遺留分を侵害する遺言は無効ではない!相続トラブルを防ぐポイントを行政書士が解説

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遺留分を侵害する遺言は無効となるのか?遺留分を侵害する遺言は無効となるのか?(導入マンガ)

「遺言書の内容は、自由に決めてよいと聞いたけれどどうしよう。」
「長男だけに相続させたいけれど、問題はないのか。」
「あとでもめてしまう遺言にはしたくない。」

 

遺言書を作ろうと内容について考えたとき、上記のような疑問や悩みに思い至ることがあるかもしれません。

遺言については「遺言の自由」が認められており、遺言を書く・書かない、書く場合はどのような内容を書くのかは、遺言者の自由な意思に任されています。

 

したがって、財産をだれにどのように分けるのかについては、遺言者の考えや想い、家族状況や関係性によって実に様々なパターンがあり、ひとつとして同じ遺言書はないと言っても過言ではありません。

 

しかし、自由に書くことのできる遺言書だからこそ、遺言者亡きあと、その内容をめぐって遺された家族間で争いが起きてしまう場合があるのもまた事実です。

 

なぜなら、遺言者に「遺言の自由」がある一方で、一定の相続人には「遺留分」と言われる最低限度の遺産取得割合が法律で保障されているからです。

 

今回はこの「遺留分が無視された(=侵害された)」遺言書について、相談事例に基づいて解説します。

 

遺留分を侵害する遺言は無効ではないものの、相続トラブルを防ぐポイントがあることも知っておきましょう。

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遺留分を侵害する遺言も有効ではある

「兄弟の1人に全財産を譲る」などといった、遺留分を侵害する遺言も有効ではあります。

ご相談者様:50代男性

私は30代で結婚後、都内の実家から独立し、神奈川県内の持ち家に妻と住む50代の会社員です。

私の母はすでに他界しており、実家では私の兄夫婦と高齢の父が同居しておりました。
先日その父が亡くなりましたが、生前作成していた公正証書遺言があることが分かり、その内容を知ることとなりました。
内容は、自宅不動産を含め、残りの預貯金もすべて兄に相続させるものでした。

兄夫婦は確かに両親の世話をしておりましたが、私自身も結婚後、自宅購入を含め、経済的援助を親から受けることなく頑張ってきました。
それにもかかわらず、実子である私にまったく何も残されないことが分かり、ショックを受けております。
片方の子どもにすべてを譲り渡すような遺言は、そもそも有効なのでしょうか。

 

回答:長岡行政書士事務所 長岡

ご相談者様の場合、結論から申し上げますと、お兄様に全財産を譲るとした遺言も有効となります。
遺言の内容は遺言者の意思で決定できますから、遺言の形式や要件を満たしておらず無効、ということがなければ有効となります。

 

お父様の作成された遺言は法律の知識をもった公証人が作成した公正証書遺言ですから、形式不備によって無効となることはほぼありません。
一方、ご相談者様は遺言者との関係ではお子さんにあたるわけですから、「遺留分」も認められており、今回の遺言はこの「遺留分」を無視したもの(=侵害している)になっています。

 

今回は、この「遺留分を侵害している遺言」について解説していきたいと思います。

 

遺留分とは?範囲と割合を解説

前述の通り、一定の相続人には、「遺留分」とよばれる最低限の財産を譲り受ける権利が認められています。

ここで少しだけ、遺留分についておさらいをしてみましょう。

遺留分の範囲

遺留分とは、一定の相続人が、相続に際して法律上取得することが保障されている、遺産の一定割合のことです。

遺留分の認められる相続人は、配偶者・子・直系尊属(父母・祖父母等)とされています。なお、兄弟姉妹は含まれません。

遺留分の割合

遺留分の割合は、配偶者・子は法定相続分の2分の1。直系尊属は3分の1です。

なお、法定相続分については次のように定められています。

  • 相続人が配偶者と子の場合:財産の2分の1ずつ
  • 相続人が配偶者と直系尊属の場合:配偶者は財産の3分の2、直系尊属は3分の1
  • 相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合:配偶者は財産の4分の3,兄弟姉妹は4分の1

遺留分を侵害する遺言も無効とはならない

遺言者が遺言でどのような財産の譲り渡し方を指定していたとしても、一定の相続人にはこの遺留分が保障されています。

 

遺留分は、遺言で自分以外の人に財産が渡ることによって、取得できる財産がなくなってしまう相続人を救済するための制度です。

 

ただし、今回のご相談者様の場合のように遺言がこの遺留分を無視した内容の場合、その遺言は認められず無効になるのかというと、そうではありません。

遺留分を侵害している内容であっても、その遺言は有効とされます。

法律は、「遺留分が侵害される遺言書が作られること」を想定したうえで、「遺留分侵害請求権」について規定していますので、遺留分を侵害したことをもってその遺言書自体が無効となるものではないのです。

 

また、遺留分の侵害があった場合、遺留分を侵害された相続人(=遺留分権利者)は自分の遺留分を「請求できる」のであり、実際に「請求する・しない」のかの判断は、その遺留分権利者に任されています。

遺留分は必ずしも請求されるとは限りませんから、請求されなければ遺言書通りの内容で実現されます。

 

「遺留分を侵害する遺言」と「遺留分侵害請求権」との関係

では、遺留分が侵害されていて「遺留分侵害額請求をする」となったとき、その「遺留分を侵害する遺言」との関係はどのようになるのでしょうか。

遺留分侵害額請求をした場合、その遺留分を侵害する遺言は無効になるのでしょうか。

 

結論は、「無効とはならない」です。遺留分侵害請求がなされたとしても、その遺言は無効にはなりません。
遺留分侵害請求権は、遺留分に相当する「お金を取り戻す権利」だからです。

具体的な遺留分侵害額請求と遺留分侵害額請求額計算例

具体的な遺留分侵害額請求の例を見てみましょう。

【例】
「長男にすべての遺産を相続させる」という遺言が残されていて、次男の遺留分が500万円侵害されたとき、次男は長男に対して500万円のお金の支払いを請求できます。

 

今回の相談者様の事例では、法定相続はお兄様とご相談者様とでそれぞれ2分の1ずつです。

遺留分はその2分の1となりますので、1/2×1/2となり、ご相談者様は遺留分として相続財産の「4分の1」をお兄様に請求することができます。

遺言それ自体は有効ですので、不動産と預貯金はお兄様が相続することになります。

遺留分侵害請求権には時効がある

この遺留分侵害請求権は、いつまでも認められているものではありません。

遺留分侵害請求権には時効という期限がありますので注意が必要です。

遺留分侵害請求権の時効は、次のように定められています。

  • 相続開始と遺留分侵害を知ってから1年
  • 相続開始から10年

相続開始と遺留分侵害を知ってから1年

被相続人が死亡した事実と遺留分を侵害する遺言書を知ったら、そのときから1年以内に遺留分侵害請求をしなければなりません。

相続開始から10年

相続が開始されたことや、遺留分を侵害する遺言の存在を知らなかったとしても、相続開始から10年が経過すると、遺留分侵害請求権は消滅してしまいます。

 

遺留分を侵害する遺言で相続トラブルを起こさない対策

今までで説明した通り、遺留分を侵害する遺言も有効です。

しかし有効だからといって、遺留分を侵害することを知りながら明確な理由もなく、そのような内容の遺言を書くことは避けた方が良いといえます。

 

遺留分を侵害された相続人が遺言内容に納得がいかず、遺留分侵害請求権を行使する可能性があり、その場合、財産を譲り受けた相続人との間でトラブルになる可能性があるからです。

 

せっかく自分の亡き後のことを考えて作成した遺言がトラブルや争いごとの原因になったのでは、スムーズな遺産相続とならず、本来の遺言を作成した趣旨が達成できないことになってしまいます。

 

しかし様々な理由で、遺留分を侵害した遺言書を書かなければならないこともあるかと思います。

 

そのようなときにトラブルにならないためにも、遺言作成時に対策をとっておくことがポイントとなります。

 

遺留分を侵害する内容の遺言書を作成するにあたって、相続時にトラブルにならないようなにするためには、財産を受け取る権利のある相続人に配慮をした遺言書を作ることが大切です。

 

例えば以下のようなこともトラブル対策になります。

  • 遺言書の付言事項で理由を説明する
  • あらかじめ遺留分相当の割合を遺言に入れておく

それぞれについてみてみましょう。

 

遺言書の付言事項で理由を説明する

遺言書の付言事項で理由を説明することは、遺留分を侵害する遺言で相続トラブルを起こさない対策として非常に重要です。

遺言者が遺産受取額に差をつける理由は様々ありますが、以下のような例が挙げられます。

 

  • 生前に介護・世話をしてくれたので、多く財産を渡したい。
  • かつて結婚資金や住宅購入資金を与えたので、その分渡す財産を少なくしたい。

 

それらの理由があって差をつけた財産分与が記載されていたとしても、その理由が遺言書に記されていなければ、遺留分を侵害されている相続人はその遺言書を読んで不満を覚える可能性があります。

したがって、差をつけた財産分与の理由を説明する必要があるのですが、遺言の「付言事項」の中で記載しておくことができます。

 

差をつけた財産分与になった理由について遺言書の中で遺言者自身の言葉で語られることで、遺留分権利者に事情を汲んでもらえる可能性が高くなるといえます。

あらかじめ遺留分相当の割合を遺言に入れておく

遺言書を作成する際に、遺留分侵害請求を考慮し、あらかじめ遺留分の金額相当を遺留分権利者に相続させるような内容の遺言書にしておくこともトラブル対策の一つです。

 

今回のご相談者様の例でいえば、「不動産とすべての預貯金を長男に相続させる」のではなく、

全体の遺産のうち、4分の1に相当する分を次男であるご相談者様に相続させるような内容の遺言にしておけば、

 

まったく財産を譲り受けなかったことにはならず、また遺留分の主張のしようもなく、不満は生まれなかったかもしれません。

遺言書を作る際は遺留分も考慮することが大事

遺留分を侵害する遺言は無効とはなりません。一方で、本来最低限の遺産を譲り受ける権利が保障されていた相続人は、遺留分侵害請求権を有します。

遺言の内容が遺留分を侵害する場合は、財産を受け取った相続人とそうでない相続人の間で争いごとが起こらないよう配慮することが大切になります。

 

様々な状況を考慮し、その中でご自身の希望を組み込んだ遺言書を作成するのはなかなか難しく、

どのように書いてよいか分からない、書き方が不安だ、などの思いをお持ちの方もいらっしゃることと思います。そのような場合は、専門家に相談してみることをおすすめいたします。

 

弊所では、遺言書の作成に関して丁寧な対応を心がけておりますので、遺言書について不明な点や悩みがある方は、ぜひ長岡行政書士事務所へ一度ご相談ください。

 
行政書士 長岡 真也
この記事の執筆・監修者:長岡 真也(行政書士)
神奈川県行政書士会所属(第12091446号)
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