「財産は不動産しかないけれど、子ども達に平等に現金で相続させたい」
「現金と不動産がある場合の相続、不動産をどうして良いかわからない。」
「不動産はお金に換えてお世話になった人に分けたいけれど、そんなことできるの?」
相続について考えたとき、差し当たり思い浮かぶご自身の財産が不動産だけの場合、不動産を現金にかえて相続できるのか疑問を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。
不動産は財産の中でも大きな価値のあるものですから、その不動産に引き続き居住する必要のない場合などは、現金化して相続した方が、自由に財産を自由にできると言えます。
不動産を現金にかえて相続したい場合の遺言の方式に、「清算型遺贈」と呼ばれるものがあります。
この記事ではその清算型遺贈について事例や注意点など、押さえておきたいポイントを解説していきますので、ぜひ一読いただき、活用してください。
目次
清算型遺贈とは
「清算型遺贈」とは、被相続人(相続される人=亡くなった人)の遺産である不動産を売却処分して現金化し、その現金から債務などを弁済したのち、残った現金を相続人(※1)または受遺者(※2)に遺贈(※3)するという内容の遺言書のことを指します。
(※1)相続人=被相続人の財産を引き継ぐ人。相続人になるべき親族は法律で定められており、法律で決まる相続人を「法定相続人」といいます。
(※2)受遺者=遺言により財産を受け取る人のこと。一般的には本来の法定相続人以外の者に財産を相続させる場合に使われる言葉。
(※3)遺贈=遺言書により、亡くなった人の財産を相続人や相続人以外の人に無償で財産を引き継がせること。
相続=財産を、法律の規定に従って、法律で定められた相続人(法定相続人)に引き継がせること。
例えば被相続人に子どもが2人おり、保有する財産が「現金」と「土地・建物の不動産」である場合で考えてみましょう。
「現金」と「土地・建物の不動産」について遺言を残そうとした時、単純に「不動産は長男」「現金は次男」と分けることもできます。
しかし、保有する現金が少額で不動産の価格と差がある場合などは、不動産を現金化して兄弟平等に分配して相続させたい、という場合もあるかもしれません。
あるいは、遺産を受け取る方がすでにマイホームを所有しており、遺産である不動産をそのまま相続されることで、使用しない不動産の固定資産税や維持費などが発生するため、不動産をそのまま引き継ぐことが有益ではない場合もあります。
さらには、相続人となる親族はいないけれど、お世話になった人に自分が亡き後自宅不動産を現金化して渡したい、という場合もあるかもしれません。
このような場合、遺産である不動産を売却処分して現金化する「清算型遺贈」をすることで、有益な相続が可能となります。
清算型遺贈では、「遺言執行者」を指定することが特徴です。
指定された遺言執行者は、遺言に基づいた不動産の売却処分などの手続きをします。
清算型遺贈がオススメな事例
それでは、次に清算型遺贈の事例を具体的にくわしく説明します。
不動産などの財産を現金に換価して遺贈する清算型遺贈の遺言ですが、具体的にどのようなケースに利用されるのか、どのように分類できるのかみてみましょう。
- ケース①不動産を換価しないと平等に分配することが難しい場合
- ケース②相続後に空き家となってしまう場合
- ケース③被相続人に多額の債務があるが債務超過ではない場合
- ケース④相続税の納税資金に不安がある場合
- ケース⑤お世話になった方に現金で遺贈したい場合
これらの場合には清算型遺贈ではなく、相続人や受遺者が不動産を引き継いだ後に換価分割をすることも可能です。
しかし、その場合、相続人らに大きな負担をかけることになります。そのため、遺言執行者を指定して清算型遺贈をすることがオススメです。
不動産を換価しないと平等に分配することが難しい場合|ケース①
相続人の現金や預貯金が少ないなど、不動産を換価しないと平等に分配することが難しい場合は、清算型遺贈が有用です。
不動産を現金に換価することで、被相続人の現金や預貯金の遺産が少額でも、複数の相続人や受遺者に平等に現金を分配することができます。
相続後に空き家となってしまう場合|ケース②
相続後に空き家となってしまう場合も、清算型遺贈がオススメです。
不動産を売却して現金化することで、固定資産税などの維持費負担を減らす効果が期待できます。
被相続人に多額の債務があるが債務超過ではない場合|ケース③
債務超過の場合は相続放棄が望ましいです。
しかし、被相続人に多額の債務があるものの、債務超過ではない場合は、清算型遺贈を行うことで多少の金銭を相続できます。
相続税の納税資金に不安がある|ケース④
相続人が保有する現金や預貯金が少なく、不動産を相続した場合に相続税が支払えるのか不安な場合も、清算型遺贈がオススメです。
不動産を現金化して相続することで、納税資金の不安を解消することができます。
お世話になった方に現金で遺贈したい場合|ケース⑤
不動産を所有しているものの相続人となる親族がおらず、お世話になった方に現金で遺贈したい場合にも、清算型遺贈は活用できます。
身内ではない第三者に自宅不動産そのものを譲っても、譲られた方がその不動産に居住する予定がなければ、扱いに困ってしまうことが考えられます。
不動産を現金化して遺贈すれば、相手に負担をかけることなく財産を譲れます。
清算型遺贈の6つのパターン
清算型遺贈には、次の6つのパターンがあります。
- パターン①全財産を換価し、全部包括遺贈(※1)をする。
- パターン②全財産を換価し、割合的包括遺贈(※2)をする。
- パターン③特定財産(※3)を換価し、全部包括遺贈をする。
- パターン④特定財産を換価し、割合的包括遺贈をする。
- パターン⑤特定財産を除いた財産を換価し、全部包括遺贈をする。
- パターン⑥特定財産を除いた財産を換価し、割合的包括遺贈をする。
(※1)全部包括遺贈=全財産を一人に遺贈すること
(※2)割合的包括遺贈=複数人にそれぞれ割合を指定して遺贈すること(例AとBに各2分の1ずつなど)
(※3)特定財産=土地A、土地Aの建物、土地B等、複数の財産のうち特定された財産のこと
つまり、清算型遺贈では以下のような方法が可能となります。
- 現金・土地などすべての財産を現金化して一人に遺贈する、あるいは複数人に割合を指定して遺贈する。
- 土地Aとその上の建物を現金化して一人に遺贈する、あるいは複数人に割合を指定して遺贈する。
- 土地Aと土地Bのうち、土地Aのみを現金化し、一人に遺贈する、あるいは複数人に割合を指定して遺贈する。
このように、ご自身の保有する財産や相続人・受遺者の数や状況に合わせて、どのように換価分割するのか定めることができるのです。
清算型遺贈における遺言執行者
清算型遺贈では被相続人が亡くなった後、遺言にしたがって不動産の処分等の手続きが行われます。
この時、遺言書の中で遺言執行者を指定しない場合、その手続きは遺言者の相続人全員で行わなければなりません。
清算型遺贈に付随する手続には、以下のようなものがあります。
- 不動産の売却手続き
- 売却代金の分配
- 不動産登記の手続き
- 税務申告
専門家でない一般の方がこれらの手続を日常生活の中で行うのは大変な労力を必要とします。
したがって、清算型遺贈では遺言執行者として行政書士などの専門家を指定し、実務作業は遺言執行者に委ねることが一般的です。
清算型遺贈における遺言執行者は、特に実務経験豊富な専門家を指定することが大切になります。
なぜなら、前述のように清算型遺贈では財産の売却・登記・税務申告といった多様な手続が必要となるため、それらをスムーズに行うためにも誰に遺言執行者となってもらうか、その指定が大切なポイントとなります。
例えば売却手続きでは、遺言執行者は不動産売却の実務を担うことになり、不動産についての知識がある程度必要となります。
不動産のおかれている状況は千差万別なため、最終的には宅建業者に依頼して適正な金額で買主を見つけてもらい、売却を実行していくことになりますが、その際、適切な宅建業者を選び、業者と対等に渡り合えるだけの知識と経験が必要となります。
登記手続では、後述するようにいくつか段階を経て登記しますが、遺言執行者の指定がない場合、法定相続人全員が登記手続きに協力する必要があり、かなりの負担が生じるといえます。
税務申告では、後述する譲渡取得税申告についても十分に留意して手続きを進める必要があります。
以上のことから、清算型遺贈の遺言では、遺言執行者を誰にするのかについては十分検討し、可能であれば法律の専門家を指定しておくことが安心といえます。
清算型遺贈と不動産登記
では、清算型遺贈による遺言で不動産を売却する際の不動産登記について、どのような手続きがなされるのかみていきましょう。
(事例)
被相続人である父が、子AとBに、不動産を換価処分させ、必要な費用を控除した残金につき、各2分の1ずつ相続させる清算型遺贈の場合(配偶者は先に亡くなっていたものとします。)
不動産登記は以下の1→2の順にすることになります。
- 被相続人が亡くなった後、法定相続人全員(AB)への相続登記(持ち分2分の1ずつ)
- 不動産売却後、買主名義とする所有権移転登記
このように清算型遺贈では、被相続人亡き後、不動産の所有権は一旦相続人全員に帰属し、その登記が必要となります。ポイントはいきなり被相続人から買い主への所有権移転登記とはならない点です。
上記12の登記いずれも、遺言執行者が指定されている場合は相続人の関与を要せず手続きが可能ですが、遺言執行者の指定がない場合は、相続人全員で行う必要があります。
では相続人がいない場合、被相続人が亡くなった後の登記はどうなるのでしょうか。
このようなケースは、例えば相続人がまったくいない方が、お世話になった方に不動産を清算型遺贈する場合にあてはまります。(受遺者はいますが、相続人がいない状況)
一般的な相続人不存在の場合、前述1の相続登記の代わりに、「亡相続財産法人」名義にして相続財産管理人を選任し、その管理人が売却などの手続きをすることになっています。
しかし清算型遺贈の場合には、相続財産管理人を選任する必要はなく、遺言執行者が単独で相続財産法人への名義変更登記をし、売却の際には遺言執行者と買い主の間で所有権移転登記を申請することができます。
本来であれば相続財産管理人を選任してもらった上で手続きを行う必要がありますが、清算型遺贈で遺言執行者が指定されている場合、相続財産管理人を選任することなく、当該変更登記を行うことができ、そのまま売却手続きまで行うことができます。
なお、清算型遺贈で不動産を売却する場合、譲渡所得税には注意しなければなりません。
譲渡所得税とは、不動産売却の際、不動産を購入した当時の金額と今回の売却金額とを比較し、売却代金の方が高ければその利益に対して課税される税金です。
清算型遺贈の実務では遺言執行者が不動産を売却してその代金を相続人や受遺者に交付しますが、不動産の所有権は一旦相続人名義となっているため、形式上は相続人の名義で財産を売却することになります。
不動産の売却代金も、一旦法定相続人に帰属してから受遺者に交付されるため、相続人に対して譲渡所得税が課税されることになります。
したがって、清算型遺贈によって現金化された財産がすべて相続人に遺贈される場合は問題になりませんが、相続人のほかに受遺者がいた場合、あるいは受遺者のみが遺贈される場合は注意が必要になります。
受遺者が受け取った不動産の売却代金にかかる税金は、本来受遺者が納めるべきなのですが、登記簿上には受遺者の名前は載っておらず、相続人名義となっています。もし受遺者が納めなければ、不動産を相続していない相続人が譲渡所得税を負担することになってしまいます。
よって、事前に譲渡所得税額を計算しておき、納税分を控除した上で売却代金を受遺者に交付する必要がある点に注意しましょう。
清算型遺贈は現金化できるメリットと手続の負担を検討する
清算型遺贈は、不動産という大きな財産を現金化して遺贈させることができるという点で、不動産を所有している遺言者やその相続人、受遺者にとって有益な遺言の方法です。
一方で、遺言執行時の手続きが煩雑でもあり、様々な場面で注意が必要となります。
清算型遺贈の遺言を作成する場合には、それらの手続きを担う遺言執行者の指定に留意し、このコラムも参考にしていただくことで、相続人や受遺者に負担のない相続を実現させることができるでしょう。
長岡行政書士事務所も、実務の場面で清算型遺贈は相当数お手伝いしました。
そもそも法律に詳しくない方が難しい手続きの流れを把握し、必要な書類を取得し、業者を選定し、適切に遺産を分配する、さらには税金関係も考慮しながら他の相続人と連絡調整するのは至難の業です。
その意味で遺言執行者の役割は大変重要でかつミスができないことを考えるとやはり法律の専門家が就任することの意味は大きいと感じます。
皆様もこれは無理かな?大丈夫かな?と遺言書のことでお悩みの方はぜひご相談し、より良い方向を一緒に見つけていきましょう。お読みいただきありがとうございました。