「死んだ後に離婚なんてできるの?」
「死後離婚をするといったい何がかわるのでしょうか?」
「最近死後離婚が増えていると聞くけど、それはなぜ?」
・・・
今や日本の夫婦の3組に1組は離婚すると言われています。
ただ、配偶者が生きている間に離婚する通常の離婚だけでなく、「死後離婚」も増えているという事はご存知でしょうか?
下のグラフは法務省戸籍統計からの引用ですが、2013年は2,743件であった婚姻関係終了届の件数が2016年までに6,042件と、3年間で2倍強に増えています。
死後離婚が増加している背景としては「家族」に対する概念の変化が挙げられます。
結婚したのはあくまでも配偶者とであり、配偶者の死亡により義父母や義兄弟とのつながりを感じない方や義実家との縁を清算したい方が死後離婚を選んでいます。
このコラムでは、死後離婚の概要を説明し、死後離婚により遺産相続や遺族年金、そして配偶者の家族たちとの関係にどのような影響を及ぼすかを解説します。
目次
死後離婚とは何か
死後離婚とは配偶者と死別した後に、配偶者の血族(義父母や義理の兄弟姉妹など)との親族の関係を終わらせる手続きのことです。
死後離婚という呼び方が混乱を招きがちなのですが、死亡した配偶者と離婚するのではなく、あくまでも配偶者の血族との親族関係を終わらせる手続きであることに注意してください。
正式には姻族関係終了届
また、死後離婚という名称の手続きはありません。
配偶者の死後に「姻族関係終了届」を市区町村役場に提出することで配偶者の親族の関係を終わらせることから、この行為の総称として死後離婚と呼ばれています。
ここで、姻族関係の終了を規定する民法728条を見てみましょう。
民法728条
1. 姻族関係は、離婚によって終了する。
2.夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。
つまり、配偶者が死亡したあとに姻族関係終了届という意思表示をすることで配偶者の血族との姻族関係を終了させることができ、これが死後離婚と一般的に呼ばれている、という事になります。
生前の離婚と死後離婚の違い
生前に配偶者と離婚すると、夫婦は他人同士になり戸籍も分離されます。
離婚したのちは他人になりますので、一方が死亡した場合は遺産を相続することができず、遺族年金を受け取ることもできません。
死後離婚では、配偶者の血族との姻族関係が終了するだけであり戸籍上の配偶者との関係は変わりません。
よって配偶者の遺産は相続でき、一定の要件を満たせば遺族年金を受け取ることもできます。
姻族関係終了届の提出方法と記載事項
姻族関係終了届は、姻族関係を終了させる意思を持つ死亡した人の配偶者が単独で届け出ることができます。
嫁や婿との関係が悪い等の理由で、死亡した人の親や兄弟姉妹が届け出ることはできません。
姻族関係終了届の提出方法
また、姻族関係終了届を提出するのは本人でなくても可能です。
代わりに提出する人はただ届けるだけで意思決定を行わないため、委任状は不要です。
姻族関係終了届の提出に期限はありません。配偶者の死亡届を提出した後であれば、いつでも提出できます。
姻族関係終了届の記載事項
姻族関係終了届に記入する事項は下記の通りです。
- 姻族関係を終了させる人の氏名・生年月日・住所・本籍
- 死亡した配偶者の氏名・死亡日・本籍
- 届出人の署名・押印(押印は任意の場合あり)
姻族関係終了届は、本籍地または住所地の市区町村役場の窓口に持参または郵送します。
本籍地以外で届け出る場合は、戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)も必要です。
死後離婚のメリットやデメリット及び注意点
それでは死後離婚をメリットとデメリットの両方から解説し、最後に注意点を説明します。
死後離婚のメリット
まず死後離婚により得られるメリットを見ていきます。
遺産相続や遺族年金に影響がない
死後離婚をしても亡くなった配偶者との関係は変わらないため、相続の権利には影響はなく、亡くなった配偶者の遺産を相続することができます。
また、支給の要件を満たしていれば遺族年金をもらうこともできます。
遺族年金をすでにもらっている場合も、引き続きそれまでどおりもらうことができます。
心理的な「区切り」がつけられる
配偶者の親は直系血族ではないので、本人は原則として扶養義務は負いません。
それでも本人から見て配偶者の親は3親等内の親族関係にあるので、家庭裁判所が特別の事情が認めれば扶養義務を負わされる場合があります。しかし3親等内の親族は広範囲に及ぶので、よほどの事がない限り扶養義務を負うことはないと考えられています。
ただ、法的に義務はないとはいえ、姻族関係が続いていると心理的に断りにくい部分もあるでしょう。
死後離婚をすることで義理の親との心理的な区切りをつけることで、「生活費を入れてほしい」とか「介護を手伝ってほしい」などといった要求があったとしても断りやすくなります。
死後離婚のデメリット
次に、死後離婚のデメリットについて解説します。
配偶者血族との今後の関係が難しくなる
死後離婚は一方的に親族関係に区切りをつける手続きです。
死後離婚をすることで義理の親の扶養や介護について心配する必要はなくなりますが、反対に義理の親に頼ることもできなくなってしまいます。経済的な援助を受けたりすることは期待できなくなるでしょうし、同居を解消するとなると新たな住まいも探さなければなりません。
子供がいる場合は子供との関係に影響を及ぼす可能性がある
死後離婚をしても、自分の子どもと配偶者の両親との血族関係は継続します。
子供にとっておじいちゃん、おばあちゃんは変わらないのです。
死後離婚をすることで子供にどのような影響を及ぼしてしまうかは、慎重に考える必要があります。
死後離婚に関する注意点
最後に、死後離婚を考える上で注意しておくべき点を解説いたします。
死後離婚は取り消すことができない
死後離婚は、一度行うと取り消すことができません。
デメリットで述べた点はもとより、思いもよらなかった事情が発生した場合の事も考えて死後離婚を検討しましょう。
死後離婚は相続放棄ではない
仮に亡くなった配偶者に借金などマイナスの財産があった場合、相続放棄をすることで返済義務を免れることができます。
しかしながら、死後離婚をしても相続放棄をしたことにはなりません。
死後離婚をしても遺産を相続できるということは、借金などの返済義務も引き継がなければならないということでもあります。
相続放棄をしたい場合は、死亡から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。
旧姓に戻すには復氏届を出す必要がある
死後離婚を出しても戸籍は変わらず、引き続き配偶者と同じ戸籍に入っている状態が続くのは先に述べた通りです。
配偶者の戸籍から抜けて旧姓に戻したい場合は、死後離婚とは別に改めて市区町村役場に「復氏(ふくうじ)届」を提出する必要があります。
復氏届を提出すると、婚姻前の戸籍に戻るか新しい戸籍を作ることができます。
死後離婚をしなくても再婚はできる
死後離婚をしなくても残された配偶者は再婚することができます。
死後離婚をしないで再婚した場合、亡くなった元の配偶者と再婚した新しい配偶者の両方の血族と姻族関係がある状態になります。
姻族関係が二つあっても現実的に問題になるケースは少ないと思いますが、どうしても気になる場合は死後離婚を検討する必要があります。
死後離婚はメリットも多いが元に戻せないので慎重に
死後離婚は、死別した配偶者の親族との姻族関係を終了できる手続きです。
死亡した配偶者と離婚する手続きではないので、相続した財産を返す必要はなく、遺族年金もそれまでどおりもらえます。
しかしながら死後離婚は取り消しができず、子供を含めた家族関係に大きな影響を及ぼすため慎重に判断することをおすすめします。
もし死後離婚に関して少しでも不安に思ったり疑問が残る場合は、是非長岡行政書士事務所にご相談ください。