「うちの子はまだ小さいので、夫の遺産を分割するとき私が代理人になってあげたいのですが何か問題がありますか」
「利益相反の具体例を教えてください」
「実際に利益相反になってしまった時、どのように解決すればいいのでしょうか」
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遺産相続の手続きにおいて、相続人の中に18歳未満の未成年の子がいた場合はなにか特別な手続きが必要なのでしょうか。
未成年の子でも相続は受けられるかと心配される方はいらっしゃいますが、実は相続自体は年齢に関係ありません。
民法第3条で「私権の享有は、出生に始まる」と定められており、人は生まれながらに権利の主体として認められています。
さらに相続に関しては特別な条項があり、民法第886条で「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と定められています。
つまり相続開始のときに生まれていなくても、胎児として存在していれば相続人となることができるということです。
しかし本当に注意しなければいけないのは未成年が相続人になれるか否かでなく、相続を問題なく完成させられるかの手続きの方であり、もっと言うと未成年が相続人の場合の利益相反を避けなければいけない点になります。
このコラムでは未成年が相続人になる場合に注意すべき利益相反を説明し、具体的に親は未成年の子の代理人になれるのかと、利益相反を解決するための方法を解説します。
目次
利益相反の内容と相続への影響とは
利益相反とは、ある行為により一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為のことを指します。
これだけだとわかりにくいかもしれませんので、ケースを用いて理解を深めていきましょう。
親と子が共同相続人になったケース
夫A、妻B、未成年の子Cの3人家族がいて、夫Aが不幸にも亡くなってしまったとします。
そして夫Aは遺言を作成していませんでした。
この場合残された妻Bと子Cは夫Aの財産を共同で相続することになりますが、遺言がないので妻Bと子Cの間で遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議は原則相続人が全員参加し遺産の分け方につき合意に至る必要がありますが、ここで問題となるのは未成年者は遺産分割のような法律行為を単独で行うことができない事です。
よって未成年者は親権者の同意を得るか親権者が代理をする必要があります。
未成年との利益相反は外形的に判断する
このケースで普通に考えると、子Cがまだ小さいので母である妻Bが自分と子Cの分の遺産分割を決めてしまって問題ないように思えます。
どうせ子を養うのは私だし、大きくなったらこの財産は子に受け継がれるし・・・と考えるかもしれません。
しかし、これは利益相反になり無効な法律行為となってしまいます。
法律では、妻Bが自分と子Cの両方の遺産分割を全部やってしまうと、例えば子Cの分の財産を妻Bが独り占めしてしまうリスクがあると考えます。
大多数の親はまさかそんなことはしないでしょうが、法律はあくまでも外形的に、つまり他人が外から見てわかる行為や状態で判断します。
よって親が子の遺産を独り占めしてしまう可能性が排除できない以上、それを防ぐため法律は予防的措置として家庭裁判所による特別代理人の選任を定めています。
合わせて読みたい:未成年がいる場合の遺産相続の注意点を行政書士が解説!~ポイントと対策について~
子の利益を守るため特別代理人を選任する必要
民法第826条によると、利益相反行為にあたる場合には、子のために特別代理人の選任が必要とされています。
第826条 利益相反行為
1.親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2.親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
特別代理人とは申し立てにより家庭裁判所から選任してもらう人で、子の代理として親権者と交渉をします。
上記の例でいくと、妻Bは家庭裁判所に申し立てをして子Cの為の特別代理人を選任してもらい、その特別代理人と妻Bとの間で遺産分割協議を行うという事になります。
合わせて読みたい:未成年がいる場合の遺産相続とは~特別代理人の概要とその選任方法
特別代理人選定の手続方法
家庭裁判所への申し立てには、以下の書類を準備する必要があります。
- 申立書(裁判所のホームページでもダウンロード可能)
- 未成年者・親権者の戸籍謄本
- 遺産分割協議書案などの利益相反に関する資料
- 特別代理人候補者の住民票
申し立てをすることができるのは、親権者かその他の法定相続人などといった利害関係人となります。また、申し立て先の家庭裁判所は未成年者である子の住所地の管轄家庭裁判所です。
以下の裁判所のホームページ内にも特別代理人選任に関する説明があり、また管轄家庭裁判所を検索することができますので是非参考にしてみてください。
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_11/index.html
未成年がいる場合の相続は遺言書を作成することが重要
遺産相続は家族の内部事情にもかかわるデリケートな問題でもあります。
また、家族が亡くなって悲しみにくれる中、外部の人間になる可能性のある特別代理人を家庭裁判所に申し立てないといけないのはできるだけ避けたいと思う方が多いでしょう。
更に、この特別代理人はあくまで未成年の子の権利保護が目的なので、家族の事情に応じた柔軟な対応をすることが認められていません。
仮に子の方から苦労をしている母にすべての遺産を受け取ってもらいたいと願っても、そして母も子が成年になるまできちんと養い、いずれ遺産を全て引き継いでもらいたいと考えていても、子が未成年である以上特別代理人を選任しなければならず、その特別代理人は子の法定相続分を守る事に集中しないといけません。
ある意味、誰も望まない形の相続になる可能性があります。
遺言書があれば未成年の相続には有効
ここで、遺言があれば故人の意思として最も尊重されることに注目してください。
先ほどからの例で夫Aが万が一に備えて遺言を作成していたら、子が未成年であっても遺言の内容通りに相続が行われます。わざわざ特別代理人を選任する必要はありません。
よって仲のいい家族こそ、元気なうちに遺言をかいておくことが大切だと言えます。
遺言には主に2タイプあり、公正証書遺言は公証人に依頼をしたりと敷居が高いかもしれませんが、自分で書く自筆証書遺言であれば書き始めやすいでしょう。
ただ、自筆証書遺言にも形式の順守が求められたり、検認といった手続きを踏む必要があったりと注意が必要です。
あわせて読みたい>>>自筆証書遺言の検認って何のこと? 検認の目的と具体的な流れを解説!
未成年の相続のことを相談するなら専門家へ
その為にも普段から未成年の相続のような相談ができるような「かかりつけの法律家」を持つことをお勧めします。
かかりつけのお医者様がいれば普段から自分の体を知ってもらえるのでより安心なのと同様に、自分の事情や悩みを知ってくれている法律家がいるのは大いに心強いことです。
長岡行政書士事務所は相続の経験が豊富にあり、相談者様に寄り添った相続をモットーとしております。
ご不明点や心配な点がある場合は是非ご相談ください。