ここは神奈川県横浜市にある、ごく平凡な家族・餅田家が暮らす一軒家。
家族のアイドルは、5歳になって、来年小学校入学を心待ちにしている餅田きなこちゃん。
きなこちゃんは、とっても大好きな家族と仲良く暮らしています。
パパ:豆夫
ママ・さくら
母方の祖父:信玄おじいちゃん
母方の祖父:牡丹おばあちゃん
犬:あんころ
さてさて、最近、字を書くことに夢中になっているきなこちゃん。
書道の先生でもある牡丹おばあちゃんに字を習ってからは、書くことが楽しくて仕方がない様子。
さくらさんが家計簿をつけていたら「きなこも、書く~!」。
豆夫さんが手帳を開いてスケジュールを書きこんでいても「きなこも、書く~!」。
かわいい子供は天使でもありますが、時にはなかなか振り回されてしまうようで…。
今回は、どうやら遺言書を書こうとしていた、信玄さんがターゲットのようです。
目次
公証人が書いてくれる公正証書遺言
信玄「ふむう、なかなかうまくいかんもんだのう」
牡丹「おや、おじいさん、どうなさったんですか? 苦虫みたいな顔をして」
信玄「それを言うなら、苦虫を嚙み潰したような顔じゃろう。誰が苦虫じゃい。おお、きなこもおばあちゃんと一緒か?」
きなこ「あっ、きなこに黙って何か書いてた!ずるっこ!」
牡丹「あら。遺言書なんて書いてらっしゃるの。どこか悪いの?」
信玄「いや、まだまだ元気で100歳まで生きるつもりじゃがな。万が一のことがないとも言えんから、書こうとしたんじゃが…」
牡丹「あらあら、これはまさにミミズみたいな字ですねえ」
信玄「それを言うなら、ミミズが這ったような字じゃろう…」
きなこ「きなこ、ミミズ知ってる~!」
信玄「おお、きなこは賢いのう。見ての通り、わしは字が下手じゃからの。自分で書く自筆証書遺言は難問というわけなんじゃ」
牡丹「それじゃ遺言書が書けないじゃありませんか。まあ大した財産もないでしょうけども」
信玄「ほっとけやい。だからな、公正証書遺言というものにしようと思っているんじゃ」
きなこ「ゆいごんってなーに?」
信玄「遺言というのはな、きなこ。おじいちゃんから、きなこたちみんなへのお手紙みたいなものなんじゃ」
きなこ「きなこ読みたい~!」
信玄「遺言はな、おじいちゃんが天国に行ってから読めるんじゃよ」
きなこ「早く読みたい~!」
信玄「…きなこや…」
牡丹「公正証書遺言というのは、どんなものなんです?」
信玄「わしも詳しくはないんじゃが、なんでもわしがしゃべる内容を、公証人という専門家が代筆してくれるんだと。しかも公証役場という役場でちゃんと保存してくれるから、無くす心配もないんじゃ」
牡丹「んまあ、便利な世の中になったもんですねえ。私たちが若かった戦後の焼け野原にバラックが立ち並んでいたあのころには進駐軍が…」
信玄「(いつもの長い思い出話じゃの…?) おっと、そろそろ来てくれるはずなんじゃが…お、きたきた」
公正証書遺言の役割とは
公証人「お待たせしました。公証人の幸祥仁と申します」
きなこ「いらさいませ! もちだきなこです!」
幸祥「おや、偉いねぇ。おじいちゃんのお手伝いかい?」
きなこ「うん、早くゆいごん読みたいから、きなこ、おじいちゃんが天国に行くのを手伝うの」
幸祥「…あっ、はあ…」
信玄「『我が孫に 引導渡され…てたまるか』 信玄、心の川柳」
牡丹「しょうもないこと言ってないで…あら、よく見たら、お向かいの幸祥さんのところの?」
幸祥「ええ、長男の仁です。いやあ、こうしてお話しするのは20年以上ぶりですかね。今日は非公式ですが、うちの親父を通じて信玄さんからいろいろアドバイスが欲しいと言われまして」
牡丹「まあまあ、すっかり立派になって。ささ、どうぞ粗茶ですが」
幸祥「ありがとうございます」
信玄「すまんが、うちの妻も公正証書遺言について不勉強でな。一緒に話を聞いてもいいですかな? できれば、最初から分かりやすく教えてほしいんじゃ」
幸祥「もちろんです。まずは公証人や公正役場が深く関わってくる公正証書遺言についてお話ししましょうか」
牡丹「よろしくお願いいたします」
幸祥「公正証書遺言は、基本的に公証役場で作成する遺言書です。ちなみに奥様、遺言書はいつから効力を発するかご存じですか?」
牡丹「遺言者が亡くなった後、でしょうか?」
幸祥「その通りです。ですから、遺言者、今回で言えば信玄さんの真意は、遺言書に書いてある内容からしか受け取ることはできないのですね」
牡丹「いつもくだらないことばっかり言っていますから、生きてるうちに遺言の内容を伝えてくれれば早いんですけどねえ」
信玄「余計なことを言うんじゃないよ…」
幸祥「ハハ…ともかく、有効な遺言書と認められるためには遺言書の作成に厳格な要件が求められるわけなんですね。例えばこんなふうに」
《公正証書遺言の要件》
- 証人2人以上の立ち会いがあること
- 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で伝えること
- 公証人が、遺言者から伝えきいたことを筆記すること
- 公証人が筆記した内容を遺言者と証人に読み聞かせ又は閲覧させること
- 遺言者と証人が、筆記の内容が正確なことを承認した後、各自これに署名押印すること
- 公証人が、その証書は以上の方式に従って作ったものである旨を付記、署名押印すること
信玄「いろいろ細かく決まってるんじゃのう」
幸祥「ですが、公正証書遺言は、安心できるという声が多いですね。公証役場において保管されますから、紛失する恐れも偽造される恐れもありません」
牡丹「悪いことを考える人がいてもできないのね」
幸祥「それに全国どこの公証役場からでも、どの公証役場に遺言書が保管してあるかどうか探すことができるので便利なんですよ」
公正証書を作る公証人の仕事の種類
信玄「ところで、仁くんの…いや、公証人さんの普段の役割はどんなものなんじゃ?」
幸祥「簡単に言うと、裁判官や検察官などを長く勤めた法律実務のスペシャリストですね。公証事務という公務を行っています。こう見えて法務大臣が任命した準国家公務員なんです」
牡丹「公務というのは、公正証書遺言の手続きのことかしら?」
幸祥「それもありますが、もっと広く、法律行為や私人間の権利について公正証書を作成したり、定款などに認証を与える役割ですね。公正証書で言えば、例えばこのような感じです」
《公証人が作る公正証書の種類について》
①法律行為に関する公正証書
・契約に関する公正証書(土地や建物の売買における契約、リース契約等)
・単独行為に関する公正証書(遺言書等)
②私権に関する公正証書
・事実実験公正証書(特許権の侵害に対して状況を記録すること、意思表示等)
幸祥「今回ご相談いただいているのは公正証書遺言ですね。これも、公正証書として公証人が遺言者の代わりに遺言書を作成したり、公証人が署名押印したりするわけなんです」
牡丹「つまり本人に代わって、いろいろやってくれるというわけですね」
きなこ「小学校にあがったら、きなこの宿題もコーソーニンさんにお願いする!」
信玄「これ、きなこ!」
幸祥「さすがにきなこちゃんの宿題を代行したら、いろんな人に叱られちゃうから、また別のときにね」
信玄「ちなみに、どんな内容にするのか困った場合に相談もできるのかのう?」
幸祥「もちろんです。遺言書の作成から遺言書の保管に至るまで公証人が深く関りますから、安心してください」
公正証書遺言を作成する公証役場とは
牡丹「そういえば、おじいさんが遺言を保管してくれるとも言ってらしたわね。あれはどういう仕組みなのかしら?」
幸祥「公証役場は全国各地にある役場で、公正証書遺言は基本的にこの公証役場で作成されることが多いんです。でも、たとえば信玄さんがご病気で、公証役場に行けないときなどは公証人が自宅出張して作成することもできます」
信玄「だから今日もこうやって来てくれているんじゃないか」
牡丹「あら? どこかお悪いんですか?」
信玄「ホラ、ぎっくり腰で…あいたた」
きなこ「きなこをだっこしたら、おじいちゃんがギャーって言ったんだよね」
幸祥「…なかなかにハードな状況ですね、ご無理はなさらないでください。作成した遺言書は私がきちんと電子保管できるように取り計らいますので」
牡丹「電気保管?」
きなこ「なんだかビームでそう!」
信玄「なんだかエキセントリックな想像しておらんか? 電子じゃ」
幸祥「ええ、公正証書遺言をした人の遺言書作成年月日等をデータベース化していましてね。遺言者の死後に、相続人などの正当な利害関係人から照会があった場合、公証人が誰か、保管されている公証役場がどこかが、すぐにわかるようになっているんです」
公証人に直接依頼する時の流れ
信玄「では、公正証書遺言を公証人にお願いするときには、どういう流れになるんじゃ?」
幸祥「公証人の場合は、次のような流れですね」
《公証役場で公証人に直接依頼する流れ》
- 相続人の名前や主な相続財産、具体的な財産の相続方法などをまとめておく
- 公証役場に連絡をして相談日時を予約
- 公証人と相談(相談に際しては立会人は不要)
- 公証人から伝えられた必要書類を用意する
- 必要があれば第2回目の相談へ
- 公証人立ち合いのもと遺言書の作成(公正証書遺言には証人の立ち会いが必要)
牡丹「ということは、今回は1回目の相談ということかしら?」
幸祥「まあ今日はたまに実家に帰ってきたついでに、久しぶりに立ち寄ったくらいな感じですから、お気になさらずに」
信玄「証人として仁くんにお願いしたい場合は、どういうふうにすればいいんじゃ?」
幸祥「公証役場で依頼することになります。その場合、恐れ入りますが、謝礼が必要になります。あと、僕ひとりではなく、必ず2名の証人が必要になるんです」
牡丹「そもそも、公正証書遺言で証人が必要なのはどうしてなの?」
幸祥「遺言の正しさを証明するためですね。遺言者の真意を確保することと、遺言に関する後日の紛争を未然に防止するのが目的です。ですから証人は以下のすべてに立ち会うわけなんです」
《公証人が立ち会う局面》
- 遺言者が遺言の内容を公証人に伝える場面
- 公証人による筆記した遺言書の内容の読み聞かせ
- 筆記の正確性の承認
- 遺言者による遺言書への署名押印
きなこ「きなこもコーソーニンになりたい!」
信玄「おお、きなこがやってくれるなら、じいじも安心じゃのう」
牡丹「仁さん、この人放っておいたら、本当にきなこにやらせかねない孫バカですよ?」
幸祥「あはは、きなこちゃんは残念ながらなれないなあ」
きなこ「きなこが大きくなるまで、おじいちゃんを生かしておくもん。水槽で飼うもん」
信玄「…い、生かす? か、飼う?」
牡丹「そういえば、公証人になれる条件というのはあるのかしら?」
幸祥「ええ、民法974条で証人になれない人(欠格者)が規定されています」
公正証書遺言の証人になれない人(証人欠格)
- 未成年
- 推定相続人、受遺者、これらの人たちの配偶者や直系血族
- 公証人の配偶者
- 公証人の四等身以内の親族
- 公証人の書記
- 公証人の使用人
幸祥「遺言書を作る公証人や、公証人に近い人、利害関係のある人が承認になってしまうと、不備や不正を見逃してしまう可能性や、公平性に欠けてしまうことがあるんです」
信玄「残念じゃのう、きなこや」
きなこ「しょぼん…」
牡丹「まあでも、中立・公正だからこそ、安心してお任せできるんじゃない」
幸祥「そうですね。でも、中立・公正だからこそ公証人にもできないことはありましてね。例えば遺言書の作成にあたって、以下のようなことはできないんです」
遺言書作成において公証人ができないこと
- 税金対策を踏まえた提案をする
- 当事者間の事情を鑑み、依頼者様(遺言者)やその推定相続人に有利な提案をする
- 戸籍請求や謄本の取得等の必要書類の代行など
牡丹「つまり依頼者の利益につながるようなアドバイスはできないわけね」
信玄「ひとつよくわからんのじゃが、ホレ、行政書士さんという仕事があるじゃろ? あの人たちも遺言をあつかったりしているみたいじゃが、公証人とどう違うんじゃ?」
幸祥「公証人と行政書士では多少できることが異なるんです。行政書士ならば依頼者様(遺言者)が置かれている事情を考慮し、最適解を提案することができますので、公証人と行政書士、どちらにお願いするかは状況次第です。公正証書遺言の内容が決まっていれば公証人でいいですし、今回の餅田さんのように公正証書遺言の内容が決まっていなければ行政書士のほうがやりやすいかもしれませんよ。ちなみに行政書士に証人を紹介してもらうこともできます」
公正証書遺言の作成費用(手数料)
牡丹「あとひとつ、我が家にとってとっても大事なことを聞きたいわ」
幸祥「なんでしょう?」
牡丹「ズバリ、公正証書遺言を造るのにはおいくらかかるの?」
幸祥「作成費用については公証人手数料令という政令で決められていましてね。相続財産の価格に応じて手数料は異なるんです」
《相続財産別の手数料》
- ~100万円 ⇒5,000円
- 100万円~200万円⇒7,000円
- 200万円~500万円⇒11,000円
- 500万円~1000万円⇒17,000円
- 1000万円~3000万円⇒23,000円
- 3000万円~5000万円⇒29,000円
- 5000万円~1億円⇒43,000円
- 1億円~3億円⇒43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額
- 3億円~10億円⇒95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円加算した額
- 10億円~249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円加算した額
牡丹「けっこう細かく分かれているのですわね」
幸祥「もし全体の財産が1億円以下のときは、上記の表によって算出された手数料額に、11,000円が加算されます」
信玄「1億もあったら、我が家は安泰じゃがのう、わしにはそこまでないな」
幸祥「人それぞれですから(笑) 遺言公正証書は、通常、原本、正本及び謄本を各1部作成し、原本(3枚まで/4枚目以降は1枚250円)は、法律に基づいて公証役場で保管し、正本及び謄本は、遺言者に交付します。なので、その手数料というわけですね」
公正証書遺言の作成は行政書士等の専門家がおススメ
信玄「なるほどのう。いや、モヤモヤしていたことがスッキリした気分じゃわい。これで心置きなく遺言書を書けるというものじゃ」
きなこ「きなこも、書く~!」
幸祥「きなこちゃんは、まだまだずっと先でいいかな(笑)」
牡丹「ねえ、あなた。それなら仁さんにご相談なさるの?」
信玄「ううむ、でも遺言内容から相談したいから、本来ならば行政書士さんなんじゃろうが…それだと仁くんに悪いしのう」
幸祥「そんなこと気にされなくて大丈夫ですよ(笑) 行政書士さんにお願いするなら、私の旧友がやっている行政書士事務所があるんです。長岡君と言って、信頼できますからご紹介しましょうか?」
信玄「そりゃ頼もしい。ありがとうね、仁くん」
牡丹「だったら、私はもう遺言書の内容を決めていますから、仁くんにお願いしようかしら」
信玄「え、そうなのかい? なんじゃ、決めているって、どんなことを書くんじゃ?」
牡丹「それは夫婦と言えど、秘密ですわよ。きなこにだけ、教えようかしら?」
きなこ「ばあばときなこのひみつー!」
信玄「『いつの間に 妻と我が孫 タッグ組む』信玄、心の川柳」
この記事を詳しく読みたい方はこちら:公正証書遺言を作りたいけど、そもそも公証役場と公証人ってなあに?