私の家族はとても仲が良く、相続で揉めるなんてことが起こってほしくないのでそろそろ遺言書を準備しようと思っています。
家族が相続で揉めることも、家族に余計な負担をかけることも望んでいません。
そのような場合、遺言執行者を選任すると良いと聞きました。
そこで、古くからの知人にお願いしようと思っているのですが、彼もいい歳ですから一体いつ何が起こるかわかりません。
それに1人で遺言の内容を実現するというのは、とても大変なのではないでしょうか?
安心のために何人か遺言執行者を選びたいのですが、そのようなことは可能なのでしょうか?
今回のご相談は、遺言執行者を複数人選任することは可能か?といったご相談でした。
結論から申し上げますと、遺言執行者は何人選任しても構いません。
また、この方ができなくなった場合にはこっちの方へ・・・といったように予め第二順位の遺言執行者を指定しておくことも可能です。
しかし、遺言執行者がたくさんいればいるほど良いというものでもなく、遺言執行者を複数人選任する場合には注意が必要です。
今回は遺言執行者を複数選任する、共同の遺言執行者と予備的遺言執行者について注意点も併せて解説します。
目次
遺言執行者は遺言の内容を実現する人
遺言執行者とは、遺言の内容を実現させるために必要な手続きなどを行う人のことです。
遺言執行者は相続人の代表として、遺言の内容を実現するために様々な手続きを行う権限を有しています。
また、遺言執行者は相続人の利益のために遺言の執行を行う責任があり、遺言者の意思を実現するために存在します。
遺言執行者には、基本的には誰でもなることができますが、未成年と破産者を指定することはできません。
それらの方々以外であれば、相続人のうち誰か一人を指名することも可能ですし、家族ではなく知人に依頼することも、専門家である弁護士や行政書士などに依頼することも可能です。
遺言執行者について詳しくは以下のリンクからご確認ください。
合わせて読みたい:遺言執行制度と遺言執行者の義務について行政書士が解説
遺言執行者の人数に決まりはない
遺言執行者は一人である必要はなく、”何人でなければならない”というような決まりはありません。
極端な話をすれば、1人でも5人でも10人でも・・・多いほど良いというものでもありませんが、人数に決まりはありませんから、遺言執行者は何人いても構いません。
法律でも複数選任することも想定した法律となっています。
民法 第1006条 遺言執行者の指定
遺言者は、遺言で、一人または数人の遺言執行者を指定し、またはその指定を第三者に委託することができる。
上記の法律は、遺言書で複数人の遺言執行者を指定することもできますし、指定を第三者に委託することも可能ですという内容の規定です。
この条文からもわかるように、遺言執行者は一人でも構いませんが複数人選任することもできます。
遺言執行者を複数人選任すると役割分担ができる
遺言執行者を複数人選任するメリットは、役割分担ができることが挙げられます。
遺言執行者の任務は、故人の財産を処分し、新たな所有者へ移転させる手続きや各相続人や遺言者等へ連絡を取る、など多岐にわたります。
遺言執行の手続きは、普段生活を送る上で当然に行う手続きでもない上に法的な手続きに戸惑うことも多くあると思います。
遺言執行者一人では手続きが煩雑で難しいと感じる場合には、相続人のうち1人を遺言執行者として選任し、行政書士や弁護士などを一緒に選任することで、法的な手続きは専門家へ、それ以外の手続きは遺言執行者として指定した相続人が担う、というように役割分担をすることで遺言執行者の負担を軽減することができます。
遺言の執行者が遺言執行者一人では厳しいと想定される場合には、遺言執行者を複数人選任しておくと良いかもしれません。
合わせて読みたい:行政書士が解説!遺言執行者が複数いる場合、遺言の執行はどうなるのか?
遺言執行者が複数人の場合の任務執行には注意が必要
遺言執行者は複数人選択することも可能ですし、遺言執行者を複数人選択することで役割分担をすることができるというメリットがあるというお話しをしました。
しかし、遺言執行者がたくさんいればお仕事を分担することもできるし、いればいるだけ安心!!・・・というわけでもないのです。
遺言執行者が多くいれば一人ずつの負担が減るなどのメリットもありますが、注意すべきデメリットもあります。
遺言執行者の任務の執行方法は過半数で決定
遺言執行者には人数の制限もなければ資格制限もありません。
遺言執行者を複数人選任することのメリットもありますがデメリットも存在します。
それが以下の規定です。
民法 第1017条 遺言執行者が数人ある場合の任務の執行
第1項 遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第2項 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
この規定には、遺言執行者を2人以上指定した場合には、原則として遺産の維持管理といった保存行為を除いて、遺言執行手続きは遺言者の過半数を持って決めるという内容が示されています。
過半数以上の人が良いと思った方法を採用するのですから、最善の方法が採用されるという点ではメリットとも取ることができます。
そもそも遺言執行者を選任することは、遺言執行の手続き等を相続人それぞれに任せるのではなく、遺言執行者に集約して手続きを簡易にできるようにすることにメリットがあります。
しかし、遺言執行すべての事項に遺言執行者の多数決が必要となると、かえって面倒にもなりかねません。
各遺言執行者に単独の執行権を付与できる
この点については、それぞれの遺言執行者に単独で遺言執行手続きができるように遺言書に書き加えることで各執行者の職務内容を決定することも可能であるため、デメリットを回避するという手もありますが、やはり遺言執行者を複数人選任する場合には注意が必要です。
むやみやたらに遺言執行者をたくさん選任することはあまりおすすめできません。
合わせて読みたい:遺言執行者に選任されたけど誰かに代わって欲しい!法改正があった執行者の代理人
遺言執行者を追加選任することも可能
遺言書で遺言執行者を複数人指定するだけではなく、相続開始後に遺言執行者を追加選任することも可能です。
一般的には遺言執行者がいれば追加で遺言執行者の選任申立てをする必要はありませんが、以下のようなケースでは追加選任することも可能です。
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遺言執行者が偶数である場合
遺言執行者が複数人いる場合には、任務の執行は過半数の同意で決定されます。
しかし、遺言執行者が偶数の場合、可否同数で遺言執行が進まない場合があります。
遺言執行を進めるためにも、家庭裁判所に追加で遺言執行者の選任申立てをすることができます。
特定の財産について遺言執行者を定めていない
例えば、遺言執行者を2人指定していて、それぞれに役割分担を定めていたとします。
<例> 遺言執行者である長男Aは、不動産についてのみ権限を有する。 遺言執行者である長女Bは、預貯金についてのみ権限を有する。 |
財産が不動産と預貯金だけであれば問題はありませんが、そのほかにも財産がある場合にはそのほかの財産について権限を有する遺言執行者がいないことになります。
そのほかの財産について遺言執行をしてもらうために、追加で遺言執行者の選任申立てをすることができます。
遺言執行者がいなくなってしまった場合
遺言執行者を複数人選任し、それぞれ遺言執行者に役割分担を定めていた場合、遺言執行者が亡くなってしまうとその亡くなった方が担っていた部分について遺言執行者がいなくなってしまいます。
そのため、遺言執行者がいなくなってしまった部分については遺言執行者を改めて選任してもらうことができます。
遺言書で予備的に遺言執行者を指定することができる
遺言書に遺言執行者を選任しているにもかかわらず、遺言執行者が先に亡くなってしまったり、遺言執行の任務を行うことができなくなってしまう場合も想定されます。
上で説明した通り、遺言執行者がいなくなってしまった部分について改めて遺言執行者の選任を行うことは可能ですが、遺言者が依頼したい人にお願いできるとも限りません。
そのような場合に備えて、”遺言執行者がいなくなってしまった場合には”という条件付きで遺言執行者として指定する、つまり第2候補の遺言執行者を選任することができます。
人はいつどこで何が起こるかわかりません。
遺言執行者を複数人指定する場合には、予備的に遺言執行者を選任することも検討してみてはいかがでしょうか?
合わせて読みたい:相談事例:行政書士が解説!遺言に条件を付ける「停止条件付遺贈」について
遺言執行者を複数選任する場合、遺言書の書き方には注意が必要
遺言執行者を選任する場合、すべての遺言執行者が権限を持つことになります。
そのため、上でご説明した通り、意見が割れた場合には過半数の同意で決することとなりかえってややこしいことになりかねません。
そのため、複数選任してそれぞれの遺言執行者の負担を減らすことを目的とする場合には、遺言書で誰に権限を与える、ということや、遺言者がいなくなってしまった場合には第2順位の遺言執行者を選任するなど様々な方向へ気を配る必要が出てきます。
相続人の方を困らせたくなくて遺言書を用意される方がほとんどであると推察されます。
相続人の方の負担軽減のために、複数の遺言執行者を選任なさる場合には専門家である行政書士へご相談ください。
<参考文献>
・常岡史子/著 新世社 『ライブラリ 今日の法律学=8 家族法』