「延命治療を続けるのではなく、人として自然に死にたいのだけど、なにか準備しておくべきなのでしょうか」
「安楽死という言葉はよく聞くけど、尊厳死も同じ意味なの?」
「尊厳死のために公正証書を作るだなんて大げさな気もするけど、用意しておいたほうがいいの?」
皆様は尊厳死という言葉を聞いた事はありますか?
字面より受ける印象は「尊厳を保ちながら死ぬ」といった感じでしょうか。
では、尊厳を保ちながら死ぬということはどういうことなのでしょう。
平成29年の厚生労働省による意識調査によると、6割超の回答者が死に際し自分で意思決定できなくなった時に備え、事前に指示を残しておくことに賛成しています。
では、「もう体が自由に動かなくなったら薬を投与して眠るように死亡させてほしい」といったような希望は通るのでしょうか。
これは尊厳死?それとも安楽死?
本日のコラムでは尊厳死の定義と現在日本が置かれている状況、終末期においてどのように意思表示するのか、さらには尊厳死宣言公正証書の作り方について、行政書士が解説します。
目次
尊厳死とは
まず尊厳死とは何か、その定義を確認しましょう。
日本医師会のホームページからの引用を紹介します。
「尊厳死」とはリビングウィル(LW)を尊重して終末期に延命治療を差し控えるとともに充分な緩和ケアを受けた先にある自然な最期である。差し控えるとは、種々の延命治療の「不開始」ないし「中止」である。「不開始」は自然死や平穏死とも呼ばれている。
【終末期医療】C-1.終末期医療の在り方
さて、ここで言うリビングウィルとは「生前の意思表示」を意味します。
医療従事者は自分の判断で患者の延命治療を止めたりすることはできません。
もう助かる見込みがないのが明白でも、患者が苦しんで家族が自然な死を望んでいても、患者本人の意思表示がないと治療を継続しないといけません。
そのような事態に備え生前のうちに延命治療に対する考えを書いておけば、医療従事者もその希望に従った処置ができる可能性が高まります。
なお、尊厳死と安楽死は、似て非なるものです。
そもそも安楽死は人為的に寿命を短くさせる行為です。
人為的、というのは例えば苦しむ患者を救うために薬物を投与したり、人工呼吸器を外したりといった積極的な行為により患者の寿命を短くすることを指します。
対して、尊厳死は治療を開始せずもしくは中止して、自然な経過に任せた死を迎えてもらう消極的な行為を指し、患者の意思に基づき治療から痛みや苦痛の緩和に軸足を移し、元々の寿命を全うしてもらうことに主眼をおいています。
また、特に気をつけるべきは、安楽死はいかに患者からの希望であっても日本では違法であるということです。
世界では安楽死がオランダ、ベルギー、ルクセンブルクといった国で合法化されていたり、医師に自殺を幇助してもらう(=医師幇助自殺)が利己的な動機でなければ許容されるスイスといった国も出てきています。
しかし未だ多くの国では安楽死が違法とされており、死ぬ権利との兼ね合いや倫理的な観点から議論が続けられています。
尊厳死と法律の関係
尊厳死に関しても実は明確に規定した法律は日本に存在せず、法律上はグレーゾーンにあると言えます。
過去には末期癌患者に延命措置を行わなかったケースや(=富山県射水市民病院事件)、脳死患者の人工呼吸器取り外しに医師が関与したケース(=羽幌病院事件)があり、厚生労働省も終末期医療に関するガイドラインを発表しています。
人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
現実問題として尊厳死を望む人にとっては、自分の意思を明確に表しておいたり、健康なうちに周囲に意思を伝えたりという準備を進めておくことで自分の意思に沿った尊厳死を迎えることが可能になります。
尊厳死を希望する方法
では、尊厳死を希望するとしても、具体的にどのような準備を進めておくべきなのでしょうか。ポイントは次の2つです。
- 尊厳死の希望を生前に書面(尊厳死宣言公正証書)にする
- 遺言書による尊厳死の意思表示は効果が生じない
それぞれ詳しく解説します。
尊厳死の希望を生前に書面(尊厳死宣言公正証書)にする
多くの場合、終末期の患者は意識を失っていたりして自分で意思表示をすることが難しい状況にあります。
そして医療従事者は患者の意思表示がないと、いくら従前に尊厳死を希望する発言をしていたとしても尊厳死に踏み切れず、結果として延命治療をし続けるリスクがあります。
先ほどリビングウィルを生前の意思表示と述べましたが、実はリビングウィルには決められた書面や形式があるわけではありません。
極端な話レストンランの紙ナプキンへの走り書きもリビングウィルにはなり得ますが、そのような走り書きに基づいて延命治療を止めてくれる医療従事者はまずいないでしょう。
きちんとした書面や形式に則って自身のリビングウィルに「重み」をもたせる必要があります。
そこで尊厳死を希望する場合に残しておきたいのが、この記事のテーマである「尊厳死宣言公正証書」です。
公正証書とは、社会的に信用の高い公証人に書いてもらう書面です。 お金の貸し借り等では、この公正証書を使うことで、公証人の面前で本人の意思を確認するので文書の成立について真正であるとの強い推定が働き、信頼できる書面ともいえます。
この公正証書を、尊厳死の意思表示にも活用できます。
公証人に尊厳死の意思を記した尊厳死宣言公正証書を作成してもらえば、後に尊厳死を選択する場面になった時に、周囲の医療従事者からの理解を得やすくなるのです。
遺言書による尊厳死の意思表示は効果が生じない
ここでまで読んで「書面に残せばいいのなら、遺言書に尊厳死の意思を書けばいいのでは」と思われた方もいるかもしれません。
確かに遺言書も自身の死に関連した文書であり、遺産は遺言の内容に沿って分割されるので十分重みがあるように思えます。
しかし、遺言には主に遺産の分割といった法で定められた内容(=法定遺言事項)しか書く事ができず、延命治療の拒否は法定遺言事項ではありません。
せっかく遺言に尊厳死についての意思を書いても、法的効力は生じないのです。
また、遺言は書いた本人が亡くなることで初めて効力を発揮するので、亡くなる前だと尊厳死を希望した遺言はまだ効果がありません。
つまり、しっかりと尊厳死について意思表示するためには、尊厳死宣言公正証書を残す必要があります。
尊厳死宣言公正証書の作成方法
尊厳死宣言公正証書を作成したい場合は、まず尊厳死を希望する旨を記した原案を作成し、最寄りの公証役場に予約を入れて後日公証人と打ち合わせます。
そして原案の意図をくみ取った文案を公証人に作成してもらうことになります。
公証人というプロが文案を作成してくれるので、確実に有効なリビングウィルとなります。
しかし、いきなり公正証書の原案を考えるといっても、法律に詳しくない方にとってはハードルが高いのではないでしょうか。
ひとりで原案を考えることに難しさを感じたり、どこから公証人との交渉を始めるべきか迷われた場合は、ぜひ専門家のサポートを利用することを考えてみてください。
横浜市の長岡行政書士事務所でも、尊厳死宣言公正証書の作成についてサポートしています。遺言書の作成とあわせたご相談も可能です。初回相談は無料なので、「具体的な手順を知りたい」「作成にかかる費用が知りたい」「どのくらいの時間で作成できるのか知りたい」という方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。(病院などへお伺いすることも可能です)