みなさんは成年被後見人という言葉をご存知でしょうか?
成年被後見人とは、精神や健康の問題から一人で客観的な判断をするのが著しく難しい状態の人の事を指します。
本日は、成年被後見人でも遺言書を作成できるのかどうかを、相続に関しご経験の深い長岡行政書士様にお話をうかがってみたいと思います。
目次
成年被後見人も一定の条件の下で有効な遺言を作成できる
本日はよろしくお願いします。
さっそくですが、成年被後見人でも遺言の作成は可能なのでしょうか?
長岡:こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。
成年被後見人による遺言の作成ですか、難しいテーマですね。
成年被後見人とは
まず、聞きなれない方も多いと思うので、成年被後見人の定義から見ていきましょう。
民法第8条では成年被後見人を「精神上の障害により判断能力を欠くとして、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人」としています。
身近なイメージとしては、認知症が進んでしまい身の回りの事が自分でできなくなってしまったった方が挙げられるでしょうか。
そして民法第9条においては成年被後見人がおこなった法律行為は日常の簡単な行為以外は取り消すことができる、つまり、もう自分で判断ができない状態なので、その人がおこなった行為は無効であるとしています。
(成年被後見人の法律行為)第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
(民法9条、963条|法令検索 e-Gov)
認知症の方が高額な契約をよくわからないまま騙されて結んでしまうようなケースを考えると、この民法九条は行為の取り消しを可能にすることで成年被後見人を保護しているのですね。
でも、そうであれば遺言のように難しそうなものは成年被後見人が作成するのはもっと不可能なのではないですか?
成年被後見人でも遺言書を作れる
長岡:いえ、成年被後見人でも遺言を作成することは可能ですよ。しかし、作成のためには法律上いくつかの厳格な要件が必要とされています。
民法973条を見てみましょう。
(成年被後見人の遺言)第九百七十三条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。(民法973条|法令検索 e-Gov)
民法でしっかりと規定されているという事は、成年被後見人であっても遺言を作成するための手続きが整備されているということでしょうか。
長岡:そうですね、成年被後見人が遺言を作成するための要件は書いてありますが、実際問題としてその要件が実行可能かどうかは別問題というところに気を付けてください。
成年被後見人が遺言を作成するための3要件
それでは、成年被後見人が遺言を作成するための要件をこれから解説していきます。
遺言者が一時的にでも判断能力を回復した状態にあること
成年被後見人の判断能力が一時的でも回復した状態になり、その時に遺言を作成すれば有効な遺言を作成することができます。
しかし、いつ回復するかわからない、もしくはもう回復しないかもしれない成年被後見人の判断能力を待ってすばやく遺言を作成するのは現実的ではないと言えます。
また、後で遺言の有効性が問題になった時、作成時に成年被後見人の判断能力が回復していたか否かが問われることとなり、証明するの為に医学的な証拠を揃える必要が生じてきます。
遺言者が遺言の内容とそれによる法律上の効果を理解していること
成年被後見人の判断能力が回復しているだけでなく、自らが作成する遺言の内容とその結果生ずる法律上の効果を理解していることが2番目の要件になります。
これまで客観的な判断ができなかった人が、回復したとはいえ通常の人でも理解に時間のかかる遺言の法律上の効果まで理解できているかは難しいところです。
医師2人以上の立会いがあること
上記の判断能力や法律効果への理解を医師の立ち合いにより証明する必要があるのですが、医師は基本的に多忙で、法律の認識が不足してる場合もあります。
成年被後見人の遺言作成という難しい案件に時間を割いてくれて、且つ法律上問題なしと判断を下す自信のある医師はなかなか見つけることが困難です。
なるほど、ハードルが高そうですね。
成年被後見人が遺言を作成するのは難しいのでは・・・と思えてきました。
長岡:他にも、公正証書遺言を作るときには公証人に作成してもらわなければいけませんが、公証人にも成年被後見人の遺言を作成した経験のある人は少ないです。
ではいったいどうすればいいのでしょうか?
成年被後見人になる前の遺言と任意後見を有効活用
長岡:成年被後見人になる前に手を打っておくことが一番です。
医学の分野の予防医学と同じように、ある程度高齢になってきたら判断能力があるうちに法律のカバーを厚くして来たるべき相続に準備をしておくべきですね。
「予防法学」とでも言うべきでしょうか
長岡:そうですね、私としては、お医者さんと同じように普段から気軽に相談ができる「かかりつけ」の法律家を持っておくべきだと思っています。
さて、それでは成年被後見人になる前に講じるべき対策をご紹介したいと思います。
それはいくつかの契約を組み合わせて老後の各ステージをカバーする「あんしん法律パッケージ」とでも言うべきものです。
委任契約に任意後見制度ですか、初めて聞きました。
解説願えますか?
ステージ1:委任契約
長岡:ステージ1は、高齢期に入ってまだ判断がしっかりしているものの、徐々に身の回りの事務作業を自分で行うのがつらくなってきたステージです。
まだ元気なうちに委任契約と任意後見契約を結んでおくけれどまずは委任契約だけが発効し、判断力が低下し次のステージ2になったら任意後見契約に切り替わる、という設計です。
委任契約と任意後見契約の内容を見てみましょう。
委任契約とは
委任契約は民法に定められた基本的な契約タイプのひとつであり、内容が法律に制限されないので当事者が自由に決めることができます。
例えば施設や医療などの手続きを代行してもらったり、代理権を与えることで財産の管理を任せることができます。また、定期的な見守りも内容に含めておけばより安心して毎日を過ごすことができます。
一般的な高齢者向けの委任契約では以下のような項目がカバーされることが多いようです。
- 不動産の管理や保存
- 金融機関との預貯金取引
- 定期的な費用の支払い
- 生活必需品の購入
- 訪問や電話による見守りなど
確かに、これらは高齢者が欲しい「ちょっとした」手助けですよね。
ステージ2:任意後見契約
長岡:そうですね。そして、時間が経ち判断力が低下してステージ2になったら任意後見契約に移ります。
任意後見契約とは
自分に代わって財産管理等の仕事をしてくれる人(任意後見人)をあらかじめ定め、その人との間で財産管理等の代理権を与えて仕事(法律行為)をしてもらうことを委任する契約が任意後見契約です。
この切り替えのタイミングはどのように行われるのでしょうか? 判断力が低下してしまった本人が自分で執り行うのは難しいと思うのですが。
長岡:そのためのステージ1の委任契約なんです。
先ほどおっしゃっていただいた「ちょっとした」手助けの毎日の積み重ねにより、本人に起きている変化を委任契約を結んだ当事務所がいち早く察知できるんです。
なるほど、納得しました。
よく設計されているんですね。
ステージ3:公正証書遺言
長岡:そして最後に、ご本人が亡くなられた後のステージ3です。
実際は判断能力がまだあるステージ1の段階でご本人と話して内容のすり合わせを行い、公正証書遺言の作成をしておきます。
ご本人の死後、この公正証書遺言が有効となります。
遺言書が無い場合の遺産相続
仮にですが、遺言を作成しておかないとどうなるのでしょうか?
長岡:遺言がないと法律に則って遺産を分割する法定相続になります。
法定相続では相続人全員が集まって分割を協議する遺産分割協議が必要になり、またこの遺産分割協議は全員の合意に達しないと有効にならないので、どんなに普段仲良くしていてもお金のことで話をするとなると、予期せぬトラブルに発展してしまう可能性を排除できません。
うーん、全員集まってお金の話をするのはきまずいというか、トラブルに発展しそうな気がしますね・・・やっぱり遺言は残すべきですね。
ところで、公正証書遺言とはなんでしょうか。
基本的な質問ばかりで申し訳ありません。
長岡:いえいえ、そんなことはないですよ(笑)
せっかくなので何でも聞いてください。
有効性の高い公正証書遺言
公正証書遺言とは、公に認められた法律の専門家である公証人に対して本人が口述して作成してもらう遺言です。自分で書く自筆証書遺言と比べて形式の不備がなく信頼性が高い遺言の形式です。
そして、この公正証書遺言の中に遺言の内容を本人に代わって執行する遺言執行者も指定しておけば、信頼できる人間に自分の遺言の内容を実現してもらうことができます。
別コラムでも「あんしんパッケージ」について解説しているので、ご覧ください。
あわせて読みたい>>>法律の面から高齢者を守るー委任契約、任意後見制度そして遺言執行者
よくわかりました。
これなら本人も、残された家族も皆安心できますね。
成年被後見人になる前にかかりつけの法律家に相談して対策を打とう
長岡:成年被後見人になってしまってからでは遺言作成のハードルが高くなります。
日ごろからかかりつけの法律家を持ち、いくつかの契約をまとめて提供する「あんしん法律パッケージ」を使っていただき早めに対策を講じることが大切です。
我々長岡行政書士事務所は相続の経験があり、とことん誠実にあなたの人生に寄り添う事をモットーに仕事をしています。
是非お気軽にご相談ください。
まずは話すところから、相談するところから、ですね。
長岡先生、本日はどうもありがとうございました。