したがって停止条件付遺贈の遺言のままでも大きな問題は生じませんが、後に混乱を招く恐れもありますので、
相続人や受遺者の関係や状況を考慮して、必要に応じて遺言書の書き直しをすべきだといえます。
また、「条件が成就したのだからその時(つまり遺言者の生前)に贈与しておく」ことも考えられますが、
贈与については相続税に比べると贈与税の税率が高いことから、税負担の大きさに注意が必要となります。
遺言に条件を付けるときは相手とも相談する
今回の記事では、条件を付ける停止条件付遺贈の遺言書の作成について解説をしました。
停止条件付遺贈は、財産を遺贈したい相手の将来の状況を考慮することができますが、条件の成就は不確かであることから、将来もめごとになる可能性もあるといえます。
遺言の内容や書き方について不安のある方、悩みがある方は、ぜひ専門家と相談してみることをおすすめいたします。
弊所では、遺言書の作成に関して丁寧な対応を心がけております。
遺言に関して悩まれている方は、たとえご本人様が些細なことと思われても、ためらわずに一度長岡行政書士事務所へご相談ください。