「公正証書遺言は原本・正本・謄本が発行されると聞いた。何が違うの?」
「公正証書遺言を作成したら正本と謄本が渡された。保管はどうしたらいいの?」
「遺言書は見つけてもらわないと困るけど、勝手に見られるのは嫌。見つけやすい、かつ見られない場所ってどこ?」
近年、情報が得やすくなったなどの理由から、遺言書は身近な存在となってきたと言われています。
その遺言書の中でも一般的に法的有効性が高いと言われているのが『公正証書遺言』というものです。
この公正証書遺言は、原本・正本・謄本の3通作成されます。
遺言書はトラブルや偽造・変造の防止という観点から容易に見つからない場所に保管するということがオススメされています。
家族であっても容易に見つかってはいけないようなものなのになんで3通も作るのでしょうか・・・?
また、簡単に見つかってはいけない重要書類を3通も作られてしまうと保管も大変なのに。
それにもかかわらず3通も作成されるには理由があるのです。
今回は、公正証書遺言の原本・正本・謄本のそれぞれの役割や保管方法についてお話ししようと思います。
目次
そもそも公正証書遺言とは?
公証役場で公文書として作成された遺言書のことを『公正証書遺言』と呼ばれる遺言書です。
公正証書遺言は、証人2人以上の立ち会いのもとで遺言者が公証人に遺言の内容を口頭で伝え、それに基づいて公証人が遺言の内容を文章化して作成するものです。
公正証書遺言は、公証人が作成する公文書であるため、一般的に信用性の高いものであると考えられています。
公正証書遺言は、原本・正本・謄本を作成します。
原本は公証役場で保管され、正本と謄本は各1部ずつ遺言者に交付されます。
公正証書遺言の原本とは?
原本は、遺言者・証人2人・公証人が署名押印したものです。
一方、正本と謄本には署名・押印は行いません。
原本はオリジナルの書面として世の中に唯一1つしか存在しないものとなります。
この原本は公証役場で厳重に保管され、ご本人に渡されることはありません。
また、原則として公証役場の外に持ち出されることもありません。
公正証書遺言の正本とは?
正本は、原本のコピーです。
ただし、ただのコピーではなく正本である旨の公証人の認証があり、原本と同じ効力を持ちます。
公正証書遺言の原本は、公証役場に保管され止むを得ない、受取りや公証役場の外への持ち出しをすることもできません。
したがって、原本を用いて登記手続きなどをすることができません。
正本を持っていることで不動産登記の変更など相続手続きを行う場合に原本の代わりに使用することができます。
また、仮に公正証書遺言を紛失してしまった場合には、公証役場に依頼すると正本を再発行してもらうことができます。
オリジナルである原本が公証役場にあるからこそ、正本の再発行が可能となるわけです。
公正証書遺言の謄本とは?
こちらも原本のコピーです。
ただし、正本とは違って原本と同じ効力は持ちません。
つまり、同じコピーでも正本は原本と同じ効力を持つのに対して、謄本はあくまでも原本のコピーです。
ただし、謄本を見ることによって遺言書の内容が確認することができるなど、遺言者の死後に遺族は遺言書が存在することを知ることが可能となります。
謄本も公証役場で再発行が可能です。
公正証書遺言の原本は公証役場に保管される
すでにご説明した通り、公正証書遺言を作成すると、原本・正本・謄本の3通が発行され、このうち原本は公証役場に保管されます。
公正証書遺言の保管期間とは
公正証書遺言など公正証書の保管期間について、20年間保管すると公証人法施行規則によって定められています。
さらに、この規則には「特別の事由」によって保存の必要がある場合、その事由のある間は保管しなければならないとも定められています。
そして、公正証書遺言はこの「特別の事由」に該当すると解釈されています。
なぜならば、遺言書は遺言者がお亡くなりになった後に効力を発するものなのでお亡くなりになるまで保管されていなければ意味がありません。
そのため、遺言者がご存命の間はこの「特別の事由」にあたり、少なくとも遺言者が亡くなるまでは保管されることになっています。
ただ、公正証書遺言についての取り扱いは各公証役場によって異なります。
遺言者の死後50年、公正証書遺言を作成後140年または遺言者の生後170年、あるいは半永久的に破棄しないといった公証役場もあるようです。
公正証書遺言の保管費用
公正証書遺言の原本の保管費用は、無料です。
何年保管しても追加料金を請求されるということはありません。
ただし、公正証書遺言の作成には費用がかかります。
作成手数料や用紙代、必要書類の取得費用、場合によっては証人を紹介してもらう場合もあり、証人への報酬や、行政書士や弁護士など専門家への依頼費用などもかかります。
公正証書遺言の正本・謄本の取り扱いとは
公正証書遺言の正本と謄本の保管場所について、法律による定めはありません。
正本・謄本の取り扱いは自由です。
一般的には、
- 自宅内で保管
- 信頼できる人弁護士や行政書士など専門家に預ける
- 遺言書で遺言執行者(※1)の指定がある場合には遺言執行者に預ける
このような場合が多いようです。
遺言の内容が遺言者の生存中に遺言者以外に知られてしまうと、相続が開始する前からトラブルに発展したり、遺言者にとって真意ではない遺言書を作成し直さなければならないなど様々なことが想定できます。
そのため、遺言は生前には遺言者以外には知られないようにする必要があると言われています。
※1遺言執行者とは・・・遺言書の内容を実現させる職務を行う人のこと。
実際の遺言書の手続きでは正本と謄本はどう対応するの?
正本は法的な手続きが可能である一方、謄本では法的な手続きができないとお話ししました。
つまり、相続登記などの法的手続きを正本でできることは間違いないです。
ただ、実際のところ正本でも謄本でも相続登記や預貯金の払い戻しなど相続手続きを進めることができる場合もあるようです。
謄本はただのコピーとはいえ、原本の内容を証明する資料です。
しかし、法務局によっては正本でなければ相続登記はできないということもあるようなのでご自身でなさる場合には法務局へ問い合わせてみると良いでしょう。
登記手続きについてわからない、心配という場合には専門家にご相談することをおすすめします。
遺言者が亡くなった後はどうなる?
公正証書遺言を残した遺言者が亡くなった場合、相続人へ遺言書の存在を知らせる通知などは来ません。
遺言者の死亡を公証人に伝えるようなシステムが存在しないからです。
そのため、遺言者は相続人が公正証書遺言の存在がわかるように手配しておく必要があります。
遺言書の存在がわかるような手配とは、例えば・・・
- 公正証書遺言を作成したこと、公証役場に保管してあることなどを家族など相続人に伝えておく。
- 亡くなった場合に遺言書がある旨を知らせてくれるように信頼できる人や遺言書の作成を依頼した行政書士や弁護士などの専門家に依頼しておく
このような方法が考えられます。
遺言書をせっかく作成したとしても発見してもらわなければ遺言書の内容を実現することはできません。
また、遺産分割が終了した後に発見された場合、再度相続手続きが必要になる可能性もあり、トラブルに発展する可能性もあります。
公正証書遺言の検索はできる
遺言書の存在がわかっていれば、例えご本人が持っているはずの正本や謄本が発見できなかったとしても、遺言者が亡くなった後であれば相続人が公証役場で再発行することができます。
また、遺言書が存在するということを知っているだけであっても、最寄りの公証役場で遺言検索システムを用いて公正証書遺言がどこに保管してあるか探すことが可能です。
参考:遺言検索を詳しく知りたい方はこちら遺言書はどうやって探すの?必要なものはある?~遺言検索とは~
公正証書ではない遺言書は公証役場に保管できる?
公証役場に保管ができるのは公正証書遺言のみです。
公正証書遺言の他に、一般的に利用されるものに自筆証書遺言がありますが、自筆遺言証書は公証役場に保管することはできません。
この自筆証書遺言は
- ご自身で保管
- 信託銀行や弁護士・行政書士などの専門家に依頼して保管
- 法務局で保管
このような方法があります。
自筆証書遺言は法務局に保管できる
平成30年の法改正によって自筆証書遺言保管制度が新設されました。
この法律によって令和2年7月10日以降、自筆遺言証書は法務局において保管が可能となりました。
この保管制度を利用するためには申請が必要で保管できるのは自筆遺言証書のみです。
保管の申請には遺言者本人が遺言書保管所に法務局へ赴く必要があり、遺言書の申請の際には本人確認が行われます。
自筆証書遺言保管制度でできること
- 自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことができる。
- 法務局が遺言者の作成した遺言書が自筆遺言証書の書式に適合しているか確認してもらうことができる。
- ご本人があらかじめ通知を希望している場合、遺言書保管所において遺言者の死亡の事実が確認できた場合に相続人等の方々の閲覧等を待たずに遺言書保管所に関係する遺言書が保管されている旨のお知らせが届く。
自筆証書遺言は、ご自身のみで用意していただくもので費用もかからず、手軽に用意ができる遺言書です。
しかし、書式が適合していないと無効となる可能性があります。
法務局で確認をしてもらうことによって無効となる心配も軽減されます。
自筆証書遺言保管制度の保管期間
保管申請された遺言書は遺言書保管所内で原本に加えて画像データとしても長期間管理されます。
・原本 ⇨ 遺言者死後50年
・画像データ ⇨ 遺言者死後
自筆証書遺言保管制度の費用
<保管費用>
保管年数等にかかわらず、遺言書1通あたり3,900円です。
<閲覧費用>
遺言書の保管が開始された後、遺言者は保管されている遺言書について原本またはモニターによって閲覧することができます。
原本の閲覧は遺言書を保管している法務局のみで可能ですが、モニターによる閲覧は、全国どこの遺言書が保管してある法務局で閲覧可能です。
・原本の閲覧 ⇨ 1回 1,700円
・モニターによる閲覧 ⇨ 1回 1,400円
自筆証書遺言保管制度には通知制度がある!
遺言者が遺言書を法務局で保管をしていたとしても相続人等が知らないと遺言書の内容を知ることはできません。
遺言書の存在を知らなければ遺言はないものとして遺産分割がなされてご本人の意思とは関係なく相続手続きが終了する可能性があります。
ただし、この制度では遺言書を作成したご本人があらかじめ通知を希望している場合、遺言書保管所において遺言者の死亡の事実が確認できた場合に相続人等の方々の閲覧等を待たずに遺言書保管所に関係する遺言書が保管されている旨のお知らせが届きます。
遺言書が見つからなかった場合どうなる?
遺産分割手続きをする場合、まずは遺言書の有無が確認されます。
ご自身の持っていた財産を家族などの相続人に渡すのですから、ご本人の意思をまず第一にという考えからです。
ただ、公正証書遺言も自筆証書遺言も、どちらであっても相続人が見つけられない場合には遺言はなかったものとして遺産分割が開始されます。
つまり、見つからない場合には遺言書を残した意味がなくなってしまうのです。
仮に、遺産分割が終わった後に発見された場合にはすでに終わった遺産分割が水の泡・・・となってしまう可能性もあります。
遺言書が見つからないからと言ってすぐに相続人全員で遺産分割をせず、宝探し状態にはなりますが、できる限りの手を尽くして頑張って遺言書を探しましょう。
遺言はプロにサポートを依頼してトラブル回避!
遺言書はせっかく用意しても見つけてもらわなければ意味がありません。
でも簡単に見つかるとトラブルの元となりかねない・・・
簡単に見つかってほしいけど、生きている間には見つかってほしくない。
人はいつ死ぬかなんて想定できないのになかなか無理難題だと思います。
公正証書遺言も自筆証書遺言も保管制度があり、ご本人が生存中にはご本人以外に公表することはありません。
また、保管制度を利用している旨を家族に知らせるだけで死後、遺言書の発見も容易なものとなります。
公正証書遺言であれば原本の他に正本と謄本が発行され、例え正本や謄本をなくしたとしても原本は公証役場に保管されているため再度手元に遺言書を置くということも可能です。
でも公正証書遺言は公証人と一緒に作るもので手間もかかるし、何度も作るものでもなく、人生において身近なものとは言えません。
遺言書の作成はご自身でも作成できるものですが、専門家に依頼してサポートを依頼することでスムーズに遺言書の作成ができるなど、後のトラブルを回避しつつ、安心していただける遺言書の作成ができると思います。
遺言書の作成など、ご不安なことがあれば長岡行政書士事務所へご相談ください。
<参考文献>
常岡史子著 新世社 『家族法』