「遺言書を遺したいが、家族が隠したり捨ててしまったらどうなるの?」
「遺言書を捨てられないように保管する方法はある?」
「相続欠格という言葉を耳にしたが、どのような意味なのか。」
未来に想いを遺すための、有効な手段として知られる「遺言書」ですが、もしも隠したり破棄されてしまったら一体どうなるのでしょうか。この記事では遺言書が隠される・破棄された場合の対処法や、相続欠格について詳しく解説します。
目次
遺言書が隠される、破棄されるとはどのような行為?
相続は、家族(以下・被相続人)が亡くなられることにより開始されるものです。もしも、被相続人が生前に遺言書を残していたら、相続人間で遺産分割協議を行わなくても、遺言書通りに相続手続きを進めることが可能です。では、大切な遺言書が隠される、破棄されるとはどのような行為を意味するのでしょうか。
遺言書の中には、ご自宅で保管しているケースもあり、相続人などが見つける可能性があります。しかし、遺言書の中身が必ずしも発見した相続人などにとって、有利な内容とは限りません。
その場合に、以下のような行動が考えられるのです。
遺言書の隠匿
本来遺言書が見つかったら、遅延なく家庭裁判所に提出して検認する必要があります。検認とは遺言書の存在を相続人に知らせ、家庭裁判所にて指定した検認期日に中身をチェックすることを意味します。隠匿はこうした手続きをせずに、遺言書をこっそり隠してしまうことです。
遺言書の破棄
遺言書の存在を知られたくない方が、遺言書を捨てたり燃やしたりしてしまう行為を破棄と言います。遺言書を隠滅する行為です。
遺言書は偽造されるケースもある
遺言書は被相続人が生前に想いを込めて作成しているものですが、相続人にとって不都合な内容や都合の良い内容にしたい場合は、偽造してしまうこともあります。内容を勝手に書き換えたり、消してしまったりするような行為です。
また、相続財産を独占したい、特定の相続人に財産は渡したくないなどの考えがある場合は、勝手に被相続人のふりをして遺言書を作成することも考えられます。
遺言書の隠匿や破棄にペナルティはある?
遺言書は本来、遺産分割協議よりも優先されるものであり、効力のあるものです。大切な遺言書を隠匿や破棄、偽造をした場合には、ペナルティはあるのでしょうか。詳しくは以下のとおりです。
相続欠格とは|相続権は失うことがある!
遺言書を隠匿や破棄、偽造をするような行為は非常に悪質なものであり、ペナルティを負うべきものです。そこで、遺言書に本来あるべき形ではなく、破棄などの行為を行った場合には、「相続欠格」となります。
相続欠格とは、相続財産の承継を目論んで家族を殺害しようとしたり、詐欺・強迫と言った行為で遺言書を無理に作成・取消などをさせた場合に、相続人としての権利を失うことです。
- 相続廃除との違い
相続欠格と類似した用語に「相続廃除」という言葉がありますが、相続廃除は被相続人の意志によって相続人の権利をなくす行為です。相続欠格は被相続人を故意に死亡させたり、死後に発覚した悪質な行為などによって相続権を失うものであり、被相続人の意志は不要です。
合わせて読みたい:相続廃除とは?特定の相続人に相続させない方法を行政書士が解説
遺言書の隠匿・破棄・偽造は相続欠格の事由に該当
相続欠格とは、相続人の権利を失うことを意味します。民法891条にて定められており、遺言書への悪質な行為は厳しいペナルティを負うことがわかります。相続権を失ってしまったら、相続人ではなくなってしまいます。
ただし、すべての遺言書の隠匿や破棄が相続欠格につながるのではありません。
「生前に家族は相続をこうしてほしいと言っていた」などの理由で悪意なく偽造してしまったなどの行為では、相続欠格者とまではならないという判例もあります。
相続に関する被相続人の遺言書又はこれについてされている訂正が方式を欠き無効である場合に、相続人が右方式を具備させて有効な遺言書又はその訂正としての外形を作出する行為は、民法八九一条五号にいう遺言書の偽造又は変造にあたるが、それが遺言者の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨でされたにすぎないものであるときは、右相続人は同号所定の相続欠格者にあたらない。
刑事事件に発展するケースも
遺言書を勝手に隠匿や破棄、偽造をするような行為は刑事事件に発展するケースもあります。法的な効力がある遺言書に悪質ないたずらをするような行為は、「有印私文書偽造罪」や「私用文書等毀棄罪」などに該当するためです。被害届や刑事告訴を行うことで、警察による捜査が行われる可能性があります。
- 偽造された遺言書が行使されたらどうする?
遺言書は被相続人が生前に残すべき者であり、別の方が偽造した遺言書は効力を持ちません。もしも行使される事態となったら、「遺言無効確認の訴え」を提起し、裁判所にて争うことができます。
遺言書の種類別|遺言書の保管方法とは
遺言書の隠匿や破棄は、相続人全体に大きな混乱をもたらす行為です。こうしたトラブルを避けるためには、遺言書を適切に保管することが重要です。
遺言書の隠匿などの行為は、相続人などが自宅などで発見したり、家族が生前に被相続人から預かっていたりすることから起きているものであり、適切な保管があれば防ぐことができます。この章では、遺言書の種類別に、適切な保管方法を紹介します。
自筆証書遺言の保管方法
自筆証書遺言とは、遺言書を残したいご本人がすべて作成を行った遺言書です。いつでも思い立ったら作成できますが、自宅保管を選ぶと、隠匿や破棄といったトラブルを起こす原因になりかねません。また、自分しか保管先を知らないと、見つからないまま遺産分割協議が終わる可能性もあります。
自筆証書遺言には、以下の保管方法があります。
- 自分で保管
- 自分以外の人(相続人となる可能性がある方など)に預ける
- 遺言書保管制度の利用(法務局で管理・保管)
- 行政書士などの士業に預ける
合わせて読みたい:自筆証書遺言の保管方法を行政書士が解説!
公正証書遺言の保管方法
公正証書遺言は公証役場にて証人2名が同席し、遺言内容を公証人が確認した上で、遺言書作成も公証人が筆記するしくみを言います。自筆証書遺言とは異なり公証人が作成を行うため、信頼性が高い遺言書です
公正証書遺言は、公証役場で管理・保管されます。
合わせて読みたい:公正証書遺言を作成する流れとは?手続き、必要書類、手数料等を行政書士が解説!
秘密証書遺言の保管方法
あまり利用される機会が少ない秘密証書遺言は、自分で作成・封印までを完了させた遺言書を、公証役場で署名押印した上で保管してもらうしくみです。誰にも知られることなく、遺言書の存在だけを公証役場に知らせることができます。
秘密証書遺言は以下の保管方法があります。
- 自分で保管
- 自分以外の人に預ける
- 行政書士などの士業に預ける
合わせて読みたい:内容を秘密にしながら遺言書を作りたい、公証役場で作る秘密証書遺言とは?
保管方法一覧表
遺言書の種類別の保管先候補、隠匿・破棄のリスクの有無は以下のとおりです。
遺言書の種類 | 保管先候補 | 隠匿や破棄リスクの有無 |
自筆証書遺言 | ・自分で保管 ・自分以外の人(相続人となる可能性がある方など)に預ける ・遺言書保管制度の利用(法務局で管理・保管) ・行政書士などの士業に預ける | 遺言書保管制度の活用や士業へ預けるならリスクは回避できる。 ※ただし、士業のアドバイスがない自筆証書遺言は中身に問題があり、トラブルになる可能性あり。 |
公正証書遺言 | 公証役場 | 隠匿や破棄のリスクはない |
秘密証書遺言 | ・自分で保管
| ・公証役場や士業に預ける場合は隠匿や破棄リスクはない。 ※士業のアドバイスがない秘密証書遺言は中身に問題があり、トラブルになる可能性あり。 |
遺言書は正しい保管のためにも法律の専門家に相談しよう
今回の記事では、遺言書の隠匿・破棄をテーマに、相続欠格や遺言書の保管方法について詳しく解説しました。
遺言書には3つの種類がありますが、遺言書に書く内容や保管方法に考慮をしなければ、破棄や隠匿だけではなく、遺留分を争うトラブルなどに発展するおそれもあります。あなたの思いをしっかりと遺す遺言書は、専門家にアドバイスをもらいながら作ることがおすすめです。