「養子は相続にどう影響するの」
「相続人の立場に重複なんて起きるの」
「兄には実子がいないのだけど、その養子に子供がいるんだ」
これまでにも何回か代襲相続という言葉がでてきました。
もう一回この代襲相続をおさらいし、養子縁組が絡んだケースを学んでいきましょう。
今日の長岡行政書士事務所、おやおや、朝からひと騒動ですよ。
ひまり:「先生おはようございます!」
長岡:「今日も元気ですね、おはようございます。お仕事どうですか?」
ひまり:「はい、今日も頑張って勉強して、一刻も早く先輩方に下剋上したいと思ってます!」
(誰かがコーヒーをブフッ吹く音が響く事務所、遠くでサイレンが聞こえる)
・・・
長岡:「げ、下剋上?!」
ひまり:「はい、あれ?下剋上って恩返しって意味ですよね?」
長岡:「ヨーコさん、ちょっと、あとでひまりちゃんに色々教えてあげて」
目次
養子も法定相続人になる
長岡:「さて、ここで養子がいた場合の相続を考えてみましょう。養子と実子は法律上の違いはありません。また養子と実子が同時に存在する場合も同じです」
ひまり:「平等なんですね」
長岡:「そうなんです。養子と実子の法定相続分も同じですし、遺産分割協議にも同じように参加します。ただ特別養子縁組と普通養子縁組の2種類あってこの場合は実親の相続権が違ってくるんだけど、このテーマには今日は深く入るのはやめておきましょう」
養子縁組と代襲相続の関係
養子も法定相続人になりますが、代襲相続の場合はどうなるのでしょうか。
ここからは、養子縁組と代襲相続の関係について見ていきます
代襲相続とは
長岡:「さて、気を取り直して、代襲相続とは何か説明できますか?」
ひまり:「もちろんです。代襲相続とは、本来相続人になるはずであった人が被相続人より早く亡くなってしまった等の何らかの理由で相続することができない場合に、その相続人の子供が代わりに相続する制度、ですよね」
長岡;「そうですね。亡くなった以外の理由では廃除や相続欠格も含む、と。それでは、直系尊属、直系卑属、兄弟姉妹がいた場合はそれぞれどうなりますか」
ひまり:「はい、直系卑属、つまり子が先に亡くなった場合はその孫に、その孫も亡くなってしまっていた場合はという場合はそのひ孫に、と代襲相続は続きます」
長岡:「その通りです、では兄弟姉妹の場合は?」
ひまり:「前に勉強しました。兄弟姉妹の場合はその下の代、つまり甥か姪にまでしか代襲相続はできません」
長岡:「ちゃんと理解してますね。では、直系尊属の場合は?」
ひまり:「直系尊属の場合・・・自分のおじいちゃんやおばあちゃんですよね。やっぱり代襲相続が成立するのではないでしょうか」
長岡:「それが違うんです。結論から言うと代襲相続は直系尊属では発生しませんが、祖父母が直系尊属として相続人になることはあります」
ひまり:「え?どういう意味でしょうか・・・」
長岡:「ちょっといじわるな言い方だったかな(笑)。 祖父母は代襲相続として相続するのでなく、直系尊属として相続します。ここで民法889条を見てみましょう」
民法第889条 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
長岡:「直系尊属の中には親も祖父母も含まれています。そしてその近いものを先にする、とあるので、祖父母が健在でもより被相続人に近い親が先、親がいなければ次に祖父母、という順番になります」
ひまり:「わかりました。直系尊属というひとつの枠の中に親と祖父母が存在するのですね」
養子の子供に代襲相続が発生するための条件
長岡:「それでは養子縁組における代襲相続の具体例について、いくつかのケースを基に考えましょう。より理解が深まると思いますよ」
ひまり:「はい、是非お願いします!」
長岡:「養子縁組をしても、養子の方が先に亡くなってしまった場合、その養子の子が代襲相続するためにはある条件が必要なのですが、わかりますか?」
ひまり:「養子の子が代襲相続するため・・・うーん・・・同居しているかどうか、でしょうか?」
長岡:「残念、違います。養子縁組をしたタイミングが重要なのです。つまり、養子縁組の前に生まれていた子には代襲相続はできませんが、養子縁組の後の子であれば代襲相続できる、ということです」
ひまり:「前か後かが大切なのですね」
長岡:「そうですね。養子と養親間の縁組成立後に生まれた子である場合には、以下の規定により、養親の直系卑属となります。すなわち、養子縁組の日以降、養親と養子は血族同士と同じ親子関係となりますので、その後に生まれた子については、当然に養親との法定血族関係が発生します」
民法第727条 養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる
養子が関わる代襲相続の具体例
長岡;「さて、それでは以下のケースではどうなるでしょう」
亡養子の子供の代襲相続
ケース1 被相続人Aの弟Bからの相談
- Bは被相続人Aの唯一の弟
- Aには妻Cがいたが実子はいなかった
- 10年前にCの甥であるDをAは養子にしたが、3年前にCとDが交通事故で同時に亡くなってしまった
- Dには息子であるEが5年前に生まれている
質問:Aの財産をBは相続できるか?
ひまり:「Dを養子にしたのが10年前ということは、それ以降法律上DはAの実子と同じ扱いになったという事ですよね。ということは、その後生まれたEは被相続人の孫です」
長岡:「そのとおりです」
ひまり:「孫は第1順位の直系卑属で代襲相続できますが、BはAの兄弟姉妹として第3順位だからこの場合相続はできません。よってEが全財産を相続することになると思います」
長岡:「素晴らしい、よく短期間でここまで理解しましたね」
ひまり:「ありがとうございます!本当に下剋上できる気がします!」
(カツン、とマリがカップを置く音が事務所に響く)
養子の相続人としての地位が重複する時の相続割合
長岡:「先生変な汗が今日は止まりませんよ・・・さて、最後に相続が重複するケースを紹介します」
ひまり:「相続が重複ですか、ちょっと想像できません」
ケース2: 孫を養子にした場合
- 被相続人には配偶者と実子2人(AとB)がいる
- Bには子のCがいる
- Bが被相続人より早く亡くなってしまい、Cは被相続人の養子となった
質問:配偶者とA、Cのそれぞれの相続割合を求めなさい
ひまり:「これももう習いました。以下の通りです」
配偶者:2分の1(6分の3)
実子A:6分の1
養子C:6分の1
孫C:6分の1
ひまり:「配偶者には半分なのはいいとして、残りを実子と養子、あと代襲相続した孫のCで等しく分けるから・・・あれ?Cが2人いる??」
長岡:「そうなんです、この場合Cは代襲相続する孫としての相続と養子としての相続が重複しますので、結果として6分の2、つまり3分の1の財産を相続することになります」
ひまり:「本当ですね。実際はもっと複雑で色々なパターンが考えられると思うので、より一層身を引き締めて相続を学んでいきたいと思います」
代襲相続は養子であっても発生
代襲相続は養子であっても発生しますが、タイミングが大切になってきます。
つまり、養子の子が生まれたのが養子縁組の先か後によって、その子が相続できるか否かが変わってくるのです。
実際のケースでは実親の再婚相手と養子縁組、配偶者の実親と養子縁組、実親の兄弟と養子縁組といったふうに、様々な理由により養子縁組を結ぶことがあります。
養子縁組をしている場合は、養親の相続だけでなく代襲相続にも注意してみてください。
今回は養子縁組と代襲相続というテーマを取り上げましたしたが、次回は数次相続というテーマを一緒に学んでいきたいと思います。