「遺言って、財産を誰にどれだけあげたいのか書くだけなの?」
「平等でない遺言内容の場合、相続人の間でわだかまりが生じそう・・・。」
「どうしてこのような遺言を書いたのか、理由を記しておきたいけど、できるの?」
遺言を書こうと思ったとき、まずは自分の財産を誰にどれだけ渡そうか考える方が多いと思います。
配偶者や子に、まったく平等に財産を相続させる場合もあれば、ある特定の相続人に対してのみ(例えば3人の子どものうち長女のみ)、多く財産を相続させる場合もあるかもしれません。
そこには、なぜそのような遺言内容になったのか、遺言者それぞれに必ず理由があるはずです。
また、残される家族や親族に伝えたいことは、財産の相続のことだけではなく、他にも色々あって不思議ではありません。
このような遺言者の考えや想いを、遺言で残すことができるのが「付言事項」です。
今回のコラムでは、遺言書の「付言事項」について説明していきたいと思います。
これから遺言を作成しようとしている方は、ぜひ一読いただき、ご自身の遺言作成の参考にしていただければと思います。
目次
遺言書には遺言者の気持ちや相続人に伝えたいことも書ける
長岡:「こんにちは!長岡行政書士事務所・代表の長岡です。」
Aさん:「こんにちは!よろしくお願いします。」
Aさん:「今日は、遺言の記載内容に関することで質問があります。」
長岡:「記載内容ですね。どういったことでしょうか。」
Aさん:「遺言書といえば、私たちのイメージする内容は、妻に不動産を相続させるだとか、子どもに預貯金を相続させるとか、そういった財産の譲り渡しのことなのですが・・・」
Aさん「例えば、長女が残される配偶者の介護をするために財産を多く受ける相続内容の場合だと、長女より少ない相続の兄弟姉妹は不満を覚えたりすると思うのです。」
長岡:「例えば、預貯金のうち3分の2を長女に、3分の1を次女に、というような遺言の場合ですね。」
Aさん:「はい、そうです。その文言だけだと、次女はなぜ平等でないのか、不満を覚える可能性が高くないでしょうか。」
Aさん:「せっかく遺言を残しても意図がくまれずに関係が悪化しては、なんだか残念です
長岡:「そうですね。そのような場合は、付言事項といわれる項目で、長女に今後も母親の介護を頼む、ということを記しておくと、次女も納得できるかもしれませんね。」
Aさん:「そのようなことが遺言に書けるのですか?」
長岡:「はい!これは付言事項といわれるもので、財産の分け方などとは異なり、遺言者の気持ちや相続人に伝えたいことを書き残すことをいいます。」
長岡:「では、この付言事項についてくわしく説明しますので、ぜひ一緒に勉強していきましょう!」
付言事項とは?
まず遺言を作成する際のおさらいとして、「遺言自由の原則」があります。
人はだれでも、遺言をする・しないことや、遺言の変更や撤回をする・しない、などを自由に決めることができる、というものです。
ただし、遺言の方式は法律で定められていますし、内容についても、違法な内容は効力が認められない場合がある等、自由にもある程度の限界はあります。
合わせて読みたい>>遺言書の書き方・方式・注意点を行政書士事務所の事例と共に解説!
さて、自由に内容を書くことのできる遺言ですが、遺言として法的な効力が与えられる事項は法律で定められており、これを「法定遺言事項」といいます。
法定遺言事項は14項目ありますが、大きく分けて以下の3項目、内容は主に以下のようなものがあります。
①財産に関する事項
相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈など
②身分関係に関する事項
遺言認知、未成年後見人の指定・未成年後見監督人の指定など
③遺言執行に関する事項
遺言執行者の指定など
この法定遺言事項に対して「付言事項」とよばれる項目があります。
付言事項は法定遺言事項以外の内容であり、絶対に遺言に書かなければいけないものではありません。
内容は一般的には、遺言者の感謝の気持ちや遺言を書いた経緯のことなどを記します。
メッセージを伝える手紙のようなものと言っても良いかもしれません。
ただこの付言事項には法定遺言事項のような法的効力はありませんので、付言事項に従うかどうかは相続人の意思に委ねられています。
遺言書に付言事項を書く6つのメリット
では、なぜ遺言書に付言事項を書く必要があるのでしょうか。
ここからは、付言事項を書くメリットについて紹介します。
Aさん:「遺言にはそのようなメッセージ的なものを書くこともできるのですね。」
長岡:「そうですね。付言事項に法的な効力はありませんが、法定遺言事項では書ききれない遺言者の想いを残すことができます。」
Aさん:「でも先生、先ほどから言う『法的効力がない』という点が気になります。」
Aさん:「直接的に何か効果を得られるわけではないなら、書いてもあまり意味がないのではないですか?」
長岡:「そう思われるかもしれませんが、実際はそのようなことはないのです。ここで、付言事項に記載すると良いと思われる事例を紹介しつつ、6つのメリットをみていきましょう。」
- 家族への感謝の気持ちを伝えられる
- 遺言の動機を伝えられる
- 財産の分け方の理由を伝えられる
- 遺品の処分方法を伝えられる
- 葬儀方法についての希望を伝えられる
- 遺された家族への希望や願いを伝えられる
家族への感謝の気持ちを伝えられる
付言事項に込められる内容で多いものが、「今までありがとう。」という感謝の気持ちです。
このような気持ちを付言事項に書いておくと、遺言を家族にとって特別なものにすることができます。
遺言の動機を伝えられる
なぜ遺言を作ったのかという理由を書いておくことで、故人がなぜ遺言を作成するに至ったのか、その想いを知ることができ、遺言内容についての同意を相続人から得られやすくなります
財産の分け方の理由を伝えられる
遺産分割を法定割合と異なる配分で指定する遺言では、例えば介護をしてくれた人により多くの財産を残し、取り分の少ない相続人が発生する場合があります。
そのような場合、どうしてそのような財産の分け方をしたのか理由を明らかにし、遺された家族に理解を求め、争いを起こさないようにしてほしいという願いも添えることで、多少は不利益を受ける相続人でも、納得してくれるでしょう。
遺品の処分方法を伝えられる
財産として扱われない遺品もあります。
例え金銭的価値がなくても、故人や家族の思い出の詰まった遺品を大切にすることができます。
葬儀方法についての希望を伝えられる
遺言書に記しておくことで、故人がどのような葬儀を望んだのか明確になり、家族は「これで良かったのだろうか」という思いを残さずに葬儀をスムーズに執り行うことができます。
しかし葬儀については、遺言書を開く前に執り行われる可能性もあるため、生前に希望を伝えておく必要があります。
遺された家族への希望や願いを伝えられる
例えば、遺されるペットの世話のことや、遺品処分に関すること、母の面倒を頼む、仲良く暮らしてほしい、などどいう願いを記すことで、
故人が生前からもつ想いを、遺った家族に伝えることができます。
また、本人亡き後の相続人の手続きや処理の負担を減らすことにもつながります。
付言事項の文例
長岡:「いかかでしょうか。このように付言事項には、法定遺言事項にはない“遺言者の想い”を書き記すことで、
遺された方々の、その後の円滑な手続き処理の手助けになるメリットがあると言えますね。」
では付言事項はどのように遺言書の中で書かれるのか、次に具体的な文例をみていきましょう。
遺言を作成するに至った経緯を記す場合
『私の相続に際して、相続手続きが円滑に行われることを願って、この遺言書を作成しました。
老後の世話及び入院等、金銭面だけでなく心身ともに支えてくれた〇〇には心から感謝しています。
家族それぞれ思うこともあるかと思いますが、くれぐれも喧嘩だけはせず、お互いを思いやって下さい。』
財産の分け方の理由を記す場合
『このような遺言を遺したのは、長男〇〇は定職に就き収入が安定している一方、次男△△には障害があり、配偶者もいないことから、万が一のことに備え、多く財産を残す必要があると考えたからです。
私にとっては〇〇も△△も大切な子どもです。相続に関して争うことなく、兄弟でいつまでも仲良く幸せに暮らしてください。』
葬儀方法についての希望を記す場合
『私の葬儀は、葬式や告別式などは行わずに、家族だけでささやかに済ませてください。妻の〇〇には本当に感謝しています。
子ども達もそれぞれ立派になって、みんな良い子に育ちました。
ですから、葬儀のことで家族に気苦労をかけたくないと思っていますので、穏便に家族だけでささやかな葬儀を済ませてほしいのです。
子ども達には、母さんのことを最後までよろしく頼みます。いつまでもみんなの幸せを願っています。』
付言事項を記載する場合の注意点
長岡:「ここまでで、付言事項を記すことのメリットや、どのように書けば良いのか、という点について大まかに理解していただけたのではないでしょうか。」
Aさん:「はい!遺言には財産分けのことだけを書くものと思っていたので、良いことを知れました!」
長岡:「それは良かったです。では最後に、付言事項を書く際の注意点に触れておきたいと思いますので、こちらも一読いただき、付言事項を書かれる場合の参考にしていただければと思います。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。」
付言事項は遺言者の想いを伝える手紙のようなもので自由に書くことができますが、実際に遺言書に記す際には、いくつか注意点があります。それは主に以下のような点です。
- 否定的なことはなるべく書かない。
- 長々と書き過ぎたり、項目が多くなり過ぎないようにする。
否定的なことはなるべく書かない
長い人生では様々なことがありますから、家族に対しての不満や愚痴もあるかもしれません。
しかしそれら否定的なことが遺言に書かれていると、それを読んだ相続人は不快な気持ちになり、相続手続きに協力的ではなくなってしまう場合があります。
また、特定の相続人に対して否定的なことを書き連ねると、かえって争いを起こす可能性も出てきてしまいます。
スムーズな遺言の執行のためにも、否定的なことはできるだけ避けて、感謝の気持ちなど肯定的なことを書くのが良いでしょう。
長々と書き過ぎたり、項目が多くなり過ぎないようにする
付言事項が多くなり過ぎると遺言書の趣旨が曖昧になってしまい、本当に伝えたい事項が伝わらない恐れがあります。
法的効力のない付言事項は、あくまでも遺言書の補助的な役割になります。
付言事項に書くことは最も伝えたい事項にしぼり、簡潔に内容をまとめることが大切です。
その他の事項は別途手紙やエンディングノートなど、遺言書以外の方法でも伝えることができますので、それらを活用することをおすすめします。
付言事項を書くことで伝わる大事なこと
付言事項それ自体は法的な効力を生じさせるものではありません。
しかし、ただ単に財産の分け方のみを書いている遺言では、故人がどのような想いを持って遺言を残し、遺される人々に何を想い何を望んだのか、知ることはできません。
遺言内容に不満を持つ相続人がでてきてしまい、相続がトラブルになってしまうことを避けるためにも、また、遺された人たちが気持ちよく相続手続きができるようにするためにも、付言事項は有効です。
遺言を作成する場合には、財産の分け方以外にも何か一言、ご自身の想いを記すと良いでしょう。
実際に仕事をやっていると、付言事項を書くかどうかは半々というイメージです。
以前、私たちで携わらせていただいた事例では、お母様が自ら考えてこられていました。
遺された子供たちへの想いと感謝を述べられていました。
本番の当日、公証人がその「付言事項」を読むと、ご本人や私たち証人2人も感動してウルっときたことを今でも覚えています。
確かに法的に効力はないかもしれませんが、遺された大切な方に遺す言葉として書いてみるのもいいかもしれません。
お読みいただきありがとうございました。