内縁の配偶者がいるけど相続になったら財産はどうなるのだろうか。法律では法定相続人が決まっているので、もしかしたら財産を相続できないかもしれない。
そんな相続問題に関して、実際にどのように解決していけばいいのか。
そこで今回は、内縁の配偶者の相続問題を、行政書士の監修のもと、物語風のストーリー形式で解説します。
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
2人の飼っていた愛犬、シロが「ここ掘れわんわん」と小判を探り当てるやいなや、なんと2人は大金持ちになってアゲアゲ状態に。
その姿を見ていた神様が、「お前はいい子だから人間にしてやろう」とピノキオさながらの魔法をかけ、人間になることができました。
おじいさんの遺言書を見たことがきっかけとなり、遺言問題に目覚めたシロは、生家を行政書士事務所に改装。
「シロ行政書士事務所」は、近隣の村人たちが次々と遺言がらみの相談をしてくるようになりました。
さてさて、今回は、そんなシロのもとに、またひとり、相談者のおじいさんがやってきましたが…。
目次
内縁の配偶者に相続権は発生する?
おじい「おお、シロや、少し見ないうちに立派になったもんじゃのう」
シロ「おや、川向うの村のおじいさん。少し見ないうちに変わることなくジジイですね」
おじい「…口が悪いのう。まあじいさんはそうそう変わらんのは世の常じゃ。今日は花咲のじいさんばあさんの墓参りでもしようかと思ったら、お前さんが事務所を構えておるでな。ひとつ相談に乗ってほしいなと思ってのう」
シロ「どうなさいましたか?」
内縁の配偶者は法定相続人にはなれない
おじい「実は、ずいぶん前にばあさんと別居状態になったんじゃが、その後、まあ…「ぱあとなあ」というのができてな。ばあさんとは離婚協議中じゃから籍は入れておらんのじゃが、遺産を残してやりたいと思うておるんじゃ」
シロ「なるほど、要するにばあさんに捨てられそうになったところ、かろうじて拾う神がいたということですか」
おじい「ミもフタもないのう」
シロ「で、内縁の配偶者に遺産を残す方法を知りたいわけですか。でも何もしないと、内縁の配偶者には遺産を残せませんよ」
おじい「なんでじゃ?」
シロ「婚姻届を出していないと法律上の配偶者として認められないんですよ。となると、遺産相続をすることができる権利、つまり相続権が発生しないわけです」
おじい「それは困ったのう…」
シロ「仮に籍を入れないまま、おじいさんが何もせずくたばったとしましょう」
おじい「…言い方」
シロ「そうすると2つの方法で遺産が承継されます。ひとつは、法定相続人が法律で決まった相続割合で遺産を承継する法定相続。もうひとつは、法定相続人全員で分割の仕方を話し合う遺産分割協議が行われるという方法です」
法定相続人とその範囲
おじい「ふむ。法定相続人というのはどんな人なんじゃ?」
シロ「法定相続人については、私の先輩にあたるひまりさんがまとめていますから、こちらを読んでみてください」
あわせて読みたい>>>新人補助者ひまりの事件簿① 法定相続人の範囲~配偶者と子供編~
あわせて読みたい>>>新人補助者ひまりの事件簿② 法定相続人の範囲~配偶者と両親編~
おじい「ふむふむ、このひまりちゃんというのは元気が良くていいのう。わしがあと10年若かったら…」
シロ「相手にされねーよ」
おじい「…もっとジジイをいたわらんかい」
シロ「いずれにせよ、内縁の配偶者は法定相続人に含まれません。ということは法定相続と遺産分割協議のどちらにも参加できないんです。そういう法律になっているいんですよ」
内縁の配偶者に遺産を遺す方法とは?
おじい「なんてこった。じゃあ、どうすればいいんじゃ」
シロ「ひとつだけ手があります。遺言を書くんです」
おじい「遺言を書くと、内縁の配偶者に遺産を残せるのか?」
内縁の配偶者へ遺言書を遺す
シロ「はい。遺言書は、故人の生前の遺志として強い効力を持ち、法定相続よりも優先されるんですよ。つまり、おじいさんの気持ちが法律より優先されるんです」
おじい「ふおお、そんな制度があったとは」
シロ「でも気をつけなくてはいけないことがひとつあるんです」
おじい「わしの字が汚いとか、そういうことか?」
シロ「…それも問題ですけど、遺留分というものがありましてね。要するに遺産の取り分は民法で決められているので、そこは守らないといけないということです」
おじい「なんだか難しそうじゃが、どういうものなんじゃ?」
シロ「いま、離婚協議中のおばあさんがいますよね…おじいさんを捨てたがっている」
おじい「うるせえ」
シロ「おばあさんとの別居が長いので、内縁の妻ができた。なのでおじいさんが「全財産を内縁の妻に譲る」と書いた遺言を残したとしましょう」
おじい「うむ」
シロ「離婚協議中であってもまだ本妻であるおばあさんは、おじいさんと法律上の婚姻関係にあります。つまり、おじいさんの財産に対して遺留分を持っています」
遺言書で注意しておきたい遺留分
おじい「その遺留分というのは、どういうものなんじゃ?」
シロ「簡単に言うと、一定範囲の法定相続人に対して、法律が保障した遺産を最低限受け取ることのできる割合のことです」
おじい「なるほど。法律上の妻の権利を、法律が保証しているわけか」
シロ「そういうことです。つまり、内縁の妻に全財産が受け継がれた後、おばあさんから、今一緒に暮らすパートナーに遺留分をよこすよう請求できるです。これを遺留分侵害額請求といいます」
遺留分について詳しくはこちら:遺留分とは?具体例や侵害された遺留分請求方法を分かりやすく解説!
おじい「まあ、それなら払うしかないじゃろうな」
シロ「でも、この遺留分は金銭で払うものなんです。ということは、遺産が不動産などの場合は、別途金銭を準備しなくちゃいけません。もしそうなると、お金がないのに支払い請求だけ来ることになりますよね」
おじい「ふおお、そんなことしたらぷりんちゃんが困ってしまう…」
シロ「ぷりんちゃん?」
おじい「言っておらなんだかの? 「ぱあとなあ」のぷりんちゃん。20歳じゃ」
シロ「…は?」
おじい「なんじゃなんじゃ、キツネにつままれたような顔をしおって。わしもまだまだ捨てたもんじゃなかろ?」
ぷりん「あ、いたいた~! おじいちゃん、もう探したんだぷー」
おじい「おお、ぷりんちゃん。すまんすまんぷー」
シロ「…ぷー?」
おじい「ああ、すまんのう、シロ。うらやましいか?」
シロ「…さっき説明したように、遺留分の侵害は後々トラブルを引き起こす可能性がありますから、内縁の配偶者に遺産を引き継がせるために遺言を作成しようと考えている場合は十分遺留分に注意してくださいぷー…」
合わせて読みたい:遺留分を侵害する遺言は無効ではない!相続トラブルを防ぐポイントを行政書士が解説
遺言により遺産を受け取った内縁の配偶者に税金はかかる?
シロ「あと、忘れてはいけないのが相続税です」
ぷりん「ぷりん、ちゃんと納税してるよ。納税は国民の義務だもんね」
おじい「ぷりんちゃんはえらいのう。ほれ、よしよししてあげるじょ」
シロ「…じょ?」
ぷりん「おじいちゃん、やさしいぷー」
おじい「で、シロ、相続税ってどういう話なんじゃ?」
内縁の配偶者でも相続税の納付義務が生じることがある
シロ「…法定相続人でなくても、内縁の配偶者が遺言により遺産を受け取った場合は相続税の納付義務が生じることがあります。この相続税は、通常の法定相続人が財産を相続した場合に比べ相続税が高くなる可能性があるんです」
ぷりん「ぷりん、やだぷー。安くしてぷー」
シロ「…このこみ上げてくる気持ちが…殺意とやらか」
おじい「ほれほれ、ぷりんちゃん。おりこうさんに話を聞きましょうねー。シロや、どうして相続税が高くなるんじゃ?」
内縁の配偶者の相続税が高くなってしまう3つの理由
シロ「いくつか理由があるんです。例えば土地。法定相続人であれば、受け取った財産に土地が含まれている場合、小規模宅地等の特例を適用し不動産の評価額を下げて相続税を軽減できます。でもこの特例は親族にしか適用されないので、内縁の場合はこれができません」
おじい「むう」
シロ「次に基礎控除です。内縁の配偶者は基礎控除の計算である「3000万円+(法定相続人の数)×600万円」に含まれないので、内縁の配偶者だけでなく他の法定相続人にとっても結果として相続税が高くなる可能性があります。しかも1親等の血族(配偶者、子、父母)以外の者が相続すると相続税額が2割増額されます」
おじい「むむう」
シロ「最後に、配偶者控除。これはめちゃくちゃ強力な控除で、法定相続分に相当する金額、または1億6000万円までは相続税が免除されるという規定です。絶対にその恩恵を受けておきたいところですが、内縁の配偶者の場合は受けられません。つまり、税金の支払い総額が大きくなるんです」
おじい「むむむむう」
ぷりん「ねえ、おじいちゃん! 話がちがうっぽくない? ぷりん、おじいちゃんの遺産を全部もらえるって聞いてたぷー!」
おじい「お、おおお、うううむ」
内縁の配偶者に財産を渡す場合は遺言書を作成すること
シロ「いずれにせよ、ぷりんちゃんに遺産を残したいなら、遺言書を書いておくことをお勧めしますが…その前に、もうひとつお勧めしたいことがあります」
ぷりん「なによ、まだあるの?」
シロ「お前、キツネだろ? においでわかるぜ。人をだまくらかそうとする、悪意のにおいでな」
ぷりん「な、なにかの見間違いでしょ、コーン」
シロ「ほら、コーンって言った。おじいさん、もうひとつのお勧めというのは、このキツネをさっさと追い出すことですよ。どうせおばあさんとの別居にかこつけて、おじいさんの遺産を狙ってすり寄ってきたんでしょう」
ぷりん「ケッ、においやシッポに気づくとは…こうなったらこんなジジイに用はねえよ。ついてねえぜ、撤収だ」
おじい「…なんとわしは、キツネに化かされておたのか」
シロ「内縁の配偶者への遺産でお悩みの方は少なくありませんが、おじいさんはそれ以前の問題でしたね。でもよかった」
おじい「そうじゃな。ありがとうやシロ。もっとも遺言が大切だということはよくわかったぞい。またいろいろ教えてくれな」
シロ「ええ、いつでもきやがれってもんです」
おじい「…言い方」
この記事を詳しく読みたい方はこちら:内縁の配偶者がいる場合の相続に関する注意点と解決方法を行政書士が解説!