相続財産が不動産しかないものの、相続人へは現金で渡したいというケースもあるでしょう。
このような時に使えるのが「清算型遺贈」です。そして清算型遺贈を希望する場合は、「遺言執行者」の存在が肝になります。
この記事では清算型遺贈を指定する遺言書の作り方、そして遺言執行者の役割について解説します。
難しい法律について分かりやすく説明するため、物語調の文章です。清算型遺贈について楽しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
吾輩は猫である。
最初は名前がなかったが、このシリーズが続くうちに、なんだかんだで「タマ」が定着してしまっている。
そして最初は行政書士事務所に相談者として訪れていたわが主が、問題解決に感動したせいか、「行政書士に、あたしもなる!」などと言い始めている。
大海賊時代を描く、かの人気漫画のようなテンションでだ。
もっとも参考書を1ページ読む前に、うつらうつらと舟をこぎ始めるということは、わが主の名誉のために黙っておこう。
さて、すっかり環境が変わってきた我が家だが、変わらないのは我わが主がおせっかいだということだけ。
今日も、長岡とやらが率いる馴染みの横浜市の行政書士事務所に入り浸るネタを見つけたそうで、吾輩も事務所に連れていかれる始末になったわけだ。
目次
清算型遺贈とは
わが主「というわけでね、長岡さん! こちらの清田さん、遺言書を書きたいそうなんですよ。でも財産は不動産しかなくて、なんとかお子さんたちに現金で相続させたいそうなの。みんな平等になってほしいからですって」
長岡「なるほど。もう不動産は処分されるわけですか?」
清田「ええ、父の代からの持ち家ですから、だいぶ古くなっていますし。子供たちも仕事柄、実家に帰ってくることもありませんからね」
わが主「ね、不動産を現金化して相続できた方が、、相続人にとっても便利でしょう。お金の使い道も広がるでしょうしね。やっぱり世の中お金よね!」
自分のものでもないのに、どうして銭金の話になるとわが主はこうもテンションが上がるのだろうか…。
さて、長年住み慣れた家に愛着もあるはずだが、子供のために最大限できることを考えているというのは、人間にしては見上げたものではないか。
長岡「では清算型遺贈はいかがでしょうか?」
わが主「清算型? 文字通り、不動産を売却して清算をするってことですか?」
長岡「そうです。清算型遺贈とは、財産を金銭で遺贈することを指します。
清算型遺贈では、被相続人つまり清田さんの遺産である不動産をまず売却して、現金化します。
その現金から債務などがあれば先にそれを弁済し、残った現金を相続人、つまり今回はお子さん2人に分けるというやり方です」
清算型遺贈を活用するメリット
清算型遺贈を活用するメリットとしては、次のような点が挙げられます。
- 公平に相続させられる
- 相続人が不動産を管理する負担を減らせる
公平に相続させられる
長岡「清田さんの場合は、お子様が2人おられますね。保有する財産が現金と土地・建物の不動産ですので、不動産は長男に、現金は次男にと考えることもできますね」
清田「そう考えたこともありましたが、現金が少ないので、不動産の価格と差が出てしまうと思いまして…」
ふむう。確かにそれでは不公平感があるな。もっとも吾輩は、猫缶と家を天秤にかけられたら、猫缶をとるやもしれぬが。
清算型遺贈で不動産を現金化すれば、相続人に対して公平に相続させられます。
相続人が不動産を管理する負担を減らせる
わが主「それに、お子さんたちは、それぞれ、もう自宅を立てていますものね。実家を相続しても使わなけりゃただの空き家ですから」
長岡「その場合、固定資産税や維持費などが発生しますので、支払いの負担がかかるでしょうね」
なに? 人間の世界では、そんな制度になっているのか? 固定資産税…恐るべし。
清算型遺贈で不動産を売却してしまえば、相続人が不動産を管理する負担を減らせることもポイントです。
清算型遺贈のためには遺言執行者を指定する
清田「清算型遺贈のメリットを聞くと、まさしくその方法が理想です。でも、手続きなどは難しくないのでしょうか?」
長岡「清算型遺贈では、まず遺言執行者を指定しなくてはいけません」
わが主「それなら長岡さんに決まりね! 大丈夫よ、清田さん!」
長岡「…は、はあ。もちろん問題ありませんが…」
わが主はもはやこの事務所の営業担当を気取っていないか? 長岡とやら、ダメなものはダメだとはっきり言ってやった方がよいぞ。
わが主「だって、遺言を正確・確実に実現するためには、実務経験豊富なプロじゃないといけないでしょ。で、どうせならイケメンのほうがモチベ上がるでしょ。だったら、長岡さんのほかに誰がいるってのよ」
わが主よ…このコラムを読んだ行政書士仲間と顔を合わせた際の、長岡とやらの立場を考えてやらぬか…。ほら、顔が赤くなっているではないか…。
長岡「まあ、私がどうこうはともかくとして、清算型遺贈における遺言執行者は、財産の売却・登記・税務申告といった多様な手続きをする立場になります。ですから一般論として、誰を指定するかは大事なポイントなんです」
清田「不動産売却の場合は、不動産についての知識がある程度必要になるってことですね」
長岡「最終的には宅建業者に依頼して、適正な金額で買主を見つけてもらい、売却を実行していくことになります。不動産の状況は千差万別ですから、その際、適切な宅建業者を選べるかどうか、業者と対等に渡り合えるかどうか。それだけの知識と経験が必要となるわけですね。
わが主「そりゃそうよね。私の不動産知識だったら、ボロが出まくってしまうわ」
かかか、と呵々大笑している場合ではない、わが主よ。とりあえず勉強を進めてくれ…。
清田「わかりました。ではご推薦の長岡さんにお願いできればと思います」
わが主「そうこなくっちゃね! 私も応援するから」
長岡「応援って、何か具体的なアイデアでも?」
わが主「では、ひとまず不肖私、ここで三三七拍子を…」
やめい! 応援の意味が違うわ! すまぬ、すまぬぞ長岡とやらに清田とやら…。伏して詫びるでな…。といっても、吾輩が伏したらただ寝ているだけに見えるだろうが、一応、ちゃんと詫びておる。
長岡「あと、清算型遺贈が推奨される場面では、相続人や受遺者が相続して不動産などの遺産を引き継いだ後に換価分割をすることも可能です」
わが主「あれ? でもそうすると、相続人らに大きな負担がかかりそう」
長岡「おっしゃるとおりです。ですので、遺言執行者を指定して清算型遺贈をするのがよいと言えますね」
清算型遺贈の事例
清田「清算型遺贈で不動産を換価して、分割する仕方もいろいろありそう…」
長岡「いろいろなパターンがありますが、清算型遺贈では以下のような方法が可能になると覚えておいてください」
- 預金・土地などすべての財産を現金化して一人に遺贈する、あるいは複数人に割合を指定して遺贈する。
- 土地Aとその上の建物を現金化して一人に遺贈する、あるいは複数人に割合を指定して遺贈する。
- 土地Aと土地Bのうち、土地Aのみを現金化し、一人に遺贈する、あるいは複数人に割合を指定して遺贈する。
長岡「つまり、ご自身の保有する財産や相続人・受遺者の数や状況に合わせて、どのように換価分割するのか定めることができるのですね」
ふむ。不動産を金に換えるといってもいろいろあるものだな。吾輩らのような猫は不動産を持ち合わせぬゆえに、このような問題に直面することはないが…人の世も便利なようでいて、知らねばならぬことが多いものだ。
清算型遺贈を実現するための遺言書文章例
清算型遺贈を実現するための遺言書としては、遺言執行者の指定まで加味して、次のような文章が考えられます。
遺言者は、遺言者の有するすべての財産を換価し、換価金から遺言執行に要する費用、遺言執行者に対する報酬、葬儀費用、不動産登記費用、不動産譲渡所得税などの費用および負債を弁済させ、残額については長男横浜太郎(平成○○年〇月〇日生)に2分の1、次男横浜次郎(平成○○年○○月○○日生)に2分の1の割合により、それぞれ相続させる。
遺言者は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
事務所:横浜市港南区港南5-1-32 港南山仲ビル202
行政書士 長岡真也
生年月日:~~~
個別具体的な文言については、ぜひ長岡行政書士事務所へご相談ください。それぞれの方の状況に応じて、望みを叶えられる遺言書作成をサポートします。
清算型遺贈のの活用が推奨されるケース
清田「長岡さん、今回の私のように、清算型遺贈の遺言で不動産などの財産を現金にしたいという人は多いのかしら? 現金に換えても、債務が残っている場合とかもあるのではないかと思いまして」
長岡「そうですね。ケースバイケースで、いろんな事例があります。例えばこのような形ですね」
- 平等に分配することが難しい
- 相続後に空き家となってしまう
- 債務があるものの債務超過ではない
- 相続税の納税資金に不安がある
- お世話になった方に現金で遺贈したい
清算型遺贈の活用が推奨されるケースについて、具体的に見ていきましょう。
平等に分配することが難しい
被相続人の現金や預貯金が少なく、不動産を換価しないと平等に分配することが難しい場合は、清算型遺贈を利用してみてください。
不動産を現金に換価することで、被相続人の現金や預貯金の遺産が少額でも、複数の相続人や受遺者に平等に現金を分配できます。
相続後に空き家となってしまう
相続後に空き家となってしまう財産がある場合も、清算型遺贈の活用がおすすめです。
残された不動産に居住する予定がない場合の固定資産税や維持費などの費用を負担する必要がなくなります。
債務があるものの債務超過ではない
被相続人に多額の債務があるが、債務超過ではない場合も、清算型遺贈を活用できます。
債務超過の場合は相続放棄が望ましいですが、不動産を現金化することで債務を弁済し、余剰分を相続することも可能です。
合わせて読みたい>>相続放棄とは?遺産相続で負債がある場合の対処法を行政書士が解説
相続税の納税資金に不安がある
相続人や受遺者に相続税の納税資金に不安がある人がいる場合も、清算型遺贈が解決策となるかもしれません。
相続人が保有する現金や預貯金が少なく、不動産を相続した場合に相続税が支払えるのか不安な場合、不動産を現金化して相続することで、相続税の納税資金を捻出することも可能です。
お世話になった方に現金で遺贈したい
不動産を所有しているが相続人となる親族がおらず、お世話になった方に現金で遺贈したい場合にも、清算型遺贈がおすすめです。
身内ではない第三者に自宅不動産そのものを譲っても、その第三者がその不動産に居住する予定がなければ、扱いに困ってしまうこともあります。
清算型遺贈を活用すれば、身内ではない方へ不動産の替わりに金銭を遺贈することが可能です。
清算型遺贈に伴う手続きの注意点
長岡「最後になりますが、清算型遺に伴う不動産登記と譲渡所得税に関して、少しだけ注意点を説明しますね」
清田「はい」
相続人の登記が必要
長岡「清算型遺贈では、被相続人、つまり将来的に清田さんがお亡くなりになった後、不動産の所有権は一旦相続人全員に帰属します。その際に、お子様お2人の登記が必要となるわけなんです」
わが主「え? いきなり清田さんからお子さんたちのものにはならないんですか?」
なるわけがなかろう。猫が遊ぶおもちゃを他の猫にあげるのとはわけが違うのだぞ。
長岡「そうです。遺言執行者が指定されている場合は、相続人が関与することなく登記手続きできますが、遺言執行者の指定がない場合は、相続人全員で行う必要があります。これが結構大変なので、一般の方が行うのはお勧めできません」
相続人に対して譲渡所得税が課税される
わが主「譲渡所得税のほうはどんな注意事項があるんですか?」
長岡「清田さん、譲渡所得税はどんなものかご存じですか?」
清田「確か…不動産を売るときに、購入した当時の金額と今の売却金額を比較して、売却代金の方が高ければ、その利益に課税される税金…だったかしら?」
わが主「そ、そうね、だいたい合ってるわね、や、やるじゃないの、清田さん」
だいたいではなく、合っているではないか。長岡とやらも力強くうなずいているしな。
長岡「清算型遺贈の実務では遺言執行者が不動産を売却しますが、不動産の所有権は相続人名義となっているため、形式上は相続人の名義で財産を売却することになります。ですから、売却代金は法定相続人に帰属してから受遺者に渡されるんです」
清田「ということは、相続人に対して譲渡所得税が課税されるということですね」
清算型遺贈は売却から換金、税金負担も考慮しながら執行する
わが主「清算型遺贈って、なんだか面倒な手続きよねえ」
長岡「皆様の大事な財産と権利を守るための制度ですからね(笑) もし相続人のほかに受遺者がいた場合には要注意です。受遺者のみが遺贈される場合、受遺者が納税しなければ、不動産を相続していない相続人が譲渡所得税を負担することになってしまうんです」
わが主「要するにとばっちりね」
…たぶん、違う。
清田「わかりました。清算型遺贈では遺言執行者をあらかじめ決めておき、事前に譲渡所得税額を計算しておく。そして、納税分を控除した上で売却代金を受遺者に交付する必要があるということですね」
長岡「その通りです。法律に詳しくない方が難しい手続きの流れを把握し、必要な書類を取得し、業者を選定し、適切に遺産を分配するほか、税金関係も考慮しながら他の相続人と連絡調整するのはハードルが高すぎますから、ぜひお任せください」
わが主「さ、これで話はまとまったわね! じゃあ、私から改めておふたりを応援するために、ベイスターズの応援歌でも…」
長岡・清田「お気持ちだけで結構です(笑)」
横浜市で清算型遺贈を考えている方は、ぜひ長岡行政書士事務所へご相談ください。
遺言書作成から清算型遺贈の手続きまで、一貫してサポートいたします。初回相談は無料なので、お気軽にご連絡ください。