「うちは子供も親もいないんだけど」
「妻と兄の折り合いが悪くて心配です」
「私は独身で兄も死んでしまったが、姪っ子に財産を譲りたい」
これまで子供に相続する場合と、親に相続する場合を学びました。
今日は兄弟、つまり被相続人の兄、弟、姉、妹とその子供たちに相続する場合です。
さあ、今日の長岡行政書士事務所をのぞいてみましょう。
マリ:「あら、あなたが噂の新人さんね、初めまして、ごきげんよう」
ひまり:「マリさん、もう3回話してます」
マリ:「そうとも言うわね」
ヨーコ:「横から失礼、マリさん、いない間に電話とってくれてありがと、でもメモに書いてあるヤ〇ザのお医者さんの知り合いなんて私いないんだけど・・・」
マリ:「ヤ〇ザ医師って言っていましたよ、薬局を開業したいから相談したいって」
ヨーコ :「ああ・・・了解」
ヨーコ、行ってしまう。
マリ:「さ、今日は私と勉強しましょう。前向きにいこう!」
ひまり:「不安しか感じません!」
目次
兄弟の相続順位は第三位
マリ:「さて、兄弟の相続順位は覚えてますか?」
ひまり:「はい、直系卑属である子、直系尊属である親に続く第3位です」
マリ:「そのとおり、では被相続人の兄弟に相続が発生する場合はどんなケースが考えられますか?」
ひまり:「ええと・・・例えば、亡くなられた方にお子さんやお孫さんがいらっしゃらない場合で、ご両親や祖父母がすでに他界しているケースでしょうか」
マリ:「そうね、最近は未婚率が高くなり少子化が進んでいるので、兄弟が相続するのは珍しいケースとはいえません」
ひまり:「なるほど、確かにそうかもしれませんね」
兄弟姉妹(第三順位)の相続は再代襲相続できない
マリ:「ただ、気を付けなければいけないのは、この兄弟への相続は子や両親の場合とはちがって、再代襲相続が認められてないことです」
ひまり:「再代襲相続、ですか」
マリ:「そう、兄弟に相続できるのはその子まで、つまり甥や姪までで、もし甥や姪が亡くなられていたらその子には相続の効果が及びません」
兄妹の法定相続割合
マリ:「では、兄弟の場合の相続割合はどうなると思いますか?」
ひまり:「配偶者がいる場合は配偶者が4分の3、残された4分の1をご兄弟で等分ですよね。配偶者がいない場合はご兄弟が全てを相続する、と」
マリ:「ほう・・・やるわね」
ひまり:「・・・(ニヤリ)」
兄弟姉妹(第三順位)と遺留分
マリ:「じゃ、兄弟の遺留分は?」
ひまり:「まだ遺留分は習ってないのでわかりません・・・」
マリ:「人から教わる前に自分から学ぶ姿勢が社会人として大切なのよ。いい? 遺留分とは法律で認められている最低限の財産の取り分のことで、兄弟には遺留分は認められていません。なので遺言書が作成されていて配偶者に全額と記載されていれば、兄弟には遺留分を請求する権利はありません」
合わせて読みたい>>遺留分とは?具体例や侵害された遺留分請求方法を分かりやすく解説!
ひまり:「(きいいっ)」
マリ:「ま、私先輩だから!」
兄弟が相続人の場合に起こりうるトラブルや注意点
マリ:「さて、兄弟だと親との関係と比べて、兄弟間で仲良よくない場合があったりと、予期せぬトラブルに発展するケースがあります」
- 相続人確定のための戸籍の収集が大変
- 兄弟姉妹が被相続人の時は相続財産が不明確
- 他の兄弟間での寄与度の違い
- 不動産しか財産がない
- 生前贈与・遺言が不公平
- 音信不通の兄弟がいる、知らない兄弟があらわれる
- 兄弟の配偶者が口を出す
ひまり:「兄弟といっても互いに成人すればそれぞれの人生を歩み、異なる事情があるからですね」
マリ:「そうね、では、具体的にいくつかケースを見てみましょう」
相続人確定のための戸籍の収集が大変
マリ:「相続が開始すると相続人の確定をするために、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を全て取得する必要がありますが、兄弟が相続する場合はさらに以下の戸籍を全て取得する必要があります」
- 両親の出生~死亡までの連続した戸籍謄本の一式
- 相続人となる兄弟姉妹が既に亡くなっていた場合、その兄弟の出生~死亡までの連続した戸籍謄本の一式
マリ:「必要書類に漏れがある場合、再度書類を取得することになります」
ひまり:「書類を集めるだけでも大変そうですね・・・」
兄弟姉妹が被相続人の時は相続財産が不明確
マリ:「兄弟の相続の場合は、それぞれの兄弟が自立して生活していることが多く、兄がどんな収入があり、どのような生活スタイルだとかは、他の兄弟はわからないものよ。なので、亡くなった兄弟の財産を探すのは大変だし、意外な借金があったりとトラブルになることが考えられます」
ひまり;「ありそうですね」
マリ:「このような事態を避けるためにも、最低限子供のいない兄弟には財産目録を作成してもらうのがいいでしょう。また、財産目録を定期的に見直すとともに、関係者に見せて内容を把握しておいてもらうことも大切です」
ひまり:「確かに。目録で財産の範囲を確定させて関係者に細かくアップデートしておけば、あとあとトラブルを避けられそうですね」
他の兄弟間での寄与度の違い
マリ:「ところがね、そうはうまくいかない場合も多いんです。例えば、兄弟の中でも長女と長男は仲がいいけど、長女と二男は仲がよくなかったりした場合、長女が被相続人である時に長男はしっかりと面倒を見ていたけど、二男は長女のことを全く面倒を見ていなかったりするでしょ。その場合、長男が長女をサポートしていたと主張し財産を等分することに反対する可能性があります」
ひまり:「む・・・ありそうです」
マリ:「なのでこの寄与度を加味して遺産相続にどのように反映させたいかを遺言に書いてもらえば、個人の意思として尊重されます」
不動産しか財産がない
マリ:「不動産しか相続財産がない場合も揉め事がおきる場合があります」
ひまり:「え、なぜでしょうか?あるだけマシかと思いますが・・・」
マリ:「わかりやすいわね(苦笑)。例えば長男と長女、二男がいて親の相続の時に、相続財産が実家しかない場合で長男が実家を相続した場合、兄弟の相続が起こったとしたら二男はどう考えると思いますか?」
ひまり:「俺にもなんかよこせ」
マリ:「だからやめなさい(困)。 そう、なにかしらの見返りを求めたとき、相続財産が実不動産しかないのだからトラブルになるケースもあります。こういう場合は例えば生命保険を使う方法があるのですが、ちょっと今日は本来の話から外れてしまうのでやめておきましょう」
生前贈与・遺言が不公平
マリ:「さらに、相続財産を等しく分配したとしてもやはり相続人の間で不公平感が残る場合があります」
ひまり:「公平に分けたのにですか? なぜでしょうか」
マリ:「例えば長男から長女は生前に贈与を受けていたり、遺言書が一人の兄弟に偏っていたりとが考えられます。どちらにしろ遺留分はないから法律上の問題にはなりにくいのだけれど、事実上の感情的な問題には発展することはあるでしょうね」
ひまり:「相続以前の家族の歴史も関係してくるのですね」
マリ:「なので可能であればきちんと理由まで記した生前贈与契約書や遺言書を作成して、さらにきちんと相続人の間で合意しておくのがよいでしょう」
音信不通の兄弟がいる(知らない兄弟があらわれる)
マリ:「親が再婚していて、前配偶者との間に子供(兄弟)がいる場合も考えられます。戸籍を取得していったら、兄弟の存在が発覚してあら大変!会ったこともない兄弟がいるとか・・・。」
ひまり:「はい・・・」
マリ:「そんな兄弟でも相続人であり、相続人としての権利はあるのでその人の協力なくしては遺産相続は進まないわ。過去に事務所でも携わった仕事でもそういうことがあったの。戸籍をたどっていくと知らない兄弟の名前があって、親の死亡後、初めてその存在を知った様な出来事が」
ひまり:「か、隠し子ですか!」
マリ:「また、それとは逆に、音信不通の兄弟がいる場合には遺産分割協議ができず、実質、遺産が凍結されてしまう場合も起こりえます」
ひまり:「うーん・・・ではこのようなケースはどう対応したらいいのでしょうか」
マリ:「自分たちに知らない兄弟がいるか否かを確認するには、両親の出生までさかのぼって戸籍(改製原戸籍)を調べることができます。また、兄弟がいることが判明したり連絡の取れない兄弟がいたりする場合には、財産の分け方について遺言書を作成してもらっておくのが良いでしょう」
ひまり:「なるほど! だからきちんと戸籍を調べたり、遺言書を作ってもらうのが大切なのですね」
マリ:「そう、遺言があれば遺産分割協議の必要がないので、連絡の取れない兄弟がいても遺言でもらった財産は自由に使うことができます。ちなみに、第三順位の兄弟には遺留分がないので遺言書を作れば完璧よ」
兄弟の配偶者が口を出す
マリ:「最後に、本人は遺産がもらえなくてもいいやと思っていても配偶者が納得せず結果としてトラブルに発展するケースもあります。他の相続人も部外者と思っていた配偶者に口を出されることは面白くなく、感情の対立を招くことになります」
兄弟への相続は遺言を含めた生前対策を
ひまり:「本当にいろんなパターンが起こりえるのですね・・・」
・・・
ひまり:「本日はありがとうございました。マリさんが教えてくれる事例ってすんなり頭に入ってきます」
マリ:「まあ、ちゃんと勉強してるし、長岡先生の仕事をよく見て日々切磋琢磨してるんだから!」
ひまり:「誤解してました!」
マリ:「その返事ちょっとひっかかるけど、ありがとね! これからも一緒にがんばりましょ!」
兄弟の相続順位は第3位です。
血がつながってるから、昔は仲よく遊んでいたからこそ余計こじれてしまう、そんなケースも多いでしょう。
そのような事態を避けるためにも、専門家に事前に相談したり遺言を含めた生前対策を講じておくことが必要です。
さて、次回はこれまで何度か出てきた養子縁組と代襲相続について勉強したいと思います。