先日ニュースを見て、自分の遺産をボランティア団体や社会福祉に貢献する方々に寄付する人が増えていると知りました。
とても素晴らしいことだと思います。
実は私も夫がなくなって5年、自分の死後のことを考える時間が増えました。
もちろん遺産は息子と娘に遺しますが、ある程度はさっき申し上げたような団体に寄付したいと考え始めております。
ただ、具体的に何をすればいいのか、また、どのような団体が寄付を受け付けてくれるのかなど、わからない事が多く困っています。
なるべくわかりやすく教えていただけませんでしょうか。
自分と志を同じくする人や応援したい団体に遺産を託したい、自分の遺産を誰かの役に立ててもらいたいと希望されるシニアの方々からのご相談が増えています。
自分の生きた証を社会に還元したいというご立派な想いだと思います。
この場合は遺言という方法を使うのがベストですが、その遺言にも書き方や決まりがあります。
これよりその説明をさせていただければと思います。
目次
遺言により、遺産を自由に寄付できる
遺言による寄付とは「遺言書を使っておこなう寄付のこと」です。
例えば、ある夫婦がいたとして、夫は自分の財産を医療施設に寄付したいと願っていました。 生前に寄付をする場合、夫の意思によって自由におこなうことが可能です。
しかし、夫が亡くなった後だったらどうでしょう。財産の持ち主である夫はすでに亡くなっていますので夫は当然自分自身で寄付できません。
かわりに役に立つのが遺言書です。
「遺産を〇〇に寄付してほしい」と遺言書に明記しておけば相続人や遺言執行者などが手続きし、代わって寄付してくれます。 ここで言う相続人とは簡単に言うと遺産を受け取る人、遺言執行者とは故人の遺言内容を実現させる人になります。
死後に遺言を使って無償で財産を譲ることを「遺贈」といい、遺贈によって寄付をおこなうことを「遺贈寄付」といいます。 遺贈の対象は親族といった相続人に限られず、遺言者が望む人や団体へ自由に寄付することができます。
遺贈寄付するときの注意点
さて、ここで相談者様の質問にもどって、ボランティア団体(NPO法人)に自分の遺産を寄付する遺贈寄付の場合に注意すべき点をご説明いたします。
遺留分に注意する
遺言による寄付で注意したいポイントのひとつが「遺留分」です。
遺留分とは、配偶者・子・祖父母などといった親族に法律で認められた、遺産の最低限の取り分のことです。
遺産は遺言者の財産ですが、遺された家族の生活に欠かすことのできない財産でもあります。
例えばですが、父親が自分名義の持ち家や預金をすべてNPO法人に寄付してしまったらどうでなるでしょう。父親名義の家に住んでいた配偶者と子は家を失うことになります。
遺留分が法律で保障されているのは、このように遺された家族が生活に困らないようにするためなのです。
相続人の遺留分を侵害する遺言による寄付も可能ですが、そのような寄付をおこなうと相続人からNPO法人に対して遺留分の分の遺産は返してほしいと主張される可能性があります。そうなってしまうと寄付を受け取ったNPO法人は、遺留分に応じて金銭で返さなければいけません。
そのNPO法人が現金やすぐ換金できる資産をもっていないと、せっかく良かれと思って行った遺贈寄付がトラブルを与えることになりかねません。
遺贈寄付の種類に注意する
遺贈寄付には包括遺贈と特定遺贈の2種類あります。
特定の財産を寄付したい場合は特定遺贈、遺産から割合で寄付したいときは包括遺贈となりますが、包括遺贈を使う場合は特に注意が必要になります。
包括遺贈にはプラスだけでなく、借金などのマイナスの遺産も含まれます。 寄付先のNPO法人が包括遺贈で寄付してもらった遺産を確認してみたら負担しきれないような借金があったような場合、結果として借金を負わせてしまうことになります。
寄付先によってはこのようなリスクを回避するため、包括遺贈を受け付けないところもあります。
遺贈の寄付先を明記する
遺言書には寄付先の明記が必要です。また、団体の活動趣旨と合致していれば自分が贈る遺産の使い道を指定することもできますし、もし自分の家の近くの支部に贈りたい等の希望があればその団体の本部・支部といった指定も可能です。
意中の団体のホームページをみると寄付遺贈を希望される方向けに案内を書いてある場合が多いので、チェックすることをお勧めします。
例えば、日本あしなが育英会は交通遺児たちを支えるNPO法人で30年近くの活動歴がある有名な団体ですが、そのホームページには遺贈寄付を希望する方向けのコーナーがあります。
その中には具体的な遺言書の例もあり、書き方で気を付ける点が細かく説明されています。
念のため、このあしなが育英会とは別に下記の様に典型的な文面をご紹介いたします。
遺 言 書
第1条
第2条
第3条
第4条
第5条 <付言事項>
(日付) ●●●●年●●月●●日 |
確実に実行してくれる人を手配しておく
せっかく遺言書に寄付について書いても、寄付がきちんと行われない可能性があります。
例えば相続人の中に寄付に反対している人がいたりすると、勝手に遺産を使い込んでしまったり何かと妨害行為をしてくる可能性も否定できません。
そのためにも遺言の中で遺言執行者を指定しておく必要があります。遺言執行者は遺言内容を実現するために遺言執行に必要な一切の行為をする権限が与えられているので、遺言を遺す人にとっては力強い存在です。この遺言執行者には相続人もなることができますが、より確実に遺言内容を実現させるためにも行政書士といった専門家を指定したほうが無難だと言えるでしょう。
受け手にかかる税金に注意する
不動産をそのまま寄付すると、時価で譲渡したものと判断されます。その不動産を取得したときの費用との差で利益がでたことになると所得課税がおこなわれるため、不動産の寄付を受けたNPO法人に対し税金負担が発生する可能性があります。
対策としては、寄付する不動産を売却し経費や税金を引いてから現金を寄付する方法などがあります。 団体によって不動産の寄付を受け付ける・受け付けないの違いがありますので、事前によくチェックしておくことをお勧めします。
遺贈寄付を受け付けているNPO法人の代表例
遺産の使用意図によってどのような団体を選ぶかは違ってきますが、遺贈寄付を受け付けているいくつかの代表的なNPO法人とそのホームページをご紹介します
(2023年5月10日現在 順不同)。
皆様のご参考になれば幸いです。
1.日本赤十字
世界中にネットワークを持つ赤十字社の日本支部。
日本では1877年の西南戦争のころより活動している。
国内外における災害救護や街角の献血活動まで、苦しむ人を救うために幅広い分野で活動している。
https://www.jrc.or.jp/contribute/isan/
2.国境なき医師団
1971年にフランスで創設され、現在世界中に展開している紛争や自然災害、貧困に苦しむ人に緊急医療援助を提供している人道団体。医療援助と同時に現地で目にしてきた人道危機を社会に訴える活動もその使命としている。
https://www.msf.or.jp/donate/legacy/izo/
3.あしなが育英会
小説「あしながおじさん」にちなんで発足した、もともとは交通遺児を援助するために作られた日本の団体。今はその活動の幅を広げ、病気・自然災害・自死などで親を亡くした子供や海外への援助も行っている
https://www.ashinaga.org/support/legacy-donations/
4.日本ユニセフ協会
子供の命と権利を守るため、世界約190の国で活動している国連機関の日本協会。
具体的には保健・栄養・水と衛生・教育・暴力や搾取からの保護といった観点から支援活動を行っている。
https://www.unicef.or.jp/cooperate/coop_inh1.html
5.むすびえ
子供が一人でも行ける無料または低額の「こども食堂」を運営するNPO法人。2022年の段階で既に日本全国7,000ヶ所以上の子ども食堂がオープンしている。
日本にも広がる貧困の輪を立ち入るための活動だが、それ以外にも多くの人が参加できる社会活動を行っている。
6.日本自然保護協会
創設から70年以上の歴史を持つ、日本の自然保護を目的とした組織。
歴史的視点および科学的視点から自然を守り、自然で地域を元気にするために活動している。また、絶滅危惧種の保護にも力を注いでいる。
7.難民支援協会
紛争や迫害で国を追われ、日本に逃げてきた人々を支援している。
日本にはインドシナ難民の受け入れから既に2.5万人の難民とその子供たちが暮らしているが、その他にも難民申請の結果を待っている人々が多くいる。その人たちのサポートから自立支援を行う団体。
遺言書でNPO法人に遺贈する場合は注意点が必要
遺産をボランティアや社会の為に役立てようと思うシニアの方は増えています。
その場合、遺言書を用いてご自身の遺志を示し、また後の手配を託すことが有効です。
この遺言書を用いた寄付を遺贈寄付といいます。
ただ、遺言書を書く時のポイントや注意点をよく検討しないと、うまく寄付が実行できなかったり寄付先の負担になってしまう可能性があります。
思い描く遺言による寄付を実現するためにも、計画作りは重要です。
ぜひ長岡行政書士事務所にご相談いただき、「理想の寄付」について一緒に考えましょう。